YOASOBIが作り出す音楽の世界へ全身で「入り込む」 ソニーPCL『INTO THE WORLD』体験レポート

提示された「新しい音楽体験のかたち」を振り返って

 3つの体験を通じて感じたのは、これらが単に音楽を「聴く」体験ではなく、アーティストの世界に全身で入り込む、新しい音楽体験のかたちだということだ。

 この体験は、大型LEDディスプレイによるダイナミックな映像空間、触覚を刺激するハプティクス、立体音響、そして来場者自身のスマートフォンとの連動によるサウンド表現など、ソニーグループが持つ複数の先端技術を横断的に組み合わせることで実現されている。体験後の質疑応答でも、グループ内の技術連携によってこのプロジェクトが成り立っていると説明があった。

 なかでも注目したいのは「音声同期を用いたスマートフォンの連動技術」と「ハプティックフロア」の2つだ。スマートフォン連動技術は、会場のスピーカーとは別に、手元の端末から効果音やセリフが同期再生されるというもの。会場全体の空間音響と手元の音が重なることで、独特の没入感が生まれていた。この技術が音楽ライブに導入されたのは、今回が初めてだという。

 もうひとつのハプティックフロアは、床面に振動を発生させる触覚フィードバック技術だ。今回の体験では、会場の床そのものが振動しており、音楽のリズムや重低音を身体の芯で感じさせる仕組みとなっていた。ソニーPCLによると、低音域に強いパワーを持つこの技術では、コンテンツに合わせて振動の強さや形状をカスタマイズ可能だという。たとえば、先述した地鳴りや爆発が起きた時の振動も、それぞれの質感が明確に異なっており、演出に合わせて振動そのものがデザインされていることが体感として伝わってきた。

 興味深いのは、ハプティクス技術の活用の可能性は、今回のような音楽体験だけに限らないということだ。ソニーPCLでは、すでに別のプロジェクトでこの技術と風や香りといった要素を組み合わせる実証実験にも取り組んでいるという。今後は音、振動にくわえて風や香りといった様々な要素を取り入れ、コンテンツの世界観に合わせた体験をより複合的にデザインしていくことも可能だそうだ。

 また、技術面以外ではYOASOBIがコラボレーターに選ばれた理由にも注目したい。本プロジェクトはアーティストの世界そのものに観客が入り込む体験を目指しており、物語から音楽が生まれるYOASOBIの創作プロセスがその構想と合致していたという。そのため、既存の音楽ライブの延長と捉えられかねない「バーチャルライブ」という表現は意図的に使われていない。

 実際、先述したようにプログラムは楽曲の再生からではなく、原作小説の朗読から始まる。そして、物語の世界に引き込まれたところでライブシーンが展開される。既存の音楽体験の延長にある通常のバーチャルライブとは一線を画す構成により、来場者は、小説から音楽が生まれるYOASOBIの創作プロセスをそのまま追体験することが可能だ。

 本イベントが意図した体験を通じて、筆者はコンサートでもなく、ミュージックビデオでもない、第三の音楽体験のフォーマットとしての可能性を十分に感じ取ることができた。

 しかし、今回の体験はあくまで「Concept Prototype」と銘打たれている通り、まだ実験的な取り組みの段階にある。この点について、ソニーPCLは技術の進化やビジネスモデルの構築など、乗り越えるべき課題は多いとの認識を示す。

 それらがひとつひとつ解決されていけば、今回の体験で片鱗が見えた「リアルとバーチャルの境界を溶かしていくことで生まれる新しい体験」は、さらに完成度を増していくはずだ。その意味で「INTO THE WORLD」は、その名の通り、新しい音楽体験の世界への入り口となるイベントだった。今後のプロジェクトの進展に引き続き注目していきたい。

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