柴那典がBUMP OF CHICKEN最新作『RAY』をレビュー
BUMP は「壁」を突破した――最新作『RAY』の音楽的チャレンジを分析
また、BUMP OF CHICKENの音楽性とその変化には、実は海外のロックシーンとのリンクも見出すことができる。
これまで、BUMP OF CHICKENのソングライター藤原基央がインタヴューなどで自らのルーツとして挙げてきたのは、レイナード・スキナードなどのサザン・ロック、ママス・アンド・パパスなどのフォーク・ロック、カントリーやブルーグラス。つまりはトラディショナルなアメリカン・ロックが中心だった。
たとえば、レイナード・スキナードの代表曲「スウィート・ホーム・アラバマ」に見られるような、土臭くブルージーなギターフレーズと歌心が初期の彼らの土台にあった。
また、こちらはブルーグラスの代表的なアーティストの一人、トニー・ライスの「Church Street Blues」。「ダンデライオン」や「車輪の唄」など、BUMP OF CHICKENの初期の楽曲はブルーグラスのルーツを感じさせるものが多い。
ざっくりと「ギターロック」や「ロキノン系」という言葉で括られがちなBUMP OF CHICKENの音楽性なのだが、実はカントリーやブルーグラスが重要な位置を占めているのである。その後、音楽性を進化させ、成熟させていくにあたっても、トラディショナルであるということは、一つのキーになっている。
一方、ここ数年では、彼らと同じようにカントリーやブルーグラスのルーツを持ち、それを新たなセンスで現代に蘇らせた音楽性のバンドが世界的なブレイクを果たしている。イギリス・ロンドン出身の4人組、マムフォード・アンド・サンズだ。
この「アイ・ウィル・ウェイト」に象徴的なように、彼らの魅力は土臭いアメリカン・ルーツ・ミュージックを軽快なリズムと人懐っこいメロディセンスで数万人が合唱できるようなスタジアム・ロックのアンセムに蘇らせたこと。そういう意味で言えば、国籍は違えど、BUMP OF CHICKENとも同じようなアプローチを感じるバンドと言える。
そして、今のBUMP OF CHICKENと同じ方向性を感じる世界的なビッグバンドといえば、やはりコールドプレイとなるだろう。マムフォード・アンド・サンズを手掛けたプロデューサーのマーカス・ドラヴスがプロデュースに参加した前作『マイロ・ザイロト』では、シンセの色鮮やかなフレーズを最大限に活かしたドラマティックで高揚感あふれるサウンドが持ち味だった。
BUMP OF CHICKENをはじめ数々の日本のアーティストがライヴに取り入れた次世代型ペンライト「ザイロバンド」を世界初で導入したのも彼らだ。
そのコールドプレイは5月にニューアルバム『Ghost Stories』をリリースすることを発表している。いち早く届けられた新曲「Midnight」は、荘厳なハーモニーから徐々にEDM的なエレクトロニック・サウンドが展開されていく楽曲。バンドサウンドからのさらなる飛躍を図っている。
これは偶然の範疇に属する事柄なのだが、この曲の歌詞には「light」という言葉が繰り返し用いられている。「ray」と「light」とニュアンスは違えど、今の日本とイギリスとを代表するロックバンドが、同じタイミングの新作で「光」について歌っているということに、不思議な共振を感じたりもするのである。
ともあれ、アルバム『RAY』と7月まで続くツアーは、BUMP OF CHICKENというバンドを、間違いなく新しいステージに押し上げることになるはずだ。期待したい。
■柴 那典
1976年神奈川県生まれ。ライター、編集者。音楽ジャーナリスト。出版社ロッキング・オンを経て独立。ブログ「日々の音色とことば:」/Twitter