Valveの新VRヘッドセットに、“空間が変形”する音楽体験——斬新な新顔が多数登場したバーチャル業界の一週間

VALVE INDEXから6年 Valveの新VRヘッドセット『Steam Frame』が示すこと

 VRヘッドセットの名機『VALVE INDEX』が世に出たのは2019年。独自性のある機構とたしかな性能を持つ同機と、指の動きを検知できる静電容量センサー付コントローラーは、2025年現在も愛好者が絶えない。

 そんな人気のVRデバイスと、なによりPCで起動するVR環境の基幹・Steam VRを送り出しているValveが、ついに新たなVRデバイスを発表した。その名は『Steam Frame』だ。

Steam Hardware Announcement

 『Steam Frame』は、Metaの「Quest」ライクな構造とコントローラーで構成された、見かけはオーソドックスなスタンドアロン型VRヘッドセットだ。しかし、OSには携帯型ゲームコンソール機『Steam Deck』と同じ「SteamOS」が搭載されている。本機はPCで起動した『Steam』と連携し、非常にスムーズにVRコンテンツをストリーミングできるとのこと。さらに、コンテンツをヘッドセット内に直接インストールし、起動することもできるようだ。

 コントローラーもMeta「Quest」ライクである。しかし、『VALVE INDEXコントローラー』と同様に静電容量センサーが搭載されているようだ。事実であるならば、かの名VRコントローラーに近しい挙動も期待できる。

 そして本機のなによりの特徴は、非VRゲームも起動できることだろう。Steamライブラリにある様々な非VRゲームを、任意のサイズのバーチャルスクリーンに映してプレイできる、ヘッドマウントディスプレイとしての使い道が提示されている。昨今流行りのMR機能には力を入れず、頭に被るゲーム機として売り込む姿勢は、Valveならではだ。

 そして、Vavleから発表されたのは『Steam Frame』だけではない。Steamで配信されたゲームに最適化されたコントローラー『Steam Controller』、SteamOSを搭載したキューブ型のゲーミングPC『Steam Machine』。これらと『Steam Frame』、そして『Steam Deck』は、全てSteamを基盤とするエコシステムにシームレスに接続する。世界最大クラスのゲームプラットフォームを軸にした“ファミリー”の展開は、VR業界はおろか、ゲーム業界全体へ強力な殴り込みを仕掛けにきているように、筆者は感じられた。

yosumi×MIGIRIの『VRChat』音楽体験ワールドは“出色の出来”

 ここ数週間は、目に留まる『VRChat』コンテンツがいくつか飛び出している。特に、バーチャルアーティストのyosumiと、先日法人化した『VRChat』に明るいクリエイティブスタジオ・MIGIRIがタッグを組んだ「Undestined - yosumi」は、なかなかに白眉だ。

 同ワールドは、yosumiの楽曲を、yosumi自身のアバターと様々な空間演出で魅せる、いわば「VRMV」と呼び得る代物だが、最大の特徴は全てのシーンで「シームレスな空間の変形」が起こっていることだ。

 異なる空間へワープするのではなく、壁が広がる。あるいは狭まる。あるいは異なるオブジェクトが内側から生える。全てがなめらかな変形によって構成されていて、非常にユニークな演出が仕掛けられている。

 うれしいことに、同ワールドは常設コンテンツなので、好きな時に見に行くことができる。きらびやかな演出で魅せる空間演出コンテンツとは異なる、ソリッドでクールな演出は、見ておいて損はないだろう。

実在の施設を『VRChat』に再現する取り組みにも新顔

 また先週は、現実の空間を『VRChat』に再現する新たな取り組みがいくつか見られた。ひとつは、福岡県にある水族館・マリンワールド海の中道を再現した『MarinWorldWorld』だ。

 同ワールドは、もともと『VRChat』でユニークな水族館ワールドを作っていたクリエイターがマリンワールド側にかけあって制作が決まった、クリエイター発の公式コンテンツとのことだ。ワールド内は制作が進行中のものもあるが、「日本の水族館」を再現したワールドは意外に少なく、それ自体がなかなか貴重だ。

 現実の水族館の様子をチェックできる仕掛けや、スクリーンショットを撮影して持ち込むと現実の水族館で割引を受けられる施策も実施されており、地方施設のプロモーションとしては手堅く理想形とも言える。さらなるコンテンツ拡張も楽しみなワールドだ。

 もう一つが、能登半島地震の被害を受けた神社を、デジタル・アーカイブとして残す取り組みだ。Sola株式会社によるワールド「Wajima Juzo Shrine - 輪島 重蔵神社 -」は、石川県輪島市の重蔵神社を再現した空間だ。

 重蔵神社は、能登半島地震によって施設の多くが損壊する被害を受けており、現在も復興に向けた活動を続けているとのことだ。こうした施設のデジタルアーカイブ化は、失われた地域の拠り所の保存につながるだけでなく、オンラインに公開することで地域外の関心も引くことができる。

 「外に知ってもらう」ことは、新たな展開――この場合は予想外の角度からの支援につながる契機になり得る。個人的に、メタバースのユースケースとしてとても有意義だと感じられた。

にじさんじ・家長むぎのエッセイに、文章書きとして感心している話

 一人の文章書きとして、にじさんじ・家長むぎが記すテキストには、密かに大きな感心を抱いていた。飾りすぎず、しかしみずみずしい感性が感じられる筆致と文章表現は、現在進行系で蓄積されている彼女の教養も相まって、読んでいてとてもワクワクさせられていた。

 そんな家長むぎが、KADOKAWAのWebマガジン「メクリメクル」で、初のエッセイ連載「知らない小道」をスタートさせた。第1回目では、人生で初めて居酒屋を訪れた体験が綴られている。

 筆者も早速読んでみたが、居酒屋という空間、そこで食べて飲むもの全ての感動が、豊かに伝わる文章だった。酒を飲むようになって十数年経つ身にとって、文から読み取れる彼女がワクワクしている姿は、とてもまばゆい。素直に、とてもよいエッセイだなと感じられる文章を読ませてもらった。

 こう感じられる文章が、VTuberキャリアの長いにじさんじ2期生の一人から飛び出してきたことは、率直に興味深い。あるいは、彼女の出自と歩みを知っているからこそ、そう感じたのかもしれない。なんにせよ、配信や歌以外で輝くバーチャルな存在が現れることは、個人的には多様性を感じられて、率直にうれしく感じるところだ。

シャープの新型VRグラス、RIOT MUSICのVRChatワールド――バーチャル業界に新顔ラッシュ

Weekly Virtual Newsではバーチャル業界の最新動向をまとめる。今週はシャープの新型VRグラス、RIOT MUSI…

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