『FGO』10年の旅路を彩った音楽の集大成 芳賀敬太が語る第2部 終章の楽曲制作秘話と“アフタータイム”への展望

『FGO』10年の旅路を彩った音楽の集大成

 2015年にスタートしたスマートフォン向けFateRPG『Fate/Grand Order』(以下、『FGO』)が10周年を迎え、ついに第2部の終章が完結した。その激動のシナリオを彩った数々の楽曲を収めた『Fate/Grand Order Original Soundtrack Ⅷ』が2026年7月1日に発売される。

 「奏章Ⅳ 人類裁決法廷 トリニティ・メタトロニオス」や「第2部 終章」の楽曲群、そして2025年のイベント楽曲など、全3枚組の大ボリュームとなる本作。ディスク1には奏章Ⅳと冠位戴冠戦の楽曲が、ディスク2には第2部 終章の楽曲が、そしてディスク3には多彩なイベント楽曲とスパイラル・ラダーによるTVCM曲などが収録されている。

 リアルサウンドテックでは、TYPE-MOONの芳賀敬太氏にインタビュー。第2部完結という物語の「ピーク」をどのように音楽で描き出したのか、重要楽曲の制作秘話や各章のトーンの決定要因、そして新たな展開を見せる“アフタータイム”のサウンドについて、たっぷりと話を聞いた。(編集部)

※本記事はゲーム内「奏章Ⅳ」~「第2部 終章」シナリオへの言及も含まれますのでご注意ください。

第2部 終章という「ピーク」と、10年目の区切り

ーーついに第2部が完結しました。シナリオとしての大きな区切りを迎えましたが、芳賀さんの中で音楽的な一区切りがついたという感覚はありますか?

芳賀:まだ「アフタータイム」として続いていることなので何とも言えない部分はありますが、全体像から言えば、第2部は“終章”として大きなピークを迎えましたからね。ここから先、さらに大きな曲が出てくるのかというバランスの難しさはありつつ、現在は「アフタータイム」に入ったところですので、いきなりそれを超えるようなことはせず、探り合いながらやっている段階です。

ーー第1部が終わったタイミングと、第2部が終わった今回のタイミングでの感覚の違いはありますか?

芳賀:第1部の後には1.5部があって、一旦バラエティ豊かな1年になりましたが、第2部はそもそも「第1部よりも大きく長いものになる」という前提でスタートしていました。なので、第1部が終わった後は第2部も見据えて「ここからもっと強く大きくしていかなければ」という想いがありましたね。現在の「アフタータイム」では、使われているモチーフを考えてもらえれば分かると思いますが、音楽的なベースは第1部に立ち戻っているような形になっています。

ーー今回のサントラは「奏章Ⅳ」から収録されていますが、その手前となるオルガマリークエストの楽曲についてお聞きしたいです。特に「Stella ~ELEMENTS BATTLE 4~」は、これまでのエレメンツ戦の集大成のような“全部乗せ”感が凄まじい楽曲でした。

芳賀:基本的には、前作収録のアクアマリー戦からスタートして、その時点ではその後にどういう形にしていくかは決まっていませんでした。「同じ曲で違う形にしたい」というところだけ決まっていて、作る時になって初めてどういう形にするか決まるという作り方でした。グランマリー戦まではなんとか凌げたんですが、最後に全部入りをどうしていくかっていうところで苦労しましたね。

ーー様々なモチーフが混ざり合っている中で、さらに新しい要素を加えるのは難しそうですね。

芳賀:そうなんです。色々混ざっているぞ、というのはちゃんと伝えたいし、その上で星を感じるような新しい部分も出さなければいけない。ただ、まとめた時点ですでに他のフレーズを乗せる余地がだいぶなくなっているんですよ。他のバージョンのバックトラックを組み合わせつつ、そこにどう新しいフレーズを乗せるかという、情報量的な部分での難しさがありました。総集編としての全部入りに、さらに上乗せという形ですから(笑)。

「水のように滑らかに変わっていく」のは『Fate/stay night』時代の自分のよう

ーーサントラ全体の中で、芳賀さんにとって特に重要だったパートや楽曲を教えてください。

芳賀:やはり第2部 終章の中で、メインテーマと位置づけている「人理詐称天球:マリス・カルデアス」と、本編最後の曲になる「Guiding Light」ですね。作り始める前から一番大事なのはこの辺りだと思っていて、他の曲はそこにどう向かっていくかというイメージでした。

ーー「人理詐称天球:マリス・カルデアス」は、これまでの様々な中心的モチーフが展開した後に大きな新しいフレーズがやって来るという、10年の集大成のような美しい曲です。こうした象徴的なモチーフを交えた楽曲をこのタイミングで持ってきた背景には、どのようなオーダーがあったのでしょうか。

芳賀:シナリオの流れ的に、なかなか“全開”にできないんですよ。ソロモンのシーンからレイドが開始されるまでリミットがあり、徐々に上げていく必要がありました。このレイドマップのマップ5でようやく全開にできるので、曲としてのピークはここだと決まっていました。バトルも通常の戦闘曲はなく、カルデアスに入っていきなりボス戦という特殊な形でしたし、グランドバトルのような大きな曲とも違う形だったので、熱の入れどころがものすごく限られていました。その中で、このフレーズを入れたいと自分から組み上げていったんです。

ーーそして「Guiding Light」は、少ない音数から始まって徐々にオーケストラへと発展していく構成がとても美しく、感動的でした。始まりから終わりまでが非常に綺麗な一つの作品という印象を受けましたが、どのようなアイデアから作られたのでしょうか。

芳賀:奈須からは「シンプルで静かな感じで前半は引っ張っていき、後半はオーケストラになる」という発注が最初にありました。そこで、一番ベーシックではありますが、ループするピアノのフレーズが最後まで鳴り続けていて、そこにオーケストラが重なっていく形になっています。この「水のように滑らかに変わっていく」という手法は『Fate/stay night』時代の自分のような作り方ともいえるかもしれません。

ーー当初は後半のオーケストラセクションがもっと壮大だったとか。

芳賀:そうなんです。ただ、奈須や武内から「豪華すぎる」ですとか、「これで本当にFGOが全て終わってしまいそう」と言われてしまって(笑)。その結果少しスケールダウンしました。演出タイミングとの擦り合わせなどのこだわりも詰まった一曲です。

カドックのギターは「楽器屋の試奏とも違う絶妙なラインを意識した」

ーー奏章Ⅳの楽曲についてお聞きします。章のトーンを考える上でキーになったのはギャラハッド戦のBGMでもあり、CM曲にもなった「Proof」でしょうか?

芳賀:そうですね。CM用ということで制作に入るタイミングが一番早かったので、この曲のために奏章Ⅳの資料をすべて頭に入れました。この曲がスタートラインになって、他の曲ができていった形です。

ーーAyasaさんがヴァイオリンを弾き、深澤秀行さんがアレンジを手掛けるという布陣でしたが、これはどういった経緯だったのでしょうか。

芳賀:アニプレックスさんから「今回はCMをインストにしたい上で、Ayasaさんを起用したい」というオファーがあったんです。Ayasaさんでいくなら、「『Fate/stay night』20周年記念コンサート Finale」などで近年一緒にパフォーマンスしていただいている深澤さんにお願いするのが一番いいだろうと、オファーの時点で決めて作曲しました。

ーーこの楽曲とは別に、ラストバトルはリリスとギャラハッド戦として1曲を作る予定だったそうですね。

芳賀:はい。ただ、リリスとギャラハッドというキャラクターを1曲で表現するのは難しいと感じていました。そこで、ギャラハッド戦にはこの「Proof」が内容的にもふさわしかったのでそのまま使用する形とし、リリス戦には別の楽曲を書き下ろしました。歌モノであればインストアレンジをしていましたが、結果的に元からインストだったのでそのまま使えましたね。

ーーリリス戦の「夜の魔女 ~リリス戦~」はクワイアの入れ方が非常に個性的でした。

芳賀:少しエスニックなクワイアなんですよ。普段はストリングスやオーケストラに混ぜることが多いのですが、現代的なトラックに乗せると混ざり具合が全然違うので、ミックスするうえでは非常に悩みましたね。これまでにない感じが出せたと思いますし、ギャラハッド戦との対比も際立たせることができました。

ーー奏章Ⅳといえば、カドックがギターを弾くシーンの曲(「Poco Leggiero」)も印象的でした。

芳賀:あれは本当に難しかったですね。プロというわけではなく趣味で少し弾けるという設定で、自信満々にひけらかすタイプでもない。楽器屋の試奏とも違う絶妙なラインを意識しました。自分の過去の記憶から、部屋でアコギやクラシックギターを弾くのが好きなギターキッズのイメージを思い出し、少しラテンっぽいクラシックギターの簡単なアルペジオにしています。

ーー「全てを守るため」は「星の生まれる刻」のような形というオーダーだったそうですが。

芳賀:発注時点ではまだ「Proof」も完成していなかったので、「星の生まれる刻」のような曲という指定でした。結果的に「Proof」という曲ができたので、それをモチーフにして制作しました。「Proof」の壮大なバラードバージョンになっていますね。サウンド感はいつもの黄金ラインというか、ストリングスやブラスを使った大きな編成で作っています。

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