「テレビ」から「ライブ」へ――倖田來未のALチャート1位に見る、Jポップの主戦場の変化

参考:2014年2月24日~2014年3月2日のCDアルバム週間ランキング(2014年3月10日付)(ORICON STYLE)

 倖田來未、11作目のオリジナルアルバム『Bon Voyage』が初登場1位。リミックスアルバムやカバーアルバムなど、産休後も相変わらずアルバムを連発している印象があるが、オリジナルアルバムとしては2年1ヶ月ぶり。今回約46.000枚と枚数的には少々物足りないが、前作『JAPONESQUE』に続いてオリジナルアルバムでは7作連続での1位。その根強い人気を見せつけた。

 既発のシングル曲以外、ほぼ全編アグレッシブなダンスナンバーで押し切った今回の『Bon Voyage』を聴いて改めて思うのは、女性シンガーの戦略が「バラードで浮動票を獲得する」ことから「アップテンポな曲でコアファンを放さない」ことへとシフトしつつあるということだ。近年の安室奈美恵の活動が象徴的だが、それはつまり「テレビ」から「ライブ」へとJポップの主戦場が変化していることを意味する。10年以上のキャリアの中で根強いファンベースを築いてきたような一部の「歌えて踊れる」女性シンガーにとっては、テレビで過剰露出をすることではなく、握手会をすることでもなく、ライブの現場でいかに渾身のパフォーマンスを見せるかということが重要になってきているのだ。

 その結果生まれるのが、今回の『Bon Voyage』のような、バラード中心でリスナーをまったりさせるのではなく、アップテンポの曲の連発でオーディエンスに対してわかりやすく「攻めてる」姿勢を打ち出したアルバムというわけ。一般的にCDセールスの下降傾向はアーティストに「守り」の姿勢を強要すると思われがちだが、創作面においては、実は「攻め」が最大の「守り」となる場合もあるということだろう。

 ファーストアルバム・リリース直後の武道館2日間公演、という大きなハードルを乗り越え、会場限定で販売された武道館盤の上乗せもあって一時はデイリーで1位も獲得したBABYMETALが、ウィークリーでは4位。これは、同じ事務所(アミューズ)の先輩Perfumeや、ロック系フェスにも積極的に参加することで音楽ファンの間で認知度を高めたももいろクローバーZ以来の、クロスオーバー系アイドルの快挙と言えるだろう。早くも海外進出を宣言して、新たなブランディング戦略にも余念がないBABYMETAL。アイドルの最前線では常に方法論が更新されていて、そこでは日々、成功例や失敗例が積み重ねられているが、BABYMETALが現在のような言葉本来の意味での「攻め」の姿勢をこの先どこまで貫くことができるのか、ワクワクしながら見守っていきたい。

 他に、今週のチャートで気になったのは7位の『HY SUPER BEST』。実は今週の11位にはHYのニューアルバム『GLOCAL』もランクインしていて、以前在籍していたレコード会社が同時発売でぶつけてきたベスト盤によって、結果的に心機一転の新作オリジナルアルバムのトップ10入りが阻まれたかたちとなった。一連のクリープハイプ騒動で昨今話題になりがちな「前レコード会社によるベスト盤リリース」問題。HYの場合も、バンドがライブでしか演奏しないと決めている楽曲「フェイバリットソング」の収録/未収録を巡って公式ホームページ上でバンド側から牽制があったが、結局今回のベスト盤には収録されなかったので、前レコード会社が歩み寄ったということなのだろう。

 この種の問題は、推測で語るような話題ではなく、かといって事実関係を耳にしていたとしてもそれを外部の人間から明らかにするべきものでもないので、結局は表に出ている事実関係がすべてということになる。そして今回のように、ファンの出した答えが、時にはバンドにとってシビアなものにもなり得るのだ。

■宇野維正
音楽・映画ジャーナリスト。音楽誌、映画誌、サッカー誌などの編集を経て独立。現在、「MUSICA」「クイック・ジャパン」「装苑」「GLOW」「BRUTUS」「ワールドサッカーダイジェスト」「ナタリー」など、各種メディアで執筆中。Twitter

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