PS2『攻殻機動隊 STAND ALONE COMPLEX』再考 爽快な電脳戦と“米”をめぐる異色の物語
「『攻殻機動隊』のゲーム」と言われれば、まずはPS1版……という人も多いはず。だが、『攻殻機動隊』で語っておきたいゲームはもうひとつ存在する。プレイステーション2用ソフトとして発売された、『攻殻機動隊 STAND ALONE COMPLEX』である。このゲーム、単なるキャラゲーに収まらない良作なのだ。
タイトルの通り、攻殻は攻殻でもいわゆる『S.A.C.』シリーズが展開されていた時期に発表された本作。発売は2004年3月で、アニメの『S.A.C.』がスカパーで放送開始されたのが2002年、日本テレビ系列で地上波放送されたのが2004年というタイミングなので、モロに『S.A.C.』が新時代の『攻殻機動隊』として注目を集めていた時期のゲームだ。
素子とバトーを使い分ける、爽快なアクションと電脳戦
ゲーム自体は三人称視点のアクションシューティングである。プレイアブルキャラクターは主に草薙素子とバトーで、ステージによってこの2人のうちどちらかを操作することになる。素子の場合は素早いジャンプや格闘を行うことができ、対してバトーを操作すると威力の強い大型の火器を扱うことができる。このキャラクターの持ち味を生かしつつ、ステージごとに敵を排除しながら前進する構成だ。また、ひとつだけタチコマを操作して戦うことのできるステージがあり、ここでは派手にグレネードや機関砲を撃ちまくりながら暴れることができる。
『攻殻機動隊』らしい要素として盛り込まれているのが、敵から情報を得ることで他の敵の位置を割り出したり、敵を操作して戦うことができるという点だ。ステージ内には指揮官クラスの敵が点在しており、それを倒すとハッキング用のコードを手に入れられる。それによってステージの他の敵の位置が視界に表示されるようになるのだ。
さらにその状態で特定の敵キャラクターを選んでゴーストハックをかけると、簡単なパズルを解いたあとでその敵キャラクターを操作できるようになる。これをうまく使うと敵集団をハッキングした敵の手で排除することができ、よりスムーズにステージを攻略することができる。敵を遠隔操作して暴れ回り、何人か道連れにしたところでそのまま操作を離脱、残った敵を素子の格闘と銃撃で一掃するプロセスには「俺、プロっぽいな〜」と酔わせるものがあった。銃撃戦だけではない『攻殻機動隊』っぽい要素だったし、現在の『サイバーパンク2077』での、ハッキング系スキルに通じるような面白さがあったのである。
草薙素子を操作するステージでは激しい高低差があることが多く、ジャンプによって壁面を登ったり、高いところから狭い足場を狙って飛び降りたりと、サイボーグならではの戦い方ができたのも楽しかった。特にゲーム後半、巨大な地下施設の竪穴に飛び降りていくところは「サイボーグで戦ってる!」という実感のあるものだったように思う。登場する銃器の描写についても、小口径弾を大量にばら撒き薬莢を飛び散らせながら接近戦を戦う雰囲気がよく出ており、このあたりもサイボーグ同士の撃ち合いという感じがあった。
物語の鍵を握るのはまさかの「米」
と、ゲーム自体も見どころはあるのだが、この『攻殻機動隊 STAND ALONE COMPLEX』はストーリーも面白かった。なんせ物語のキーになるアイテムが「米」なのである。スピンオフも含めて『攻殻機動隊』関連作品は大量に作られたが、米をキーにして物語が進む作品は本作だけだろう。
物語は9課課長の荒巻が、陸自情報部の旧友・久保田から陸自の武器の横流しと、その密輸計画について情報を得るところから始まる。ニイハマ埠頭での密輸現場へ急行した素子とバトー。素子は埠頭へと降下し密輸現場の敵を一掃するが、しかし素子の目の前で密輸の容疑者「不破タケル」が電脳死させられてしまう。さらに武器受け渡し現場へと向かったバトーが輸送バンで発見したのは、輸送コンテナに詰められた米だった。
見つかった米は高級食材として流通する特殊な「マイクロマシン米(MM米)」だったことが判明。さらに容疑者の不破は、記録上5年前にニイハマ大学で殺害されたことになっていた。9課の捜査によって、MM米の研究をしていた矢沢ケイという農林水産省所属の科学者、そして第四次大戦時に疎開の名目で科学者を集め、現在は軍の直轄となっている特殊研究施設「東北自治区」の関与が浮かび上がる。矢沢と接触するためニイハマから東北へと移動する素子とバトーだったが、移動中に乗っていたモノレールが破壊され、通信が途絶する中で素子は単独で戦闘と調査に挑むことになる。
本作はこういったあらすじで進み、さらにゲームを攻略していくことで東北自治区の区長・田上トシミ、そして第四次大戦での根室上陸工作戦で暗躍した「振付師」と呼ばれる元兵士の関与が見えてくる。MM米を使った陰謀のトリックも秀逸で、ストーリーを目当てにプレイしても充分楽しめるはずだ。
東北、宮沢賢治、黄金の稲穂 異色の舞台が残すインパクト
なにより「米」「東北」といった道具立てとロケーションを用いている点が、かなり印象的である。サイバーパンクSFというジャンル全体を見ても、米と東北という要素で勝負を仕掛けている作品は珍しい。また、東北と農業ということで、宮沢賢治からの引用も作中に入れ込まれている。それも「ちょっと引用してみました」というレベルではなく、一連の事件の犯人の動機と宮沢賢治の著作ががっつりとオーバーラップしているのだ。「サイバーパンクSFに宮沢賢治を引用してみました」というセンスがなんとなく『S.A.C.』っぽい点も含めて、異色の取り合わせと言えるだろう。
加えて書けば、本作では最終ステージの舞台が「金色の稲穂が大量に実った、昔の農村を思わせる空間」なのである。黄金に輝く稲穂がずらりと並んだ農村の風景の中で、多脚戦車を相手に銃を撃ちまくるというミスマッチな絵面は、歴代『攻殻機動隊』関連作の中でも相当なインパクトがあるものだ。
こういったトリッキーな要素でストーリーが組み立てられる一方で、多くのプレイヤーが考えるであろう「『攻殻機動隊』っぽい要素」も、惜しげもなく投入されている。タチコマたちによるユーモラスなやりとりや、素子の名前を叫ぶバトー、そして高いところからダイブする草薙素子と、『攻殻機動隊』ってこんなんだよな〜、と思わせる要素は全部入り。『S.A.C.』期の『攻殻機動隊』に期待されるくだりは照れずにぜんぶやっているあたり、当時のキャラゲーとしての役割はきちんと果たしていると言えるだろう。
PS1版『攻殻機動隊』と同じく、残念ながら本作も後継機への移植は行われておらず、プレイしようと思うとPS2を引っ張り出してくるしかない。爽快な格闘・ガンアクションと、サイバーパンクSFとしても異色なストーリーの組み合わせは、現在の目で見ても面白いはず。いつの日か現代のハードで遊べるようにならないか……と、期待したくなる一作なのである。