圧倒的な話題性と実績を持つ“初代”の影で確かな輝きを放つ『ファイナルファンタジータクティクス』の続編たち
『ファイナルファンタジータクティクス』(以下、FFT)の名から真っ先に想像されるもの。それはおそらく、1997年にPlayStation向けに発売された初代『FFT』だろう。
そんな初代『FFT』を現行のゲーム環境向けによみがえらせると同時に、ボイス演出の追加とストーリー、ゲームバランス面の調整を加えた最新バージョンも収録された『ファイナルファンタジータクティクス - イヴァリース クロニクルズ』(以下、イヴァリース クロニクルズ)が9月30日に発売された(Steam版は10月1日発売)。
スクウェア・エニックスの看板タイトルでもあるRPG『ファイナルファンタジー』(以下、FF)初のシミュレーションRPG(SRPG)作品として発売された初代は、国内だけでも100万本以上のセールスを記録するという、同ジャンル屈指の偉業を成し遂げた名作である。この記録は発売から25年以上が経ったいまなお打ち破られておらず、その足跡の大きさが分かる。
もちろん、ゲーム内容の面でも「FF」シリーズ特有の「アクティブタイムバトル」をSRPG向けに翻案した「アクティブターン」のシステム、「ジョブチェンジ」と「アビリティ」による多彩な育成と戦略の確立など、数多くの見所を備えている。
また、本作はSRPGの名作として絶大な人気を誇る『タクティクスオウガ』(「オウガバトルサーガ」シリーズ)のクリエイター陣が制作。その流れからかストーリーも単純な勧善懲悪モノではなく、平民と貴族の対立や政治的陰謀などが複雑に絡み合う群像劇を描いており、印象的なセリフ回しも相まってプレイヤーに強烈な印象を残すものに仕上げられている。
これら一連の魅力と話題性の強さもあって、初代『FFT』は象徴的名作と言っても過言ではない存在感を放ち続けている。ゆえに『FFT』と言えば1997年発売の初代、と想像するのはリアルタイム世代に限らず、その話題を小耳に挟んだことのある人でも少なくないだろう。
ただ、存在感が強すぎるなりの弊害もある。後に続いた続編が若干、その影に隠れがちということだ。
現行のゲーム環境向けの最新版が発売され、再び初代『FFT』への注目が高まりつつあるこの頃。あえていま、そんな初代『FFT』の後に発売され、独自のシリーズとして発展した続編を振り返ってみたい。
携帯機向けの新作にして、ゲーム史的にも興味深い時期に発売された『ファイナルファンタジータクティクスアドバンス』
そもそも、「『FFT』に続編なんてあったの?」との反応を示す人もひょっとしたらいるかもしれないが……ズバリ、あったのだ。それが初代『FFT』の6年後、2003年に発売された『ファイナルファンタジータクティクスアドバンス』(以下、FFTA)である。
アドバンスの名の通り、この作品は任天堂の携帯ゲーム機・ゲームボーイアドバンス向けに発売された。ゲームの内容は前作に当たる『FFT』と同じく、斜め見下ろし視点(クォータービュー)の戦闘マップ上でキャラクター(ユニット)を指揮し、敵との戦闘を繰り広げながら勝利条件の達成を目指すSRPGである。システム面も「アクティブターン」「ジョブチェンジ」「アビリティ」といった、『FFT』の象徴とも言えるものが継承されている。
前作から大きく変わった点としては、ひとつに「クエスト」を軸に展開される本編がある。本作でプレイヤーは「クラン」と呼ばれる便利屋組織の一員となり、舞台となる「イヴァリース」の住民たちの依頼事である「クエスト」を引き受けながら冒険を繰り広げていく形となる。クエストにはメインとサブの2種類があり、メインが本編ストーリーに当たる。
もうひとつの変更点が「ロウ」だ。本作では各戦闘で絶対順守のロウ、いわゆるルールが定められ、それに則った戦術で戦うことが要求されるようになった。もし、ロウに反する行動を取ると、戦闘マップ上にいる審判者「ジャッジ」が即座に裁定し、軽度の違反者に「イエローカード」、重度の違反者に「レッドカード」を提示する。
レッドカードが出されれば、対象ユニットはマップ上から強制離脱となって「プリズン」送りに。イエローカードは1枚だけならマップクリア時にステータスダウンなどのペナルティが与えられるだけだが、2枚出てしまうとレッドカードとなってプリズン行きである。
なお、プリズン送りになったユニットは、一定の条件を満たすことで保釈されるが、それまでは戦闘への参加ができなくなる。主人公がプリズン送りになった時は問答無用でゲームオーバー。タイトル画面へと戻されて、前回のセーブ地点からやり直しだ。
こうした行動を縛るシステムの追加もあって、前作にも増して自由に戦うことが難しくなった。ロウも「ダメージ20以上の攻撃禁止」「状態異常禁止」「特定武器や属性による攻撃禁止」などのクセのあるものが多く、プレイヤーの頭を大いに悩ます。
反面、ユニットをまんべんなく運用することが試されたり、敵がロウに抵触する誘発の一手を考えては試すなど、戦略性とゲームデザインの面では興味深い試みが光るシステムになっている。前作とは異なる体験を生み出す個性の部分としても存在感があり、よくも悪くも強い印象を残す。
ストーリーも『FF』のような世界「イヴァリース」に迷い込んだ少年少女たちが冒険を繰り広げるという、一見、前作とは180度異なる漫画風の明るい内容に見える。だが、実際は彼らのコンプレックスや家族間の不和、いじめなどの問題を描くと同時に「現実逃避」をテーマに据えた重い内容にまとめられている。題材そのものが現代でも起きている実態もあるだけに、人によってはドキッとさせられたり、心を抉られる思いに苛まれることもあるだろう。
中断セーブ機能を始めとする携帯機ならではの配慮も図られているほか、マップのスケールも小さくされているなどの工夫も光る。ロウを始めとする賛否の分かれる部分もあるが、初代『FFT』とは別ベクトルの個性と毒を持った意欲作である。
ちなみに本作はゲーム史の面でも興味深いトピックを持つ。本作が発売される前の旧スクウェアは、諸々の複雑な事情によって任天堂のゲーム機向けに新作を出せない状況に陥っていた。しかし、その問題は関係者の奔走によって解決し、2002年にゲームボーイアドバンス向けに発売された『チョコボランド』でついに任天堂のゲーム機に復帰。
その次の2本目として本作が発売された……のだが。それから1カ月半後、スクウェアは「ドラゴンクエスト」シリーズで知られるエニックスと合併し、社名もスクウェア・エニックスに変更となった。つまり、任天堂のゲーム機においてはこの『FFTA』が最後の旧スクウェア表記のタイトルとなったのだ。
そのため、本作のパッケージ版には一定の史料価値がある。この他にも発売前年の2002年に「オウガバトルサーガ」シリーズで知られた株式会社クエストのゲーム開発事業がスクウェアに売却されるという出来事もあった(※1)。そのため、本作には当時のクエストに残っていた開発スタッフも複数名参加している。
その事業売却以降、「オウガバトルサーガ」シリーズの発売元はスクウェア・エニックスへと変更され、後に『タクティクスオウガ』のリメイクも発売されている。これら様々な出来事が周囲で起きたという点でも、本作は特別な作品として位置づけられるのだ。
前作の課題を改善する正統進化にフォーカスした作りが特徴のニンテンドーDS向けの続編『封穴のグリモア』
『FFTA』の発売から4年後の2007年には、『ファイナルファンタジータクティクスA2 封穴(ふうけつ)のグリモア』(以下、FFTA2)が任天堂の携帯ゲーム機「ニンテンドーDS」向けに発売されている。これは『FFTA』の正統な続編で、「イヴァリース・アライアンス」というシリーズ展開の一環として出されたタイトルのひとつだった。
「イヴァリース・アライアンス」とは、初代『FFT』の舞台となった世界「イヴァリース」が登場する(および舞台としている)作品を指すレーベル。初代『FFT』が「イヴァリース・アライアンス」の1作目に当たり、その後に『FFTA』、FFシリーズのナンバリング作品である『ファイナルファンタジーXII』(以下、FFXII)などのタイトルが続く。
『FFTA2』は2025年現時点において、「イヴァリース・アライアンス」の関連作品としては最後に発売されたタイトルとなっている。基本的な内容、システム周りは前作『FFTA』と変わらない。メインとサブ、それぞれの種類に分けられたクエストを軸に本編を進めていく流れも同じだ。
賛否を呼んだ「ロウ」も続投している。ただ、前作とは異なり、違反しなければ戦闘中にボーナス効果(後述)が得られて持続される、終了時に特別なアイテムが得られるというメリットが強調されたシステムへと大きく一新。ペナルティも、前述のボーナス効果が消える、戦闘(クエスト)中に倒れたキャラクターの復帰がマップをクリアするまで不可能になるといった軽めのものになり、縛りプレイ感は大きく緩和されている。
前述のロウを守ると得られるボーナス効果として「クランアビリティ」なる新システムも導入。戦闘開始前に1種類だけアビリティを選択でき、違反しない限りはその効果が戦闘終了時まで持続される仕組みになっている。
戦闘中に指揮するユニットにも「スペシャル」なる特殊コマンドが低確率で発生し、選択可能になるという要素が追加。隣接している味方や敵の数に応じて選べる特殊コマンドは変化するほか、いずれも複数体を巻き込む強化や攻撃へと繋がる傾向が多いため、戦術面では時折、逆転チャンスを作り出す可能性を持つ要素となっている。
細かい仕様面でも前作『FFTA』から変わった部分は多い。目立つところでは、魔法を使う際に用いるMPが戦闘開始時に低数値から始まりターン経過とともに10ずつ溜まる仕組みになった、水中マスに止まっても攻撃が出せる、経験値がマップクリア時に参加したユニット全員に分配されるなどがある。
一方でストーリーは、前作以上に少年漫画らしさ全開の冒険譚に一新され、初代『FFT』から印象付いた毒気の薄れたデトックス仕様となっている。ただその分、若年層にも受け入れられやすいという、昨今の「FF」シリーズとしては希少な価値を持つ。前作『FFTA』や『FFXII』のキャラクターがゲスト出演するクエストが用意されているのも見どころだ。
ロウが続投している点で、前作の経験があると身構えてしまう側面もあるが、前述したように罰則感は薄れているため、気楽に楽しめる。不便に感じた個所なども軒並み改善されているほか、ボリュームも相変わらず盛り沢山なので、十分にオススメできる良作だ。
ちなみにニンテンドーDS用のゲームと聞いて気になるのが操作周りだが、なんと本作はタッチ操作に非対応。すべて十字キーとボタンで完結するという、2007年当時から見ても珍しい内容になっている。
二画面を活かした仕掛けもない。強いて言うなら、メイン画面を上下に切り替えられるオプションを備えているぐらい。なお、デフォルトは下画面がメインとして当てられている。
長らくご無沙汰な「イヴァリース・アライアンス」のレーベルはいずれ再始動するのか、それとも……
この他に『FFT』絡みでは、PlayStation Portableで発売され、後にスマートフォン版も配信された初代のリメイク作『ファイナルファンタジータクティクス 獅子戦争』もある。
ただ、前述したように「FFT」シリーズも含む「イヴァリース・アライアンス」は『FFTA2』以降を最後に途絶えてしまっている。
2025年現在も運営中のMMORPG『ファイナルファンタジーXIV』には、「リターン・トゥ・イヴァリース」というバトルコンテンツが追加された出来事こそあったものの、ゲームおよび商品としてのイヴァリース作品の新作はだいぶご無沙汰してしまっている。
ゆえに今回の『イヴァリース・クロニクルズ』が今後、いかなる動きへと繋がっていくのかは注目されるところだ。同時に今回ピックアップした『FFTA』の2作も、装いも新たに登場する可能性があるのかについても気になるところである。
本記事のスクリーンショットで用いたように、『FFTA』は過去にWii Uのバーチャルコンソール版が配信されたことがあった。残念ながら、2023年3月のネットワークサービス終了をもって配信は終わってしまったが、復刻の実績は獲得したため、いつの日か再びお目にかかれる時は来るかもしれない。
逆に『FFTA2』は2025年現在もオリジナルのニンテンドーDS版しか存在せず、復刻したこともない。また、ニンテンドーDSという特徴的なゲーム機で発売されたため課題も……と思うところだが、前述したようにタッチ操作などはほとんど使っていないため、概ねそのまま1画面に収める形へ改めても難なく遊べそうな余地を持っている。他のニンテンドーDS専用タイトルに比べると、希望の光は強い方だろう。
とは言え、2作ともに現在遊ぶとゲームテンポや操作感などで、だいぶ厳しい部分もあるのも事実。欲を言えば、オリジナル版そのままの復刻ではなく、今回の『イヴァリース・クロニクルズ』や、『タクティクスオウガ』のリメイク版のように関連部分の改善を図った最新版としての再登場を熱望したいところだ。
『イヴァリース・クロニクルズ』が発売を迎えて間もないため、出るにしてもまだまだ先のことなのは確かと思うが、いまとなっては遊ぶ手段も限定されてしまっている続編の2作。そう遠くない未来に新たな形でお目にかかれる時を心待ちにしたい。
ただ、もしも本当に復活があるならば、『FFTA』は海外版に準拠してほしいとだけは強く言っておく(※2)。
〈参考〉
※1 「伝説のオウガバトル」などで有名なクエスト ソフトウェア部門をスクウェアに譲渡(GAME Watch) 2002年6月19日報道:https://game.watch.impress.co.jp/docs/20020619/quest.htm
※2 一部のロウが削除および再調整、新たな仲間キャラと関連クエストが追加されているといった違いがある。