『ドンキーコング バナンザ』のDLC「エメラルドラッシュ」で資本主義の世知辛さを痛感した話

 思えば『バナンザ』本編でのドンキーコングは、生態系の頂点にいた。どのような敵であっても素手で殴り倒し、バナナをゲットしてはスキルアップし、地形を激変させるレベルで暴れ、地面を掘りかえし、ウホウホと気ままに冒険を楽しんでいた。が、「エメラルドラッシュ」で「社長の部下」という位置に組み込まれ、ノルマが課せられた瞬間に、ドンキーコングはしがないサラリーマンになってしまったのである。

 確かに、やっていることは『バナンザ』本編と変わらない。地面を掘り返し、エメラルドの根っこを破壊しては破片を集めている。が、本編での「目についたから壊すか……」「適当に集めとくか……」「あ、バナナだ……」というボンヤリ感、とりあえず見つかったから集めとくかという野生動物のようなユルさはなくなり、そこには制限時間に間に合うよう血眼になってエメラルドを集めまくる姿だけがある。ノルマに追われてフィールドを走り回って必死にエメラルドを集め、退勤したらなけなしのバナチップでガチャを回してフィギュアを集める日々……。ソシャゲしか楽しいことがない限界サラリーマンのようなプレイ体験だ。DK、いいのかお前、それで。

 フォローしておくと、「エメラルドラッシュ」は大変よくできた新システムである。どのスキルをどう組み合わせ、どのルートでフィールドを走ってどうエメラルドを稼ぐか、こちらの考えた策がうまくハマった時は大変楽しい。本編での「目に入った周囲のものは全部破壊できる」という特徴をひっくり返して、スピーディーでスリリングな新システムに仕立て上げた発想はすごいと思う。

 しかしこの「エメラルドラッシュ」があまりにもスリリングすぎた結果、なんだか資本主義のよくない部分を煮出したようなゲームになった気もしなくはない。ヴォイドコングは本編ではドンキーコングにボコボコにされていたが、結局資本がある奴はどれだけ物理的にボコられてもへっちゃらで復活してくるのである。そして一旦資本を持つ者の下についてしまうと、制限時間とノルマに追い回されながら馬車馬のように地面を掘り返し、その合間に稼ぎでガチャを回すのが唯一の楽しみという生活を送ることになる……。たとえ生態系の頂点だったとしても、資本主義社会では「ちょっと腕っぷしが強くて体力のあるボスザル」くらいの感じで、結局資本家にこき使われるしかないのである。せ、世知辛い!!!!

 まさか「ドンキーコング」最新作で資本主義の世知辛さを痛感させられるとは思わなかった本作。読者の皆様もプレイしているうちに「やはり悪いのは資本家……!」「革命待ったなし」という気持ちになるかどうかはわからないが、本編の気ままさ・呑気さをひっくり返したスリリングで良質なDLCなのは間違いなし。本編クリア後、「まだ鉄拳で周囲のものを壊しまくりたいぜ!」と思ったプレイヤーには、ぜひお勧めしたい内容である。

『ドンキーコング バナンザ』日常生活に支障が出る面白さ 「破壊=最高!」「生態系の頂点に立つ」経験の虜に

偶然手に入れたNintendo Switch2でどハマりした『ドンキーコング バナンザ』の面白さを解説。

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