スタンフォード大学の研究レポートから見る、AIの世界情勢と“日本の立ち位置”

2026年4月13日、アメリカのスタンフォード大学にあるHAI(Stanford Institute for Human-Centered AI:スタンフォード 人間中心AI研究所)は、世界のAI動向をまとめた年次レポート「AI Index Report 2026」を公表した(※1)。
9章から構成される同レポートは、AIにまつわる世界各国の研究状況や国民感情などをグラフを用いながら論じている。本稿では、同レポートの「研究開発」「経済」「責任あるAI」「世論」といった4つの章に焦点を当てたうえで、世界のAI動向をふまえた日本の立ち位置を明らかにしたい。
米中でほぼ独占される最新AI開発
AI Index Report 2026の第1章「研究開発」では、AI研究開発の現状を多角的にまとめている。同章によると、2025年に開発された「注目すべきAIの数」を国別に集計した場合、1位はアメリカの50個、2位は中国の30個、3位は上位から大きく差が開く韓国の5個であった。1位は3位の10倍である。
2003年から2025年における注目すべきAIの国別開発数を世界地図で表したのが、以下のグラフである。青色が濃いほどAI開発数が多いのだが、米中が濃い青となっている。日本も調査期間において注目すべきAIを1~10個開発している。
以下のグラフから、アフリカ諸国と南米諸国、および東南アジア諸国は注目すべきAIを開発していない/できていないこともわかり、“AI開発における南北問題”が鮮明に浮かび上がる。
2025年の「注目すべきAIの開発数」を企業別に集計したのが、以下のグラフである。1位がOpenAIの19、2位がGoogleの14、3位がAlibabaの11と米中の企業が並ぶ。4位以下もAnthropic、DeepSeekといった米中の企業が数多くランクインしている。
2003年から2025年における注目すべきAIを、パラメータ数(※注記)にしがたってグラフに位置づけたのが、以下の画像である。ChatGPTが登場した2022年あたりから急激な増加傾向であったが、2025年になって増加が頭打ちになっている。
(※:パラメータとは、AIの「つまみ」や「ダイヤル」のようなものであり、一般にパラメータ数が多いと、AIはより複雑な質問に回答できるようになる)
もっとも、以上のグラフにはAI開発企業の3巨頭であるOpenAI、Anthropic、そしてGoogleが開発する最新AIのデータが反映されていない。というのも、これらの企業は最新AIに関する情報を公開していないからである。それゆえ、非公開の最新AIでは、いまだにパラメータ数が増加している可能性がある。
以上をふまえてわかることは、「注目すべきAIの開発が米中でほぼ独占」されている現状と、こうした状況のなかで日本はほとんど存在感を示せていない、ということだ。くわえて、OpenAIをはじめとする世界的AI開発企業は最新AIについて情報公開をしていないため、AI開発の現状を把握するのが難しくなっている。
AI投資はアメリカの1%未満 しかし産業用ロボットでは大国の日本
AI Index Report 2026第4章「経済」には、AI企業への投資額や企業のAI採用率などが書かれている。2025年における、OpenAIをはじめとする非上場企業への投資(こうした投資はプライベート投資と呼ばれる)を各国別に集計すると、1位はアメリカの2,859億USドル、2位は中国の124億USドル、3位はイギリスの59億USドルであった。
日本は14位の約11億USドルであり、アメリカの1%にも満たない。G7諸国というくくりで見ても、日本は7カ国中6位であり、最下位は15位圏外のイタリアである。
2024年と2025年におけるプライベート投資を投資分野別に集計したのが、以下のグラフである。1位は「AIインフラストラクチャ/モデル/研究/ガバナンス」の1.432億USドルであり、ほかの分野を圧倒している。2024年と比較しても、その伸び率はほかの分野を大きく上回っている。
1位に関しては、とくにAIインフラストラクチャへの投資が大きな割合を占めている。これは、近年活発になっているAIデータセンターへの投資がこの分野に計上されるからだ。
企業のAI採用率については、105カ国のさまざまな規模と業種の企業幹部1,993人にアンケート調査を実施した結果が報告されている。以下のグラフは、2025年の「企業のAI採用率」を、縦軸に業種、横軸にAIを活用する企業機能として、それらの組み合わせごとにAI採用率を集計したものである。
AI採用率が高い業種はアプリ開発などをおこなうテクノロジー業種であり、企業機能としてはマーケティングとセールスでAI採用が進んでいる。マーケティングとセールスに関しては、とくにカスタマーサービスにおいて生成AIの活用が進んでいると考えられる。
最近注目されているAIエージェントの採用率に関して、業種と企業機能ごとにまとめたのが以下のグラフである。全体的に採用率が低く、AIエージェントの導入が黎明期にあることを示唆している。
フィジカルAIの台頭によって注目されているロボティクス市場に関しては、2024年における(工場等で稼働する)産業用ロボットの稼働数を国別に集計した結果が掲載された。1位は中国の29万5,000台であり、2位は日本の4万4,500台、3位はアメリカの3万4,200台であった。産業用ロボットに関しては、日本は中国に次ぐ大国なのだ。
以上の結果をまとめると、AI投資に関してはアメリカが圧倒的1位な一方で、日本の存在感はごくわずかである。しかしながら、産業用ロボットに関しては、日本はアメリカを超える大国であり、十分にその存在感を示せているのだ。
AI事件が増加するなか、日本は“AI倫理先進国”といえる?
AI普及に伴う負の側面については、AI Index Report 2026第3章「責任あるAI」で論じられている。ディープフェイクを筆頭に、世界で発生するAI悪用事件を2012年から2025年の期間で集計すると、ChatGPT登場後の2023年以降に急増化して、2025年には362件が発生した。
以上のAI悪用事件集計は、人間がその内容を精査しているため、英語圏の事件が多いという制約がある。それゆえ、実際に起こっているAI事件は、以上の集計より多いと考えられる。
生成AIの弱点のひとつとして、事実とは異なる回答を生成するハルシネーションが知られている。ハルシネーションに関して、法律や数学を含む6分野の質問に対する回答を調べることで、その発生率を測定するテスト「AA-Omniscience」を、Geminiなどの26の対話型生成AIに実施した結果が以下のグラフである。
6分野すべてにおいてハルシネーション発生率が小さいのは、Gemini 3.1 Pro Preview、Grok 4.20 0309 v2、Claude Opus 4.6(max)であった。ChatGPTに使われているGPT-5.4もハルシネーション発生率が低い一方で、中国産AIのDeepSeek V3.2は相対的に誤った回答を生成しやすい傾向にある。
AIの弱点には、社会的偏見を助長するような回答を生成してしまうバイアス問題もある。この問題に対する各国の対策を数値化した指標として、GIRAI(Global Index on Responsible AI:責任あるAIに関する世界的指標)がある。この指標をグラフ化したのが、以下の画像である。
GIRAIがもっとも高い国にはアメリカとカナダがあり、日本はドイツなどと共に第2グループに属している。世界的には50を下回る国が多く、改善の余地が大いにあることがわかる。
AIを活用したサイバー攻撃などを研究するAIの安全性に関する取り組みも、各国で進んでいる。以下のグラフで青色に塗られた国には、AI安全性研究所が設立されている。こうした国は8カ国あるのだが、日本はそうした国のひとつである。
以上をふまえると、生成AIの普及に伴いAI事件は増加しているが、ハルシネーションをはじめとするAIの弱点を克服する研究開発は進んでいる。AIのバイアスや安全性に関する取り組みも各国で進んでおり、こうした取り組みにおいて日本は先進国といえるのだ。
日本は世界一の“AI友好国”
AI Index Report 2026第9章「世論」では、AIに対する各国の国民感情をまとめている。この調査は同レポート2022年版から行っているのだが、2026年版では30カ国の成人23,216人を対象に実施された。
以下のグラフは、世界の調査対象者が回答したAIをめぐる質問に関する、2022年から2025年までの推移をまとめたものである。「AIを活用した製品やサービスは、不利益より利益が上回る」という質問に対して、2025年では59%の回答者がYESと答えた。この質問のYES回答率は、2022年から上昇し続けている。
「AIを活用した製品やサービスは、私を神経質にさせる」という質問に関しては、2025年のYES回答率は52%であり、2024年から2%上昇した。
「AIを活用した製品やサービスは、不利益より利益が上回る」のYES回答率推移を国別に集計したのが、以下のグラフである。もっとも上昇したのはドイツの12%であり、AI開発先進国アメリカは7%である。日本は6%であり、AIに対する好感度が徐々に増えたことがわかる。
以下のグラフは、AIに関するさまざまな質問に対する各国のYES回答率をまとめたものである。注目すべきは、「AIを活用した製品やサービスは、私を神経質にさせる」に関する日本のYES回答率が、30カ国中最も低い29%であることだ。
以上の結果は、日本が30カ国中もっともAIに悪感情を抱いていない国であることを意味する。そして驚くべきことに、2022年以降のAI Index Reportを参照すると、以上の質問に対して日本は常にYES回答率が最低だったのだ。
これまでに解説したAIに関する世論をまとめると、世界全体ではAIを歓迎する意識と警戒する意識が相半ばしているなか、日本はAIに対する警戒度がもっとも低い”AI友好国”であり、こうした日本の雰囲気は伝統的なものと言える。
本稿は、AI Index Report 2026の「研究開発」「経済」「責任あるAI」「世論」に焦点を当ててきた。その結果として明らかになる、AIをめぐる経済文化から見た日本の立ち位置は、以下のように記述できるだろう。
日本はAI研究開発やAI投資では存在感を示せていないが、産業用ロボットの稼働数では中国に次ぐ世界2位の”ロボット大国”である。AI倫理に関しては、バイアス問題やAIの安全性に積極的に取り組む、”AI倫理先進国”のひとつである。そして、何より伝統的に世界一の“AI友好国”なのである。
以上のような日本の特徴をふまえると、フィジカルAIが普及する2020年代後半において、ドラえもんを彷彿とさせるような、人間の良き相棒となるロボットが登場することにも期待してしまう。引き続き観測していこう。
(※1)HAI「Inside the AI Index: 12 Takeaways from the 2026 Report」
https://hai.stanford.edu/news/inside-the-ai-index-12-takeaways-from-the-2026-report







































