ボカロP・OSTER projectはなぜ『ボカコレ』に“ガチ”で挑み続けるのか シーンのベテランが語る葛藤と恐怖

OSTER project、ボカコレに挑み続ける理由

 年2回、ボカロシーンの祭典として開催される『The VOCALOID Collection(以下、ボカコレ)』。前回の昨年夏開催で10回という節目も迎え、6年目に突入した『The VOCALOID Collection(ボカコレ)~2026 Winter~』(以下、ボカコレ2026冬)が、今回2月19日~23日の4日間で開催される。

 前回開催時には毎回恒例の「TOP100」部門、「ルーキー」部門、「REMIX」部門にくわえて、新たにランキングのない「エキシビション」部門を新設。より純粋に数多くのボカロ曲を楽しむ、“VOCALOIDシーンの祭典”としての原点に立ち返るような動きも垣間見えた。

 そんなボカコレの新たな挑戦を、長年イベントと共に伴走してきたクリエイターはどう受け取ったのか。今回『ボカコレ2026冬』開催に際して話を聞いたのは、2020年の初回開催時から定期的に参加し続けてきたVOCALOIDシーン最古参の一人、OSTER projectである。

 「恋スルVOC@LOID」「ミラクルペイント」といったVOCALOIDカルチャーの金字塔的楽曲を複数生み出し、音楽業界でも数多くの実績を持つ作家である一方、「ランキングに入らなかったらどうしよう」「このまま“終わったクリエイター”として死んでいくのか」という“怖れ”を惜しげもなく口に出すOSTER project。

 彼女はなぜ、今なおボカコレへと“ガチ”で挑み続けるのか。そんな彼女が示す、シーンの先人としての背中とは。長年の経験を経たからこそ見えるボカコレの意義や、イベントに対する期待など。自身の創作論と共に、さまざまなトピックを語ってもらった。(曽我美なつめ)

自身の強みである“二次創作”的編曲で掴んだREMIX部門優勝

好きな惣菜発表ドラゴン~心を込めてREMIX~ -

──OSTERさんは遡ること、2020年冬のボカコレ初回にも投稿側として参加されていますよね。当時、イベントが初めて開催されるとの一報を聞いた際、どう思ったか覚えていらっしゃいますか?

OSTER project(以下OSTER):私、たしかボカコレの話はドワンゴさんから直接お伺いしまして。「今度こういうイベントをやるので、よければ参加してみませんか」とお話を頂いたんですよ。当然どんなイベントになるかは想像もつかない中で、でも面白そうな機会だしちょっと参加してみたいな、と。

 そのときは、自分はやはり編曲が得意な作家なので、皆が知っている曲をどういう風に一新するか、という点でリスナーの方を驚かせたいと思ったのをおぼえています。

──これまでの参加歴を見ると、REMIX部門での活躍が目立つ印象です。それはやはり、そういった自負もあって?

OSTER:そうですね。皆さんそれぞれ、いろんな曲に持っている元々の印象があるじゃないですか。その既存のイメージを思いっきり変えたり、新しい一面を見せられるぞ、という自信はあります。その流れでこれまでREMIX部門に「好き!雪!本気マジック」と「炉心融解」、あと「マーシャル・マキシマイザー」「好きな惣菜発表ドラゴン」の計4回参加していて、いずれもかなり好評を頂きました。

 私、そもそも“二次創作”が好きなんですよ(笑)。これまでいろいろな曲にトライしてきた中でも、やっぱり合成音声の子たちの“キャラソン”を作るのが得意だな、と思っていて。それこそSynthesizer V AI(以下、SV) 重音テトの公式デモソング「エイプリルスター」も、テトはSV発売までに辿って来たストーリーがいっぱいある子で、それを考えながら作った曲なので。なんというか、そういう点から発想を広げるのが純粋に楽しいんですよね。

エイプリルスター feat. 重音テトSV -

──REMIX、ないしは二次創作の“旨味”ですよね。既存作品の魅力にプラスアルファ、別の方の個性が混ざることで生まれる化学変化、と言いますか。題材にする作品はどうやって決めているんですか?

OSTER:大前提として広く愛されている曲を選ぶべきだと考えています。というのも、REMIXで“期待を裏切る”には、原曲を深く知っているが故の“大きな期待”が必要だと思うんですよね。

 誰しもが聴いたことのある曲がこういう形で新しくなるんだ、という驚きを与えるには、やはり元の曲が大勢に愛されている必要があるので、その点では選曲に結構気を遣っています。

──一方で、近年ではTOP100部門への参加機会も増えています。OSTERさんご自身の心境と同様、ボカコレ自体も徐々にイベントの質が変化していますが、その点についてはどんな感想を抱いていますか?

OSTER:VOCALOIDシーン自体もまた、ボカコレ初回の頃とはずいぶん様相が変わっていますからね。初回が開催された2020年末って、まだボカロシーン自体もギリギリ下火な時期の終盤だったという風に記憶していて。でも、今の参加者って、あの時とはマジで熱量が全然違うんです。「ボカロに人生賭けてます」みたいなクリエイターが大挙している。「公民館でやっていたお祭り」の感覚だったのが、あまりにも大きくなってみんなが楽曲で“殴り合う”ような面白いイベントになりましたよ。

──ご自身もSNSで「本気で殴る」と仰っていましたもんね(笑)。

OSTER:はい(笑)。前回のボカコレ開催後に、ニコニコ代表のくりたさん(栗田穣崇)のXのスペースにお邪魔した時に、登壇参加者さんがみんな“ガチ泣き”していて。結果を残せてよかったという安堵から泣いている人もいれば、結果が思うように出せなくて悔し涙を流している人もいて。でも、どちらも本気で取り組んでいたからこその涙じゃないですか。あらためて、すごいイベントに参加しているんだな、と思いましたね。

──以前も別のインタビューで、「歴に関係なく、対等なクリエイターとして新人と戦いたい」と仰られていた記憶があります。

OSTER:ずっと活動しているので“大御所”とは言われますけれど、とはいえ私の代表作が出てからはもう20年近くが経つわけじゃないですか。20年前の曲って、やっぱりめちゃくちゃ昔の曲なんですよ。今の音楽業界で、「自分は未だに20年前の感性で曲を作っているんじゃないか」と思うと、ものすごく怖くて……。

 それこそ“今”のサウンドを聴いて育った人たちがいろんな曲を出す中で、「あー、なんかこういう感じの曲、昔に流行ったよね」と思われて、リスナーからも私の曲が聴かれなくなっていくんじゃないか。そういう恐怖がずっと付き纏っているんです。その中で、「やっぱり自分も変わっていかなきゃいけないんだ」と意識し始めたのが、ちょうどTOP100部門に参加し始めた2023年の夏頃ですね。

——OSTERさんほどの方でも、そう思われますか。

OSTER:はい。今でもめちゃくちゃ怖いですよ。昔の勢いに比べたら、自分の今の曲は全然再生されないし、その横で若い人がものすごい勢いで何千万再生の曲をバンバン出していて、このまま自分は“終わったクリエイター”として死んでいくのか、って。でも、怖がっているだけでは何も変えられない。だったらダメで元々、むしろ試行錯誤しながら自分が求められているものを一つひとつ探りながらやっていこう、と。そんなセルフキャンペーンを始めて、今が3年目って感じですね。

──となると、やはり今までで一番印象的だった参加回はやはりTOP100部門への初参加ですか?

OSTER:たしかにあの時も、「ランキングに入れなかったらどうしよう」と思ったのをよく覚えてるんですけど……、一番はやっぱり「好きな惣菜発表ドラゴン」(以下「惣菜ドラゴン」)のREMIXでの部門優勝ですね。あの時は本当に嬉しかったです。

 初回と違って参加人数も熱量もものすごく高まってる中で、自分じゃ無理だと思ったりもしたんですけど、曲に救われました。ンバヂさんの生み出したドラゴンの愛され方がすごかったおかげですね。その上で私の「自分なら、こういうストーリー」を詰め込んだ壮大なオーケストラアレンジと、元々の「惣菜ドラゴン」の健気な愛くるしさのギャップが大勢にクリティカルヒットして、ああいう結果が得られたのかな、と思っています。

好きな惣菜発表ドラゴン / 重音テト -

──元々「好きな惣菜発表ドラゴン」は二次創作の流行から人気を得た曲でした。ドラゴンの発表する内容をアレンジする方が多かった中、“惣菜を発表する”形式のままにドラゴン自身の背景を掘り下げるアレンジとした点は、まさにOSTERさんの手腕が遺憾なく発揮された“二次創作”だったと思います。

OSTER:個人的に、「惣菜ドラゴン」は、“好きな惣菜を発表する”ところが好きなんです。私自身も、毎食の食事をすごく大事に食べるタイプなので、惣菜への気持ち・愛着がめちゃくちゃあるんですよ(笑)。なので、やっぱりドラゴンには好きな惣菜を発表して欲しくて、あれが私なりの「原作へのリスペクト」でした。くわえてサウンド面も、ジャズやクラシックのアレンジはメインストリームの中であまり用いられてない印象があったので、そこもリスナーの皆さんに刺さった部分なんだと思います。

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