ボカロP・OSTER projectはなぜ『ボカコレ』に“ガチ”で挑み続けるのか シーンのベテランが語る葛藤と恐怖

エキシビション部門は「結果」との向き合いに苦しむ層への“救済”となったのか
──そんな盛り上がりを経て開催された『ボカコレ2025夏』でしたが、大きなトピックの一つが順位に囚われない「エキシビション」部門の新設でした。
OSTER:この件も、私はドワンゴさんから直接伺ったんですけど、たしかにボカコレは回を追うごとにランキングが“ガチ化”していく一方で、そこに疲れてしまう層も増えていた印象はありました。その声を汲んで、こういった部門を新しく設けるのは、すごくアリだな、というのが最初の印象でしたね。
──激しい競争でシーンが盛り上がる反面、近年は「結果が出なかったら終わり」と自分を追い詰めてしまう人も増えましたよね……。
OSTER:自分も真剣に参加しているひとりなので強くは言えないのですが、ボカコレ以外にも道はいくらでもあるんですよ。「エキシビション」部門の新設は、そんな方への救済というか、「純粋にボカロ曲を聴いて楽しもうよ」というイベントの意図をあらためて感じられる試みだったと思います。
──ボカコレの原点である、「お祭り感」を取り戻す動きにも繋がりますね。
OSTER:実際、開催前はそういったランキングに疲れた層の参加が多いのかと思っていたんですけど、フタを開けてみたらそれだけじゃなかった。ボカコレ優勝経験のある方や、ネームバリューのある方の投稿も多かったですよね。
でも、その気持ちもわかるんです。やっぱり「ボカコレは新人発掘の場であるべき」と考える方も多いでしょうから、すでに実績のある人が「TOP100」に投稿するのは、“ランキング荒らし”的になってしまうのではないか、と思ってしまう人もいるだろう、と。そういう面でボカコレに参加し辛いと感じていた人は、これまでもいたと思うんです。
けれど、そんな人たちも「エキシビション」部門なら全力で楽しんでいいんだ、と喜んで参加していた印象を受けていて。そういう面でもいい取り組みだな、と感じましたね。
──ちなみに、OSTERさんは話を聞いた時点で「エキシビション」部門への参加も検討されていたんですか?
OSTER:そうですね。ただ、だいぶ早い段階で「TOP100」部門への参加は決めていたので、「エキシビション」部門の曲は後追いで用意した感じでした。
──「TOP100」部門には「フレンドリィファイア」を、「エキシビション」部門には「ウナ重」をそれぞれ投稿されています。部門ごとの向き合い方や、制作時のスタンスの違いなどはありましたか。
OSTER:「フレンドリィファイア」では、自分の強みであるジャズの曲調を入れつつ、「最近の曲っぽさ」を追求しています。特にBメロでメロディが突然三連符になる感じとか、ああいうのって2000年代には全然なかったんですよね。多分近年のトラップ系楽曲の流行りから来ているのかな。808(Roland『TR-808』)のベースがドゥーン、と鳴る感じも、同じだと思います。
──通常の八分音符ではなく、三連符で得られるリズム感や音価の変化感……いわば音と音の“間”の感覚が、今っぽい音楽に繋がるんですかね。
OSTER:やっぱり、ここ数年のいろんな曲を聴いていると、複雑な音楽が好まれ続けている印象を受けるんです。なので、メロディは三連符だけど、後ろのオケは十六分で刻んでみたり、そこも複雑さの演出としてトライした部分でした。
でも、そういう風にいろいろ工夫はしてみたんですけど、一方で今となってはちょっと気にし損だったかなと思うところもあります。
──というと?
OSTER:「フレンドリィファイア」は「今のボカロってこうだよね」を自分の中で強引に出した曲なんです。ですが、実際にランキングの結果を見てみたら、むしろ自分の個性や得意ジャンルを全面に押し出した曲の方が評価されていた印象があって。
あ、これは戦略間違えたかもしれない、と思いましたね(苦笑)。でも、これもボカコレの難しさなんですよ。「今回はこういう曲が評価されたのか、じゃあ次はこのテイストで行こう」と思っていたら、次の回では全然違う雰囲気の楽曲がヒットしたりして……全然傾向が予測できないな、と。
そもそもの話をすると、「フレンドリィファイア」はもともとは去年の春にリリースした重音テトのアルバム『テトとて』の書き下ろし楽曲なので、厳密にはボカコレに向けて作った曲ではないんです。前回のボカコレ用に新曲を作りたい気持ちはあったんですが、動画等のスケジュールも考えると満足のいく楽曲を作るのは少し厳しそうだな、と。一方で、アルバム曲は当然すべて心血を注いで作った楽曲なので、ボカコレに出すとしたら絶対にこれだな、と思っていました。それで、「フレンドリィファイア」で戦うことを決めたんです。
──それこそ直近のボカコレでは、既存のアルバム曲やコンピレーション参加曲に新規映像を付けて投稿する人も多い印象です。ものすごく厳密に言えば、完全新曲ではない参加なんですが、レギュレーション的には「ニコニコ動画に初投稿であればOK」というスタンスですからね。
OSTER:私自身も、周りのそういう動きを見て「あー、その形もアリなんだ」と思ったひとりだったりします。何も出さないよりは絶対にいいし、そこでみんなで盛り上がれたらいいな、とも思いますよ。
──イベントの盛り上がりに華を添えたいという感覚ですね。どうしても今までは、受け皿が「TOP100」部門しかなかったので。純粋に参加したい気持ちはあっても結局順位が付き纏ってしまう、という葛藤を抱える方もいたでしょうね。「エキシビション」部門の「ウナ重」についてはいかがでしょうか?
OSTER:「ウナ重」は、せっかくならエキシビション感のある曲、ちょっと肩の力が抜けた感じにしたいと思って作った曲です。もちろんこの曲で「TOP100」部門に参加してもよかったんですが、自分としてはやっぱりガチで勝ちたい気持ちもあったので、そちらは「フレンドリィファイア」にして……(笑)。
じゃあ「エキシビション」部門に投稿するのはどんな曲にしようか、と考えた時に、去年から使い始めた音街ウナちゃんのことがふと頭に浮かんできて。「ウナちゃんとテトって、組み合わせたらウナ+重音=“ウナ重”だよな……」とずっと思っていたことを思い出して(笑)。ちょうど夏だし、季節的にもうなぎといえば夏で旬だしいいかも、と思って、軽い気持ちで作りました。ただ、こちらもサウンド面に関してはちゃんと今っぽく、“2020年代”の音になるよう気を遣ってます。
──たしかに「エキシビション」部門のラインナップを見ると、少なからず“ネタ曲”的な作品も散見された印象です。
OSTER:以前、ボカコレにも「ネタ曲」部門がありましたよね。あれがもっと間口の広いものになって復刻する、という意図もあるのかな、と勝手ながら思っていました。なので、「エキシビション」部門というネーミングもすごく絶妙だな、と。
──個人的にはChinozoさんの「カニ」が特に印象的でした。かなりユーモアのある作品といいますか……(笑)。
OSTER:サビで歌うのを放棄するっていう、めっちゃ新しいスタイルですよね(笑)。あんなの、「エキシビション」部門じゃないと出せないですよ。でも、ボーカロイド、ひいては創作って、本当はもっと自由でいいんだ、と思わせてもらいました。その意味では、文化の原点をもう一度思い出させてくれる部門という印象ですね。
──人気のボカロPさんにはやはりガチ曲を期待しがちですが、“そうじゃない曲”を作りたい時もありますよね。……その結果、エキシビション部門では「ウニ」「カニ」「ウナ重」の“食べ物三つ巴”が発生しましたが……(笑)。
OSTER:なんなんでしょうね、やっぱり発想が似るんですかね。肩の力を抜いたら食べ物曲ができるのか、食べ物は人を安心させるのか。“美味しいもの”は共通言語なので、誰でも一緒に共感して盛り上がれるからかな(笑)。
ボカコレex今これ pic.twitter.com/Il1IJeCUOY
— 🎼OSTER🔫新曲『フランスかぶれ』 (@fuwacina) August 21, 2025


















