朗読×生演奏×舞踊が幻想と現実をつなぐ「メタファー:リファンタジオ リーディングライブステージ」レポート
『メタファー:リファンタジオ』(以下、『メタファー』)は、アトラスが2024年にリリースしたRPGタイトル。『ペルソナ』シリーズなどを手がける橋野桂氏、キャラクターデザイナー・副島成記氏、コンポーザー・目黒将司氏など『ペルソナ3』~『ペルソナ5』までのメインクリエイターが主に参加しており、「幻想」をテーマにしたストーリーが特徴だ。
今回は2025年11月15日~11月16日に行われた、声優陣による朗読に、生演奏の音楽と舞踊が加わった新感覚の「メタファー:リファンタジオ リーディングライブステージ」を鑑賞することができた。本記事では、11月15日昼公演の模様をレポートしたい。
朗読×演奏×舞踊の新感覚ステージ
会場であるKAAT神奈川芸術劇場に到着すると、受付や物販に長蛇の列ができていた。物販コーナーには公演パンフレットやブックストレージボックス、キャラクターのチケット風カードが並び、観客は開演前から購入に熱心。スクリーンには幻想的な装飾が施されて作中の「アカデメイア」が表現され、開演前から『メタファー』への没入感が高まった。席に着くとちょうど開演前の注意事項がガリカからアナウンスされていたが、「スマートフォンの電源を切って」というセリフとともに「私たちの世界にない魔道器」だと話すなど、細部まで世界観が反映されていた点が印象的だった。
キャストは演奏やダンサーをはじめ、主人公(ウィル)役に花江夏樹、相棒の妖精ガリカ役に諸星すみれ、仲間となるストロール役・小野賢章、ヒュルケンベルグ役・早見沙織、グライアス役・稲田徹の5名が登壇。ポスターや登場キャラクターで察せられるように、本公演はウィルがストロールたちに出会い、王位争奪戦に身を投じるまでの序章部分を、約1時間半のステージに再構成したものだ。
ステージはゲーム同様にモア(CV:子安武人)から“私たち”に対して、「幻想は無力な作り物か?」と問いかけられるオープニング再現からスタート。その後各キャラクターの自己紹介が行われたが、その際ストロールなどの本編前の動向が掘り下げられていた。特にグライアスは回想としてユークロニア王子やヒュルケンベルグとのやりとりが大幅に増加。そのおかげでウィルやガリカに並ぶ主役として、「王子を救いたい」という気持ちに感情移入がしやすくなっていた。
また続いて驚いたことは、“主人公が「ウィル」と名付けられて普通に喋る”点だ。本編ではプレイヤーが各々で命名し、ほとんど話すことはなかった。しかし舞台では自発的にガリカと軽口を話したり、ストロールに声をかけたりと、一人のキャラクターとして確立していた。天然かつ意志の強い側面もセリフの端々から感じられ、これはプレイヤーだからこそ驚かされた要素だった。
ストーリーもキャラクター描写と同じように、本編の同じ部分をなぞるのではない。テンポの良い会話劇として成立させるために、一部シナリオをオミットしていたほか、逆にヒュルケンベルグが蜜蜂のささやき亭で食事をしていたり、王子の太刀乗りのエピソードが語られていたりと、オリジナル展開やゲームの補完が語られていた。そのため、本公演から『メタファー』に入門する人に優しい側面と、既プレイヤーであっても新鮮で飽きにくい工夫が組み合わされていたと感じた。
本舞台で素晴らしいと感じたのは、紗幕(薄く透ける素材の幕)を利用した演出の数々だ。『メタファー』はRPGでバトルシーンやムービーも存在するが、ステージでは場面に応じてキャストの前と後ろに映像が投影されていた。たとえばシーカー、ファイター、ナイトへの覚醒シーンが描かれたが、紗幕にアーキタイプのシルエットが映し出され、一段上に立った声優陣が心臓型のマイクを手に、口上を叫ぶシーンは印象的だった。またバトルシーンも開始時の「WARNING」表示、「サイク」などのスキルエフェクト・SEも見事に再現。特に必殺技にあたるファイターの「断岩無双烈空斬」は、アフタートークで小野賢章が「はじめて声をあてた」と語っていたが、ゲームでも聞いてみたいと思うほどの迫力だった。
生演奏はヴァイオリン、チェロ、サックス、ピアノの4種類で、戦闘シーンや覚醒シーンに合わせてタイミングよく演奏され、舞台全体の緊張感を高めていた。ダンサーはキャラクターの動きを象徴するように舞台前方と後方で動き、ニンゲンの不気味さの表現などを紗幕に映るシルエットと同期した幻想的な演出で生み出していた。私のようなあまり舞台について触れてこなかった人間として、朗読劇はゲームと比べて“静的”なイメージを持っていたが、演奏や踊りで作中さながらのダイナミックさを感じられた。公演の最後には、エンドロールとして演奏陣・ダンサー、キャストの名前がスクリーンに流れる演出があり、会場からははちきれんばかりの拍手がいつまでも続いた。この瞬間、舞台を作り上げた全員の熱量と観客の感動がひとつになったのを実感した。
『メタファー:リファンタジオ』が舞台で得た新たなリアリティ
『メタファー:リファンタジオ』はゲーム本編で「幻想」をテーマに掲げ、現実社会の問題や人々の価値観をどう受け止めるかをプレイヤーに問いかける作品だった。しかし今回の「リーディングライブステージ」を観て感じたのは、その“幻想”が舞台という現実の場に立ち上がった時、むしろ現実との境目があやふやになっていく不思議さだった。朗読や演奏、映像、ダンスが一体となることで、客席に座っているのに物語の世界へと少しずつ引き込まれていく。
もともと画面の向こう側にいたキャラクターたちは、声優陣の声や息遣い、生演奏の迫力を通じて、目の前に“生きている存在”として立ち上がる。ウィルたちの言葉や行動はフィクションのはずなのに、舞台上で重ねられると自分の感情と自然につながってしまう瞬間があった。ゲームをプレイしていたときにも、彼らの言葉がどこか自分自身の気持ちと重なる瞬間があったが、今回はその実感がさらに強まった。声優陣の掛け合いや生演奏の熱量が加わることで、画面越しでは味わっていた“心が揺さぶられる瞬間”が、より直接的に届く形になっていた。
ゲームは“現実へ持ち帰る気づき”を残すタイトルだったが、この舞台もまた、それに近い体験を与えてくれたと思う。公演後には、幻想と現実のあいだで揺れ動くような感覚が残り、『メタファー』のテーマ「FANTASY LIVES ON…」の言葉が静かに胸に落ちてくる。虚構の世界を通して、自分の考え方や立ち位置がむしろクリアになる。その余韻こそが、『メタファー』が提示してきた“幻想が現実に働きかける”というメッセージなのだと改めて思えた。幻想を作り物のままで終わらせないために、これから自分が何を感じ、どう向き合っていくのか。そんな問いを受け取った公演だった。