『FGOオーケストラ』クリエイター陣が語る、コンサート後の“手応えと葛藤”

『FGOオーケストラ』ライブ盤インタビュー

 7月31日にリリースされた『Fate/Grand Order Orchestra Concert -Live Album- perfomed by 東京都交響楽団』。これは4月3日と5月4日に東京芸術劇場・コンサートホールで開催された『Fate/Grand Order Orchestra Concert performed by 東京都交響楽団』を、コンサート映像・コンサート音源としてパッケージングした豪華なライブアルバムだ。

 スマートフォン向けFateRPG『Fate/Grand Order』の楽曲を、同ゲームメインコンポーザーである芳賀敬太と『魔法使いの夜』でもおなじみ深澤秀行がリアレンジ、ドラマ『Woman』『anone』などを手掛けてきた音楽家・三宅一徳がオーケストラアレンジを担当し、さらに本番に向けて篠田大介・萩森英明の2名もアレンジメントに参加。それを日本を代表する楽団である東京都交響楽団(以下、都響)が演奏し、第一線の指揮者・竹本泰蔵が加わるという盤石の布陣で演奏した同コンサート。先日は芳賀・深澤・三宅による鼎談をお届けしたが、今回は3者それぞれへのインタビューに指揮者の竹本への取材も加え、コンサートを終えた感想、見えてきた今後の展開や課題などについて、たっぷりと語ってもらった。(編集部)

INTERVIEW:作曲 芳賀敬太

ーーまずは、コンサートを終えた率直な感想を聞かせてください。

芳賀:公演が終わった直後は熱が出ているんじゃないか、と思うくらいぼんやりしてしまいました。聴いている時はぐっと集中していたんですけど、終わって拍手を聴いたらハッとなって、足元も若干ふらつく感じでした。

ーー4月公演と5月公演で印象に残ったポイントは?

芳賀:4月公演は、クワイアを含めフルで音が入っている「最果ての死闘 ~女神ロンゴミニアド戦~」「BEAST II ~ティアマト戦~ 」あたりが一番グッときました。5月公演は、初演を踏まえてメドレー曲「集いし英雄~鋼の矜持」や「絆~蒼穹の未来」のつなぎをよりナチュラルにしたんですが、そこがすごく良かったです。

ーー実際リハを重ねて、会場で鳴らした瞬間に思ったことは?

芳賀:会場入り前だと音場的にはドライに感じたんですけど、ホールになると一転して全く別の音になって、びっくりしました。特に打楽器はホールで叩いてもらって初めて「ああ、この音になるからこういう楽器だったんだ」と改めて思わされたりしました。

ーー4月の公演が終わったあとに号泣したとTwitterに書かれていました。

芳賀:初回公演はライブアルバム用の録音状況を確かめながら裏で見ていたんですが、公演を終えて下がってくるマエストロ(指揮者)や都響の方々とご挨拶しているうちにどんどん高まっていって。最後のパーカッションの方があと数名というところで、持ちこたえられずに泣いてしまいました。制作者サイドではなく1人の観客だったら、もっと早めで泣いていたのかもしれません。

ーーちなみに『Fate/Grand Order Original Soundtrack Ⅲ』は、制作期間的にオーケストラプロジェクトと重なっているところもあると思うのですが、今回のオーケストラプロジェクトが影響を与えた部分はありますか?

芳賀:もちろん大いに影響はあったと思います。オーケストラだったらこうするなとか、こうしておけばオーケストラ音源になる場合に他の皆さんの負担が減るかなと思ったりしつつ、あくまで作るのはゲーム上で鳴らすサウンドなので、「こうしたほうがいいのはわかるけれど、ゲームで鳴る音としてこうしたい」というものを優先しました。

ーーゲームにおいて実現するための取捨選択も発生したと。

芳賀:両方のよいところをまとめられればいいんですが、今は毎回悩ましいし苦しいというのが正直な気持ちです。ただ、『Fate/Grand Order Original Soundtrack Ⅲ』の一連の曲を聴いていただければ伝わると思うんですけど、一つひとつのモチーフの使い方、変化の付け方、そういう部分での表現力はぐっと増した気がします。

ーーオーケストレーションの細部や、緩急の多い曲、重いムードの曲などにその表現力を感じました。

芳賀:ありがとうございます。録音することが多い楽器も、打ち込む上での音色として扱っているものが多かったので、実際に演奏家の方が奏でているのを見てようやく楽器の性質を理解できたものもあります。

ーーゲーム上の音源とオーケストラの音源、生演奏の音源はいい意味で違いますからね。

芳賀:音作りの段階でも、一つひとつ実際の楽器の音色を作り込んだほうがいいのか、生に寄せた方がいいのかも変わりますし、そこで悩むことは正直増えました。いつものエフェクトをかけるかどうか、というところでも思案したりします。ですが、これまでやってきたやり方で作ったものがあってのオーケストラなので、積み重ねた自分のやり方を見失わないようにとは周囲からも言われていますし(笑)。とはいえいつも通りにやれといわれても、いつも通りがこれまでの「いつも通り」じゃないんですよね。

ーークリエイターとして今回のプロジェクトを通して影響を受けた部分は?

芳賀:歌中心のライブでもなく、ゲーム内のBGMから派生した音楽を聴きにあれだけの方に集まっていただいて、喜んでもらえた経験を経て、何のために、何を目指して曲を作っているのかが改めてわかった気がします。自分や会社のやりたいことはあるけど、それがすべて遊んで/聴いてくださる皆さんの喜びに通じる形じゃないと意味がないなと。曲も増えてきたことで悩みも多くなってきましたが、今回関わった超一流の方々による卓越した技術や手腕、目標に向かっていくための姿勢を間近で見たことで、本当に勉強になりました。

ーー音楽家としても、人間としても影響を受けたと。

芳賀:そうです。それを踏まえて「作曲を続けて、またコンサートをやりたい」という目標が増えました。

ーー今回、オーケストラコンサートが音源と映像という形でパッケージになりますが、芳賀さんの注目ポイントは?

芳賀:音と映像、それぞれから感じられるもの、伝わりやすいものはまったく同じではないかなと思っています。ですので、どちらも聴いて、観ていただけたら一番いいですね。気に入った曲があれば、どういう音が鳴っているのかはやはりCDの方が聴きやすいと思いますし、どう演奏しているのかは映像で確認できます。個人的な印象としては、どちらかというとですが、CDは演奏寄り、映像は会場寄りのイメージです。もしかしたらそれぞれでここが好きという場所が違うかもしれない。そういうのも楽しいんじゃないかと思います。 

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