『ドラゴンクエストX』にAIバディ「おしゃべりスラミィ」登場へ 堀井雄二の“NPCにAIは違う”から生まれた「自分だけの友達」

2026年3月18日、スクウェア・エニックスとGoogle Cloudは渋谷ストリームにて記者説明会を開催し、『ドラゴンクエストX オンライン』に生成AIを活用した対話型バディ「おしゃべりスラミィ」を導入することを発表した。Google Cloudの大規模言語モデル「Gemini」を基盤とし、プレイヤーだけの“友達”としてゲーム内で寄り添うAIキャラクターだ。3月21日よりクローズドベータテストの参加者募集も開始される。
登壇したのは、Google Cloudゲームインダストリー グローバルディレクターのジャック・ビューザー氏、『ドラゴンクエストX オンライン』ショーランナーの安西崇氏、スクウェア・エニックスAI&エンジン開発ディビジョン ジェネラル・マネージャーの荒牧岳志氏。
堀井雄二はなぜ「NPCにAIを入れるのは違う」と考えたのか?
この企画の出発点を語る上で、安西氏がまず紹介したのはドラゴンクエストの生みの親・堀井雄二氏とのやり取りだった。堀井氏はAIへの関心が高い人物だが、ゲーム内のNPCにAIを搭載して自由に会話させることには否定的だったという。安西氏によれば、堀井氏はドラゴンクエストを「1冊の本」と捉えている。従来のNPCのメッセージなら読み終えれば区切りがつくが、AIを入れると「この人といつまで喋ればいいんだろう」と際限がなくなり、遊ぶ側の負担が大きすぎるというのが堀井氏の考えだった。

一見AIに消極的とも映るが、実際は逆だ。堀井氏が提案したのは「一緒に遊んでくれる友達」「一緒に戦ってくれる仲間」としてのAI活用だった。安西氏はこれに深く共感し、「困った時に教えてくれたり、昔ボードゲームで遊んでいる時に『違う違う、そこでお金払っちゃダメ』と友達が教えてくれたような体験をオンラインで実現したい」と語った。質疑応答でも「NPCと自由に会話できるほうがAI導入の本筋では」との問いが出たが、安西氏は8人程度のキャストのアドベンチャーならNPCへのAI搭載も成立するものの、膨大なキャラクターが存在する『ドラゴンクエスト』では別の最適解があると説明。その回答がおしゃべりスラミィというわけだ。
プレイヤーの冒険をすべて知る“バディ”としてのAI
おしゃべりスラミィは「死神見習い」を名乗るスライムで、プレイヤーが『ドラゴンクエストX』舞台のアストルティアに降り立った瞬間からずっと傍で見守ってきたという設定を持つ。デモでは「死神手帳」に記されたプレイヤーの記録を参照しながら語りかける様子が公開された。おすすめのコンテンツを聞けば進行状況に応じた提案を返し、安西氏は「攻略サイトを見なくてもちょうどいい回答をしてくれる友達がいたらどんなに幸せだろう」と設計思想を述べた。
会話はゲーム内チャットシステムを通じて行われ、内容はそのプレイヤーとスラミィの間だけで閲覧できる。他のプレイヤーからは完全に見えない、プライベートなコミュニケーションだ。注目すべきは、スラミィが問いかけを待つだけでなく能動的に話しかけてくる点で、装備の変更やボス討伐などをきっかけに自ら話題を振る。安西氏は「友達というのは、こちらが言ったことを返してくれるだけではない。双方向の会話があって然るべき」とこだわりを語った。
AIに話しかけるハードルを下げる工夫として、LINEスタンプのような専用スタンプを用意。導入時にはNPCとの性格診断によってスラミィの性格が決まり、デモでは語尾に「ですら」をつける独特の口調や、一緒にいるうちに姿が変わる演出が披露された。
Geminiの「画面を見る力」が支える技術基盤
技術面を解説した荒牧氏によれば、中核をなすのはGoogle Cloudの「Gemini Live」だ。低レイテンシのリアルタイム応答が可能なAPIで、複数のGoogle Cloudサービスと組み合わせてユーザー体験を構築している。Geminiのマルチモーダル認識により、テキストだけでなく画面情報も認識してプレイヤーの行動状況を把握した上で応答を生成する。ボイス生成も世界観に合わせた調整が施されている。
AIモデル自体の改変は行っておらず、フロントエンド部分の制御や出力チェックの仕組みで世界観を逸脱した回答を防いでいる。14年の運営ノウハウとAI技術の組み合わせが開発のスピード感につながったと荒牧氏は述べた。
ゲーム開発者にとってAIは「90年代の2D→3D以上の変化」

説明会冒頭でジャック・ビューザー氏はゲーム業界の構造的課題を提示した。プレイヤー支出は過去最高の1,960億ドルに達する一方、営業利益は2021年以降年平均7%減少。市場成長の67%がRobloxに集中し、開発コストは2017年から90%増加しているという。ビューザー氏はこの状況を「完全に機能不全のモデル」と表現し、その打開策としてライブサービスと生成AIを融合させる「Living Games」構想を掲げた。
ゲーム開発者にとってのAIを「アイアンマンのスーツ」に例え、「今のこの変化は90年代後半の2Dから3Dへの移行よりも大きい。今後3〜5年でAIがすべてのゲームジャンルを変える」と確信を示した。今回の協業についても「基盤技術は我々が提供しているが、真のマジックはスクウェア・エニックスの力にほかならない」とパートナーへの敬意を述べている。
「効率が2倍になれば2倍のゲームが出せる」
質疑応答でAIの“友人”と人間の友人の違いを問われた安西氏は、印象的な回答を返した。「オンラインゲームで遊んでいる時、目の前のキャラクターの中の人がどういう人かは考えない。目の前の可愛い女の子が実は50代の男性かもしれない。そこは究極の自由。ここにAIが入ってもいいと思う」。一方で「そこまでいくと怖いと思う方もいる。だからこそ段階を踏みたい」と慎重さも見せ、いつか「ボードゲームで遊びたかったけど人数が足りなかった」問題が解決する日を夢として語った。

開発現場でのAI活用については、プランナーが衣装イメージをAIで生成して共有する効率化が進んでいるとしつつ、「お客様にアウトプットする最終データについては、AIが作ったものは使っていない」と明言。荒牧氏も「効率が2倍になれば2倍のゲームが出せる。そうやって業界を盛り上げたい」とスクウェア・エニックスの方針を示した。
おしゃべりスラミィのクローズドベータテストは3月21日から30日23時59分まで参加者を募集する。詳細は『ドラゴンクエストX オンライン』公式プレイヤーサイト「冒険者の広場」に掲載される。安西氏は最後に「ゲームとAIの新しいブレイクスルーになれば嬉しい。おしゃべりスラミィだけでなく、もっとやりたいことがある」と展望を語った。NPCではなく“友達”にAIを宿すというアプローチが、14年続くオンラインRPGにどんな変化をもたらすのか。



































