AppleがSafariで制御する「見えない追跡」の仕組み Webはどこまで個人を追跡しているのか

AppleがSafariで制御する「見えない追跡」

 ある商品を一度検索しただけなのに、その後まったく関係のないWebサイトやSNSで同じ広告が何度も表示されることがある。「便利な機能」と受け止めることもできる一方で、どこか「見られているような感覚」に違和感を覚えた経験がある人も少なくないだろう。こうした現象は、「追跡型広告」と呼ばれる仕組みによって生まれている。

 インターネット広告は本来、ユーザーの興味や関心に合った情報を効率よく届けるために発展してきたものだ。しかし、実際には複数のWebサイトをまたいでユーザーの行動を追いかけ、閲覧履歴や興味の傾向を推測する技術が広く使われている。

 その結果、本人はただWebサイトを見ているだけでも、そのひとつひとつの行動が「足跡」のように記録されていく。そして、その足跡が裏側で繋ぎ合わされ、「この人はこういうことに興味がありそうだ」とひとつの人物像として再構成され、広告に使われていくという構造ができあがっているのだ。

 この状況に「待った」をかけているのが、プライバシーを「基本的人権」と位置づけているAppleだ。

 同社はWebブラウザ「Safari」においてプライバシー保護機能を強化し続けている。ただし、同社のアプローチは、単純に「追跡を防ぐ」という話ではなく、むしろ発想としては逆で、「そもそも追跡が成立しない状態を標準にする」という設計思想に近い。

追跡型広告+位置情報広告の良例。取材で台湾にいることを察して広告表示。直前に猫カフェを調べたので猫の広告が出た。SNSなどから猫好きなのもバレているのかも?

 その中心となっているのが、2019年以降段階的に導入されてきたサードパーティCookieの制限と、それを補う「インテリジェント・トラッキング・プレベンション(ITP)」だ。

 ITPは、「悪意のあるサイト」をブロックする仕組みではなく、サイトをまたいだ動きの中から「追跡に使われる可能性がある挙動」を機械的に判断し、その上でCookieの有効期限を短くしたり、利用できる情報を制限したりする仕組みのこと。

 簡単に例えるなら、「危険な人だけを入口で止める警備員」というよりも、「怪しい動きをしている人がいないかを常に見ていて、少しでも不自然な動きがあれば滞在時間を短くしたり、行動範囲を制限する街のルール」のような感じだ。

 同じようにITPも、サイトをまたいだ動きの中から「追跡に使われる可能性があるパターン」を自動的に判断し、その上でCookieの有効期限を短くしたり、利用できる情報を制限したりする。

 その結果として起きるのは、Webサイトをまたいだ行動の「つながり」が弱くなるということ。追跡を完全に排除するものではないが、従来のように、長期間にわたってユーザーの行動履歴を積み上げていくタイプの追跡は成立しにくくなっている。

 さらにSafariは、Cookieとは別系統の追跡手法である「フィンガープリンティング」にも対策を講じている。

 これは、画面解像度やフォント、OSやブラウザの設定といった複数の情報を組み合わせて、端末ごとに「特徴」を作り出し識別する手法だ。Cookieに依存しないため、近年広く使われるようになっている。Safariでは、こうした識別に使われる情報の精度をあえて抑えることで、複数の情報を組み合わせても個人の特定が成立しにくいようにしている。

画像:Apple

 また、こうした仕組みはユーザー側の操作を前提としていない点にも特徴がある。iPhone、iPad、MacといったAppleデバイスでは、特別な設定を行わなくても初期状態からこれらの保護機能が有効になっており、利用開始時点で一定のプライバシー保護が働く設計になっている。

 加えてプライベートブラウジングでは、履歴を残さないだけでなく、Face IDやTouch IDによるロックにも対応している。これを利用することで、同じ端末を複数人で使う場合においても、タブの内容が直接見られにくくなる。さらに、URLに付与されるトラッキング用パラメーターの自動削除や、拡張機能のアクセス権をサイト単位・時間単位で制御する仕組みも備えている。

 こうした機能によって、ユーザー側の意識に関わらずプライバシー保護が働く一方で、Web全体ではより高度なデータ活用も進んでいる。そのため、利便性とプライバシーのバランスをどう取るかは、現在も大きなテーマとなっている。

 広告技術の高度化によって、Web上の行動データはこれまで以上に精密に扱えるようになっている。その一方で、そうしたデータの活用がどこまで許容されるべきかについては今後より議論が必要なところだろう。

 そこでAppleは今夏、Safariのプライバシー保護機能を訴求するキャンペーンを展開する予定だ。今回のキャンペーンでは、オンライン上でユーザーがどのように追跡されているのかを可視化するブランドフィルム(映像作品)を中心に、屋外広告やデジタル広告などを組み合わせた多面的な展開が行われる。

 映像ではWeb閲覧中に広告ネットワークやデータ事業者がユーザーの行動を追跡し、嗜好や関心を推測していく様子が描かれ、日常的なブラウジングの裏側にあるデータの流れを直感的に伝える内容となっている。

 また、このキャンペーンはオンラインだけでなく、世界各地の都市に設置される屋外広告や、実際のWeb閲覧中に表示されるデジタル広告などを通じて展開される予定で、日本を含むグローバル規模での実施が見込まれている。

 あわせてAppleは、公式サイト内にSafariのプライバシー保護機能を解説する専用ページを設け、ユーザーが仕組みを理解できるよう情報発信も強化している。広告による訴求とあわせて、機能面の理解を促す導線を整えることで、プライバシー保護の重要性を広く伝える構成だ。

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