VAZが赤字続きから“大幅な増収増益”を果たした理由とは? 10周年以降の「感性AI」戦略にも迫る

2020年秋に共同ピーアール株式会社 代表取締役社長/株式会社新東通信 取締役の谷鉄也氏を取締役会長に迎え、2022年1月からは同氏が代表取締役社長に就任し新体制となった「株式会社VAZ」。同社は長年にわたる赤字を2023年に解消し、現在は大幅な増収増益を果たしているという。
VAZがどのようにして逆境から立ち直ることができたのかは以前のインタビューでも掘り下げたが、そこから約3年が経ち、同社が設立10周年を迎えてもなお、さらなる成長を遂げている背景とは。再び谷氏へインタビューを行い、経営戦略の変化やAI時代における注力事業について、じっくりと話を聞いた。(編集部)
増収増益の背景は「めるぷち」らの躍進と「ザルファ世代」マーケティングでのポジション確立

ーー前回の取材は2023年3月でした。あれから約3年の月日が経過しましたが、この期間でエンタメ業界、特にインフルエンサーを取り巻く環境は変化し続けているように思います。VAZおよび谷さんご自身にはどのような変化がありましたか。
赤字続きのインフルエンサー事務所「VAZ」を立ち直らせた代表・谷鉄也が語る“生き残るクリエイター・マネジメントの共通項”
『仮面ライダーギーツ』(テレビ朝日系)出演で話題の星乃夢奈や、ティーンから絶大な支持を集め、Popteen専属モデルとしても活躍…谷:まずは会社の状況についてお話ししますと、売上は当然伸びていますが、利益面は2022年が約2000万円、2023年は約4000万円、2024年は約8000万円と推移し、2025年は1億円を超える見込みです。そうなると会社としての最高売上・最高利益ですから、社員たちは本当によく頑張ってくれたと感じています。
ーーそこまで右肩上がりに利益を伸ばしている理由とは?
谷:成長の理由は多々ありますが、ひとつ間違いないと言えるのは、インフルエンサー業界が大きな転換期を迎える中で、VAZが単なる「YouTuberプロダクション」から「コンテンツIPを持つマーケティングカンパニー」へと、より強固に進化できたことにあると思います。
ーー具体的にどのような「コンテンツの力」がVAZを支えているのでしょうか。
谷:代表的なものとしては、小中高生を中心に圧倒的な支持を誇る「めるぷち」が挙げられます。チャンネル登録者の伸びだけではなく、『めるぷち選抜決定戦』のような有料イベントはチケットが即完売したり、今年の秋に開催される『第20回アジア競技大会・第5回アジアパラ競技大会』の公式応援サポーターに就任するなど、社会的な施策の顔になることもできました。アジアのオリンピックとも言える国際的な大会において、このような起用をしていただけたことは、彼女たちの信頼性と公共性が高く評価された結果だと自負しています。
ーーかつてのVAZは、特定の有名クリエイターが牽引するイメージが強かったですが、ポートフォリオがガラリと変わりましたね。
谷:そうですね。以前はどちらかと言えば「やんちゃ系」というか、刺激的なコンテンツを作るクリエイターが注目されがちでした。ただ、2010年代後半から体制も徐々に変化し、数年かけて準備した結果として、現在の形へと舵を切ってきました。
ーーそのほかに活躍が目立ったクリエイターを挙げるとすると?
谷:昨年YouTubeのチャンネル登録者が150万人を突破した「コスメヲタちゃんねるサラ」も大活躍しています。彼女が開催した有料イベントもチケットが即完し、長蛇の列ができたほどです。彼女やめるぷちの活動を見ていて思うのは、ファンが単に画面の向こう側の存在として見ているだけでなく、リアルな体験やブランドに対して対価を支払う「熱量」を持っている存在になってくれているということです。
私たちは現在、10代を中心とした若年層女子、いわゆる「Z世代」と、さらにその下の「アルファ世代」を合わせた「ザルファ(Zalpha)世代」のマーケティングにおいて、非常に強いポジションを築いています。彼女たちが『東京ガールズコレクション』(TGC)などの大きな舞台に立つ機会が増えていることもその証拠ですね。
ーーイベントのお話も出ましたが、単純にYouTubeの広告収益だけに頼らないビジネスモデルの構築ができていることも大きいのでしょうか。
谷:そうですね。先ほど挙げためるぷちはイベントなどのほかにも「めるぷち」プロデュースのコスメブランドをローンチしたいと思っています。コンセプトは「バレないけど盛れるコスメ」。校則が厳しい学校でも使えるけれど、確実に可愛くなれる。そうした「ザルファ世代」のリアルな悩みに寄り添った商品開発も今後は行っていくつもりですし、ゆくゆくは「IP」にしていくことを目指しています。
また、ビジネスモデルもそうですが、マネジメント会社としてはSNSやYouTubeというフィールドで活躍するインフルエンサーとしてだけでなく、マルチに活躍できる「タレント」へと育てていくためのエコシステムを構築しています。例えば、テレビ番組の現場に行った際に適切な受け答えができるか、舞台で人の心を動かす演技ができるか。これらは基礎的な教育が必要な領域です。少し前に取締役から「テレビの脚本家や演出家を講師に招いた演技やトークのレッスンを定期的にしたい」と提案があり、その場で採用してタレントへの福利厚生に組み込むようになりました。
ーー「事務所の存在意義・役割」といった議論はコロナ禍前後で活発化しましたが、そういった教育の側面はまさに事務所が必要とされる理由にもなりますよね。
谷:はい。利益が出始めたからこそ、社員の給料を増やすだけでなく、クリエイターの福利厚生や教育環境、つまり「クリエイター競争エコシステム」の整備にお金をかけるというのが方針です。VAZと一緒にやると、一人でやるよりも面白いことが何倍にも広がる。そう感じてもらえるような組織でありたいと思っています。
ーー先ほど「IP」戦略の話も少し出ましたが、海外展開なども考えていたりするのでしょうか?
谷:もちろんです。めるぷちのアジア競技大会サポーター就任は、アジア展開を行ううえで大きなトピックになるでしょう。大会を通じてアジア全域での知名度を高め、今年の秋にはアジア中から集まる人々に「めるぷち」やVAZのコンテンツを知ってもらう絶好の機会になると思っているのですが、そこで重要になるのが「言語の壁をどう乗り越えるか」です。
ーー確かに、そこは日本から世界へ打って出る際に必ず障壁となる部分です。谷さんには打破するためのアイデアがあるのでしょうか。
谷:「音声AI」の活用ですね。AIを使って多言語対応を行い、日本のコンテンツをそのままの熱量でアジアへ、そして世界へと届けていきたいと考えています。
実は私自身、経営の最優先事項に「AI」を置いているんです。昨年12月には初めての社員旅行としてグランピングに行ったのですが、その際もただ遊ぶだけでなく、3時間の「AI研修」を実施しました。私が講師としてカリキュラムを作成し、社員のレベルに合わせた教材をAIを使って準備しました。AIの研修を受けた後に、農園で野菜を収穫し、星空の下で焚き火を囲むという、アナログとデジタルが共存するような体験を社員と共有したかったのです。これからの時代、AIを使いこなせるかどうかは企業の生存に直結します。今年の夏までにAIを導入しきれていない会社は、もう追いつけないほどの差をつけられるという危機感を持っているくらいです。
経営者としてのAIへの向き合い方は「効率化ツールではなくエージェントとして使いこなせるか」
ーーそこまで徹底されているのですね。谷さん自身も講師を務めるほどですし、日常の業務でもAIをかなり使い込まれているのでは、と思いました。
谷:正直に言うと、完璧に使いこなしているというより、「毎日悪戦苦闘して汗かきながら試している」という感覚に近いですね。普段はCursorやObsidian、AntigravityといったAIツールをつなぎながら使っています。日記や会議の議事録は、基本的に全部音声で残していて、それをそのままAIに読み込ませています。
そうすると、今抱えている課題の整理やスケジュールの見直し、さらにはブログ記事の下書きまで、自然と形になっていく。例えば、筋トレをしながらふと閃いた「重力に逆らう(アンチグラビティ)」という言葉とAIツールの「Antigravity」をかけて「人生の老化に逆らう」という哲学的なテーマの記事を書き、そこに添える漫画のラフまで仕上げるアプリをつくったり。
AIを「楽をするための効率化ツール」として使うよりも、「自分の思考や能力を拡張してくれる相棒」や「エージェント」として付き合うほうが、ずっと面白い。経営者がAIに向き合うって、最初からスマートである必要はなくて、むしろもがきながら、転びながら、自分なりの使い方を見つけていくことが大事なんじゃないかと思っています。

ーーこれらのテクノロジーの活用は、VAZのこれからのビジネスにどう反映されていくのでしょうか。
谷:私が今年、社員に向けて掲げたキーワードは「感性AI」です。AIは論理的で科学的なアプローチは得意ですが、私たちはエンターテインメント、つまり「感動産業」に身を置いています。人がなぜ泣き、なぜ喜ぶのか。そうした「感性」や「共感」の世界を、AIを使って構造化し、再現性のあるビジネスに昇華させていくことがテーマです。例えば、100メートルを機械が5秒で走っても誰も感動しませんが、人間が10秒で走る姿には涙を流します。その「割り切れない感性の世界」を大事にしながらも、最新のテクノロジーをギアとして使いこなし、人間の創造性を最大化させる。それが「感性バズ」という新しい方針の核心です。
ーーテクノロジーと人間の感性の融合、非常にワクワクするお話です。ちなみに、以前からお話しされていた「社長のバトンタッチ構想」については、現在どのように考えていらっしゃいますか。
谷:その話については、いつも公言しすぎて「社長やめる詐欺」だなんて言われ始めています(笑)。もちろん、今でも自分を超えるようなエネルギーを持った次世代のリーダーは探し続けていますし、適任者がいればいつでも託すつもりです。しかし、今日お話ししたように、AIという新しい武器を手にし、やりたいことが次々と溢れてくる今の状況では、まだまだ私自身が先頭に立って走らなければならないことも多いと感じています。
会社としてはまだまだ「蕾」の状態だと思っていますが、財務体質としてのPL(損益計算書)はどこに出しても恥ずかしくない、健全で強力なものになりました。今後はここからさらに「非連続的な成長」を目指していかなければなりません。「この仕事、やっぱりVAZだったのか」と言われるような、インパクトのある実績を積み上げていきたいと思います。
























