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小野島大が分析する、佐久間プロデュース哲学の成立過程

音楽プロデューサー佐久間正英の偉大なる軌跡 最後の作品集『SAKUMA DROPS』を紐解く

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 去る1月16日に末期がんの闘病の末、亡くなったプロデューサー佐久間正英のプロデュース作品集『SAKUMA DROPS』がリリースされた。2枚組全34曲、古くは78年11月発表の遠藤賢司『東京ワッショイ』に始まり、昨年暮れに録音され、死の当日にマスタリングにOKを出したという自身のソロ曲「Last Days」まで、足掛け37年にも及ぶ作品を収録している。少なくとも日本のロックで、これほど長い間現役第一線のプロデューサーであり続けた例は、ほとんど思いつかない。同作に収録された、まさしくキラ星のごとく並んだスターたちを見れば、彼が日本のロック史に果たした役割が理解できるだろう。とりわけBOØWY、ブルーハーツストリート・スライダーズなどバンド・ブーム黎明期から、エレファントカシマシJUDY AND MARYGLAY黒夢くるりなど日本のロックが音楽的にも商業的にも大きな発展を遂げた80年代後半から90年代にかけての功績はきわめて大きい。

 プロデューサーが、どの作品やアーティストに対しても自分の色を強く出していくアーティスト・タイプと、エゴを抑え相手や楽曲に合わせていく調整型のタイプに分かれるとすれば、佐久間は後者だ。一般に前者はミュージシャン出身のプロデューサーが多く、後者はエンジニア兼任の、いわば裏方出身が多いことを考えれば、元四人囃子/プラスティックスという経歴を持つ佐久間はかなり異色な部類に入るだろう。『SAKUMA DROPS』のライナーに引用された佐久間の発言にもあるように、そのプロデュース哲学は「それ(エゴや自意識)が出たら負けですね。佐久間がやったと思われたらおしまい。音楽はアーティストのものであってプロデューサーのものではないです」という言葉に集約される。

 佐久間は日本を代表するプログレッシヴ・ロック・バンドの四人囃子のメンバーだった。途中からバンドに加わった佐久間は、フロントマンだった森園勝敏の脱退に伴って楽曲の多くを手がけるようになる。この過程で四人囃子は次第にポップ/ニュー・ウエイヴ色を強めていった。『PRINTED JELLY』(1977年)『包(bao)』(1978年)『NEO-N』(1979年)といった後期の作品がそれだ。経緯からみてもこの時期の佐久間の役割はプロデューサーに近いものだったはずだが(プロデュース表記は四人囃子になっている)、『SAKUMA DROPS』には四人囃子の作品は収録されていない。これは「自分のエゴや自意識が出たものは自分のプロデュース仕事とはいえない」という彼の哲学ゆえだろう。メンバーとして中心的な役割を果たし、楽曲も手がけたこの時期の作品は「アーティスト佐久間正英」であって「プロデューサー佐久間正英」の仕事ではないというわけだ。では『SAKUMA DROPS』に、同様にメンバーだったプラスティックスが収録されているのはなぜかと言えば、そもそもプラスティックスのコンセプトは中西俊夫、立花ハジメ、佐藤チカの3人によって作られていたこと、そもそも佐久間はプラスティックスにメンバーというよりプロデューサーとして関わることを望んでいたらしいという中西の証言があり(中西俊夫の自伝『プラスチックスの上昇と下降、そしてメロンの理力』内の記述より)、メンバーとはいえ佐久間は、プラスティックスにアーティストではなくプロデューサーとしてサウンド作りを手伝っていたという意識が強かったからだろう。

 四人囃子時代から歌謡曲などでプロデュース的な仕事を始めており、また遠藤賢司『東京ワッショイ』(78年11月)では実質的にサウンド・プロデューサーとして作業していたものの、佐久間が公式に「プロデューサーとしての最初の仕事」と認めるのは、P-MODELのデビュー・シングル「美術館で会った人だろ」(79年4月)と、ファースト・アルバム『IN A MODEL ROOM』(79年8月)である。これは、プロデューサーとして初めて正式に契約書を交わした、いう意味のようだが、佐久間のブログには、プラスティックスのライヴを見に来たP-MODELのリーダー、平沢進に直接プロデュースを頼まれたことが記されている。平沢によれば佐久間からプロデュースしたいと申し出があったということだが(『電子音楽インジャパン』田中雄二著より)、いずれにしろマンドレイクというプログレ・バンドからP-MODELというニュー・ウエイヴ・バンドに転身した平沢にとって、四人囃子⇒プラスティックスと、同じような道を辿っていた2歳年上の先輩・佐久間は頼りになる存在として映ったにちがいない。

     
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