連載:クリエイティブの方舟(第7回)

カンタ×QREATION・米永圭佑が考える“縦型ショートコンテンツ市場の変化” 「プロが本気で作品を作る場所になった」

 400万人超えのYouTube登録者を抱えるチャンネルのブレーン的役割を担い、「佐藤寛太」名義でミュージックビデオなどの映像作家としても目覚ましく活躍する水溜りボンド・カンタと様々な業界のクリエイターが、クリエイティブの源流を含む創作論について語り合う連載企画「クリエイティブの方舟」。

 第7回は、SNS総再生数20億回を超えるショートコントシリーズ『本日も絶体絶命。』や『うえだしんや界隈』などを手掛け、2025年10月には10億円の資金調達を実施して大きな話題を呼んだ株式会社QREATIONの代表取締役・米永圭佑氏が登場。意外な共通点もある2人による対談は「縦型ショートコンテンツのこれまでとこれから」をテーマに、プラットフォームの変遷、クリエイターエコノミーの現在地、そして「プロが作るショートドラマ」の可能性などについて、幅広く展開していった。(編集部)

「『やる・やらない』がはっきりしていることが時代に合っている」

カンタ、米永圭佑

ーーまずはお二人の接点について伺いたいのですが、実は意外な共通点があったそうですね。

カンタ:そうなんです。共通の知り合いであるクリエイターの伊吹(伊吹とよへ/伊吹は株式会社QREATIONの取締役でもある)がきっかけで一度ご飯を食べたんですけど、そこで衝撃の事実が発覚して。僕らの出身中学が隣同士だったんですよ。

米永:同い年で、同じ地元というだけでなく、かなり近い生活圏だったんですよね。僕はサッカー部だったんですけど、カンタさんのいた学校とはライバル校で。その2校が試合するとなると、小さな早慶戦くらい盛り上がるイベントだったんです。

カンタ:僕はバスケ部だったんですが、中学の引退試合の相手が、まさに米永さんの学校でしたから。まさか20年経って、こんな形で再会するとは思わなかった。共通の知人の名前が40人くらい飛び交って、一気に距離が縮まりましたね。

ーーまさに「運命の再会」ですね。米永さんは日本テレビで3年間ディレクターとして経験を積んだあと、現在のQREATIONを立ち上げられました。カンタさんが今、米永さんとお話ししたいと思った理由はどこにあるのでしょうか。

カンタ:僕も「Arks」というクリエイティブチームを作ったタイミングだったんですけど、米永さんのアプローチにはずっと注目していました。伊吹が米永さんの会社で頑張っている話は聞いていましたし、彼らの作るコンテンツの「質の高さ」が、今のSNSの潮目を変えていると感じたからです。

米永:ありがとうございます。僕は日テレ時代の師匠である橋本和明さん(『有吉ゼミ』『有吉の壁』『マツコ会議』を手掛け、現在はABEMA『愛のハイエナ』などにも関わる演出家・ディレクター/株式会社QREATIONの取締役でもある)からテレビのクリエイティブを学びました。その後、TikTokの世界で伊吹と出会ったとき、高校生や大学生が自分で編集して面白いものを生み出している姿を見て「新時代だ」と直感したんです。さらに、橋本や伊吹と色んな話をする中で共通していたのは、テレビとSNSという戦場は違えども、二人が「コンテンツを見てくれる方の心がどう良い方向に動くか、面白いと思ってもらうか」に真摯な人だということなんです。

 あらゆるクリエイターにそれが共通していくなら、色んな形のクリエイティブが生み出せたり、それがビジネスになるんじゃないか、クリエイターの感性やスキルをもっと社会に還元できるんじゃないか、と思って立ち上げたのがQREATIONという会社です。

ーーテレビという「マスの王道」から、SNSの「縦型ショート」という対極の領域に飛び込まれたわけですね。

カンタ:そこが面白いんですよ。僕らクリエイターの悩みって、ずっと自分が「演者」としてフレッシュであり続けなきゃいけないという強迫観念なんです。でも、企画を立てて人を喜ばせるのが本質なら、別の演者を演出しても成立するはず。それをエンタメの側を出自とする人が本気で、しかも会社という組織でやろうとしているわけですから。

 これは同じ地域の生まれだからかもしれないですけど、僕らって「バチバチに戦おう」みたいなところがないというか……。だからこそ越境して手伝ってくれる人たちも多くて、その人たちと成果を出して仲間を増やしていくスタイルだと思うんです。ただ、それって超短期的に成果が出るかと言われればそうではなくて。結構時間と気合いが必要ではあるんですよね。

米永:そうなんですよね……。それでも会社がうまくいき始めているのは「コンテンツに対する信念」というか、「やること・やらないこと」がはっきりしていること、それが時代に合い始めている部分もあるからかもしれません。SNSはある種炎上しながらでも多くのアテンションを取っていく、少し過激な目線をつけてバズっていくことも一つの手法としてはあると思うんですが、僕たちはそっちじゃないアプローチで頑張っていて、そこを評価いただけている気がします。

「Instagramのリールはカフェ、YouTubeやTikTokはコンビニ」

ーー最近では「縦型ショートドラマ」というジャンルが確立されつつありますが、カンタさんはこの流れをどう見ていますか?

カンタ:正直、最初は「TikTokでドラマ?」って懐疑的だった部分もありました。TikTokって、スワイプひとつで次の動画にいけるから、視聴者の集中力を維持させるのが一番難しいプラットフォームじゃないですか。そこで物語を見せるのって、相当ハードルが高いことだと思うんです。

 でも、最近は『カメラを止めるな!』などを撮られている上田慎一郎監督がTikTokでショート映画を作られたり、プロの映画監督や脚本家が参入してきたりして、明らかに潮目が変わりましたよね。「あ、これはプロが本気で作品を作る場所になったんだな」と。

米永:そうですね。僕らが目指しているのも、作品として成立する「コンテンツ」です。これを僕らは「PGC(Professional Generated Content)」と呼んだりもしますが、UGC(User Generated Content)のプラットフォームの中で、あえてプロの技術とクオリティで勝負する。そこに面白さがあると思っています。

カンタ:プラットフォームごとの「質」の捉え方も変わってきていますよね。僕の分析だと、Instagramのリールは「カフェ」に近い。友達をフォローしている空間だから、あまりに押し付けがましいテロップや客引きのようなコンテンツは嫌われる。逆に作品として完成度の高い、引きのコンテンツが伸びやすいんです。

 一方で、YouTubeやTikTokは「コンビニ」のような感覚です。情報のスピードが速く、次々と新しいものが流れてくる。でも、最近はそのコンビニの中に、めちゃくちゃクオリティの高い商品が並び始めている。その使い分けが重要になっています。

米永:なるほど、その分析は面白いですね。僕らはプラットフォームごとにというよりは、一番戦いにくいTikTokを主戦場にしていますね。コンテンツの投稿量や競合相手の数を考えると一番難しい場所ですが、そこで見られるものならリールやYouTube Shortsでも十分見てもらえるコンテンツになっていくと思うので。リールが伸びやすいと思ってはいたのですが、いまのカンタさんのお話を聞いて納得しました。

ーーQREATIONは縦型ショートバラエティ的なコンテンツを作ることも多く、特に最近、くりぃむしちゅーの上田晋也さんら豪華出演陣によるショートバラエティ『うえだしんや界隈』が大きな話題を呼びました。

米永:上田さんご自身が「新しいお笑いやコントをショートでやってみたい」という強い熱量を持っていて、僕らはそれを成功させるために全力でサポートさせていただいています。一昔前に比べて、メディアの垣根がどんどんなくなってきていますよね。

カンタ:あれを見たときは驚きました。「そっくりさんかな?」と思うくらいのカオスなメンツで(笑)。でも、あのような「本気」のコンテンツがぬるっとタイムラインに流れてくるのが今のSNSのすごさですよね。地上波ドラマでも集まらないような豪華なメンバーが、縦型の中で真剣に遊んでいる。

ーー有名人が参入することで、視聴者の目も肥えてきているのではないでしょうか。

米永:間違いなく肥えていますね。僕らが手掛ける『本日も絶体絶命。』でも、1年前なら2ショットと1ショットの切り替えだけで大ヒットしましたが、今はカット割りのテンポや画の質感を磨かないと、どこか退屈に感じられてしまう。昨年と同じ手法はもう通用しません。

カンタ:SNSだからといって「簡単に作れる」わけじゃない。むしろ、10秒や20秒のダンス動画が溢れる中で、1分以上のドラマを最後まで見てもらうのは、ものすごく高いハードルです。そこを突破するためには、プロフェッショナルとしての「狂気」に近いこだわりが必要になりますよね。

ーーカンタさんは、自身もトッププレイヤーでありながら、現在はArksのような制作する側、裏方としての事業にも力を入れています。その心境の変化はどこから来たのでしょうか。

カンタ:10年YouTubeをやってきて、トレンドを追い続ける「その日暮らし」のような焦燥感はずっとありました。でも、今は「5年後、10年後にも残るもの」を作りたいというマインドに変わっています。クオリティを追求していれば、いつかまた別の形で評価されるかもしれない。その安心感を、チームで作っていきたいんです。

米永:カンタさんは演者の気持ちが分かるからこそ、最強のディレクターになれると思います。僕ら制作陣は、どこまで行っても「出る側」としてのプレッシャーや感情は本当の意味では体験できない。でも、カンタさんは「映像的にはこれが面白いけど、今はこれをやりたくないだろうな」という葛藤すら理解した上で、最適な言葉を選ぶことができる。それは圧倒的なアドバンテージになりますよね。

カンタ:そう言っていただけると嬉しいです。でも、最近は逆に「自分もちょっと出たいな」と思う瞬間もあるんです(笑)。かつて夢見ていた芸人さんと一緒にコントを作れる環境にいて、演出も分かる自分が演じることで、さらに説得力が出るんじゃないかと。そういう生き方ができる時代になったのは面白いですね。

米永:そういう意味ではカンタさんのような人と僕たちがテレビとSNSを主戦場にする方をそれぞれ一つの企画に集めて、YouTubeの横動画を接着点にすることができれば面白いと思います。

ーー2025年のQREATIONはシリーズAラウンドで10億円の資金調達を実施されました。この資金を元に、今後はどのような展望を描いていますか。

米永:僕らが取り組んでいることのうち、大きなものは「まだないジャンルを開拓しよう」というところですね。たとえば今年4月に日テレさんと立ち上げた『ちょこっとぱーちー』。これまでお昼の情報番組が主婦層のトレンドを生んできたよねという話から、今はSNSからトレンドが生まれる時代だからこそ、若い子のトレンドを生み出すバラエティ番組を縦型で作れるのではないか、という発想がベースになっています。あらゆるコンテンツのジャンルとニーズを掛け合わせていけば、まだまだ新しい物は作れますし、色んなパターンの勝ち筋も見つかっていくと思います。

ーー最後に、お二人が縦型コンテンツの制作において大切にしているポイントについて教えてください。

米永:僕は「スマホというデバイスの特性」ですね。例えば、縦型ドラマを撮るとき、映画のような引きの画(ルーズショット)はあまり効きません。でも、スマホを構えた位置からの「第3者視点」や「POV(主観)」的な構図は、視聴者にとって非常に心地よく、没入感を生むんです。撮るのと見るのが同じデバイスだからこそ生まれるリアリティを追求しています。伊吹と撮影をした時に驚いたのですが、しっかりとしたカメラを使って撮影しようとしたところ、彼が「画質が良すぎるかも」と言って、元々あった三脚に自分のスマホを置いて撮ったものが最終的に採用されたこともあったんです。

カンタ:面白い話ですね。そうやって作り込みすぎない「生感」を残しつつ、でもプロの技術で質を担保する。その絶妙なバランスは、たしかにこれからのヒットの鍵になるかもしれない。

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