ライブはまさに偶像崇拝 ももクロはいかにして「宗教」となったか

 冗談はさておき、ももクロは、明らかにライブの充実に力を入れています。かなこ(百田夏菜子)も「結局ライブなんですよ、私たちは」と言っていますし、CDとDVDなど映像作品の売り上げを比較すると、少なくとも去年の段階ぐらいでは、圧倒的に後者のほうが売れているんです。2012年の年間オリコンランキングトップ100に入ったシングルは3タイトルですが、ライブの様子が収録されたDVDは7タイトルも入っています。ブルーレイのランキングでは、トップ7位~9位がももクロ。ファンがライブのおもしろさに魅力を見出していることがわかります。

 ももクロのライブは、最前列よりも、少し後ろのほうが楽しめるとも言われています。なぜかと言うと、観客の様子が見えるから。ライブにおいて、観客は全員シンクロしています。そんな光景を見ていると、自分も"何か大きなもの"に参加しているかのような錯覚が得られる......これは少しファシズム的な心理とも言えるので危ないのですが(笑)、ライブの盛り上がりにはそうした面がありますし、あの一体感は宗教的だと言えると思います。

 また、ジャンルを超越したコラボレーションには、ある種の破壊性を感じる。アイドルという島宇宙をぶち破っていく力があったからこそ、ここまで大成したのでしょう。

――ご著書では、"セカイ系と日常系が交差する存在である"とも論じていらっしゃいます。

 まず、"日常系"と"セカイ系"とは何か、簡単に説明しましょう。日常系というのは、その名の通り、女子高校生などのありふれた日常を淡々と描く作品のこと。代表作は『あずまんが大王』『けいおん!』などですね。一方のセカイ系は、東浩紀『ゲーム的リアリズムの誕生』によると、「主人公と恋愛相手の小さく感情的な人間関係(「きみとぼく」)を、社会や国家のような中間項の描写を挟むことなく、「世界の危機」「この世の終わり」といった大きな存在論的な問題に直結させる想像力」のことです。代表作は『ほしのこえ』『最終兵器彼女』など。一言で言えば、「隣の女の子が、なぜか世界を背負っている」ような作品ですね。

 ももクロには、日常系的な要素がたくさんあります。例えば『ももクロChan』(テレビ朝日系)という番組では、彼女たちの日常がダダ漏れになっている。ライブのMCでも、観客に語りかけるあーりん(佐々木彩夏)を尻目に、しおりん(玉井詩織)とれにちゃんが雑談しているなど "グダグダ感"があります。「まんまでいいじゃん......ふっつーでいいじゃん」(「ベター is the Best」)などの歌詞からも、日常系の要素を見て取れます。

 彼女たちのすごいところは、そうした"グダグダ感"を抱えたままで、見るものを圧倒させるような、超越性のあるライブを行ってしまう――つまり、日常系から一気にセカイ系になれること。「両者が交差する存在である」というのは、簡単に言えばこういうことです。加えて、パロディ性と笑いがあるのも特徴的。

――"普通の女の子"に見えることが前提であり、ポイントなのですね。

 そうですね。ただ、彼女たちは最近、年頃になってどんどんキレイになっています。性的な意味で好いている人も増えてきたでしょうし、ことさらに「普通の女の子のようだ」と強調するのはフェアではないかもしれません。

 しかし、振る舞いには"無性化"が見てとれます。ももクロは基本的に水着を着ないし、着たとしても「水着のパロディ」。あーりんがセクシーな仕草を見せると、ほかのメンバーは「オエー」となどと言って馬鹿にします。性的なものがジョーク化されているんです。ラブソングも、恋愛がテーマではないかのような歌詞解釈をできるものが多いですし、そもそも数が少ない。これは恐らくかなり意識的に行っていることで、だからこそ男性のみならず、子どもや女性にも受け入れられる部分があるのでしょう。

次回「ももクロとは笑いであり、戦いである――美学者が指摘するその多面的構造」に続く

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安西信一
あんざいしんいち○1960年生まれ。千葉県出身。東京大学文学部美学芸術学専修課程卒業。1991年、東京大学大学院人文科学研究科(美学芸術学専攻)博士課程修了。博士(文学)。広島大学総合科学部助教授を経て、現在は東京大学文学部・大学院人文社会研究科准教授(美学芸術学専攻)。著書に『イギリス風景式庭園の美学――〈開かれた庭〉のパラドックス』(東京大学出版会)、『ももクロの美学――〈わけのわからなさ〉の秘密』(廣済堂出版)、共著に『日常性の環境美学』(勁草書房)などがある。ジャズフルート奏者としてライブ活動も行う。

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