『バイオハザード レクイエム』試遊レポート:ラクーンシティへの帰還、「ホラーゲームの最高峰」を塗り替える“未知なる恐怖”
2025年9月25日~9月28日の計4日間にわたって開催中の『東京ゲームショウ2025』(TGS2025)。カプコンブースにおける『バイオハザード レクイエム』の試遊を通して分かった本作のプレイフィールについてお届けする。(編集部)
“シリーズ長期化の限界”を打ち破った「バイオハザード」
一般的に、“シリーズもの”はナンバリングの数が増えるごとに「新規ファン」に対して敷居が高いものとなっていく。「シリーズのお約束」や「おなじみのキャラクター」といった要素は、ファンにとっては大きな魅力となるが、年月を重ねていくごとに、それ以外の人々にとっては興味や関心の範囲外となり、場合によっては「時代遅れ」という烙印を押されることもある。
「ゼルダの伝説」や「ファイナルファンタジー」のように、大枠のみを引き継ぎ、作品ごとにキャラクターの設定やストーリーを刷新するようなシリーズであれば、こうした傾向は多少は薄れる。だが、長年にわたって大きな物語を紡ぎ続けている場合は、割り切ってファンサービスに振り切るという判断をすることも珍しくはない。
その点を踏まえると、最新作『バイオハザード レクイエム』(2026年2月27日発売予定。PlayStation 5 / Nintendo Switch 2 / Xbox Series X|S / Microsoft Windows)でナンバリング9作目を迎える「バイオハザード」の存在は極めて興味深い。約30年の歴史を持つ長寿シリーズとして、クリス・レッドフィールドやレオン・S・ケネディといった人気キャラによる、アンブレラ社やB.O.W.を巡る物語を描き続けながら、それでいて常に新規ファンを獲得し続けたことで、直近の作品はいずれもシリーズ初期を上回る1,000万本以上の売上を記録している。
この背景には、リメイクの「RE:」シリーズも寄与しているとはいえ、2017年に発売された『バイオハザード7 レジデント イービル』の成功が何よりも大きな転換点となったのは間違いない。まさに、「シリーズ長期化の限界」を体現するような存在だった2012年の『バイオハザード 6』を経て、既存のキャラクターやストーリーの要素を極力排し、徹底して「シリーズの経験有無を問わない圧倒的な恐怖」を突き詰めたことによって、同作は(当時のストリーマー文化の台頭も相まって)絶大な支持を獲得した。最終的には既存のストーリーとも繋がる構造となっていたとはいえ、それは、初作における「何が起こるのか分からない恐怖」の再訪だったとも言えるだろう。
だが、『7』の直接的な続編となっていた『バイオハザード ヴィレッジ』(2021年)を経て、この流れにも一つの大きな区切りが付けられた。そして、来る『レクイエム』の舞台となるのは、シリーズの原点でもあるラクーンシティ。まさに堂々たる帰還だ。当然、多くのファンは「おなじみのキャラクター」の再登場を期待している。
さらなる“未知の恐怖”へ
――目を覚ますと、ほとんど逆立ちの状態で診療台に縛り付けられている。腕には管が繋がれ、大量の血液が今も抜かれ続けている。自らの置かれた状況に気付いた女性は、必死の形相で血の入ったガラス瓶を叩き割り、その破片を駆使して、何とか診療台から脱出する。一刻も早くこの場所から出るために、朦朧とした意識と疲弊しきった身体を無理やり動かしながら、診療所と思わしき建物を手探りで進んでいく。多くの部屋は照明が故障しており、道中で手に入れたライターの僅かな明かりが、唯一の頼りだ。建物の中には大量の死体が転がっており、そこかしこに血がぶちまけられている。彼らと同じ末路だけは避けなければ。
突然、おぞましい形相をした何者かの襲撃を受ける。抵抗する術はなく、ただひたすらに逃げ惑うことしかできない。今できることは、ライターの火を消し、暗闇の中で、ただ“アレ”がこの場を離れることを願うのみだ。もし、見つかれば、きっと頭から丸ごと食い尽くされてしまうことだろう。
今回の『TGS2025』に出展された『バイオハザード レクイエム』のプレイデモは、かつてプレイヤーが『7』で経験したように、再び、私たちを未知の恐怖へと誘う内容となっていた。操作キャラクターは、既に発表されている通り、今作の主人公を飾るグレース・アッシュクロフト。使えるアイテムは、相手の気をそらすためのガラス瓶と、おなじみのグリーンハーブを含む回復薬、そしてライターのみ。闇に覆われた空間の中で、正体不明の怪物から逃げながら、脱出に必要なアイテムを診療所内で収集していく。ちなみに筆者は怪物から逃げ切ることに失敗し、限られた試遊時間内で何度も頭からガブリといかれている。
こうした「抵抗手段のない恐怖」というシチュエーションは、『7』序盤におけるベイカー邸や、『ヴィレッジ』における「シリーズ最恐」とも謳われたベネヴィエント邸を彷彿とさせるが、過去作との最大の違いは「血液を抜かれ、意識が戻った直後」であるが故の“弱さ”にある。『7』、『ヴィレッジ』の主人公であるイーサン・ウィンターズは、かなりの口の悪さとガッツの持ち主であり、どれだけ極限状態であろうと平気で悪態を付くという、ある種の頼もしさがあった。一方、プレイデモにおけるグレースは、(三人称視点の場合)歩くだけでもフラフラしており、死体が転がる状況を前に呼吸を大いに乱してしまう。怪物から身を潜める場面でも、どうにか見つからないようにと必死で祈る素振りを見せており、そうした不安定さがプレイヤー側の恐怖をさらに増長させる。
演出に関しても、似たような空間が繰り返される診療所の構造や、暗闇の中で光る赤い非常灯、不意に落下するガラス瓶に、部屋中に散らばる死体、さらにとどめのジャンプスケアなど、静と動の両面で徹底的にプレイヤーを恐怖のドン底へと追い込んでいく。今回はなかなかに騒がしい幕張メッセの会場内での試遊だったが、それでも「ビクン」となってしまう場面は少なくなかった。これをもし自室で一人でプレイしていたとしたら、その恐怖たるや、きっと比較にならないだろう。まさに、今なお多くのホラーゲームファンを魅了してやまない「ホラーゲームとしてのバイオハザード」の見事な帰還である。
新主人公でありながら、過去作とも繋がるグレースの登場が意味するもの
筆者は、ナンバリング作品をすべてプレイした上で、『7』を生涯のベストゲームの一つに挙げるくらいには、同作の「ホラーゲームの最高峰」としての佇まいに強く魅了されており、『レクイエム』がその恐怖を更新しようとしていることを大いに歓迎している。だからこそ今回のプレイデモにも大きな満足感を抱いたのだが、ファンの誰もが同様に感じているわけではないだろう。
実際、事前の噂や「ラクーンシティへの帰還」という展開から、コミュニティの多くは、「きっとレオンやクリスが登場するが、サプライズのために取っておいてあるのだろう」という推測を立てている。それに、やはり「バイオハザード」と言えば、個人的にも「ゾンビが迫りくる中で、ハンドガンを当てた瞬間の快楽」を、シリーズのもっとも象徴的な瞬間であると捉えており、まさか本編の全体が同様の展開にはならないだろうという前提の元でこのレビューを書いている。
というわけで、ここからは憶測の域を出ないが、プレイデモを通して感じた『レクイエム』に対する期待についても書いておきたい。前述の通り、新主人公であるグレースは、従来の「バイオハザード」の主人公たちが、男女を問わず「到底一般人とは思えない戦闘能力」の持ち主であったのに対して、よりプレイヤー側に近い存在として描写されている。
一方で、既にトレーラーやゲームプレイ映像にも登場している、グレースの母親であるアリッサ・アッシュクロフトは、2003年に発売された『バイオハザード アウトブレイク』の主人公の一人であり、『7』にもその痕跡が残されている。『レクイエム』では、ゲーム開始時点では死亡したと明言されており、グレースはとある事件の調査を通して、その軌跡を追うことになる。
興味深いのは、プレイデモの冒頭でグレースの血液が採取されていたということだ。実は、『アウトブレイク』では「バイオハザード」の物語が始まるきっかけとなった生物兵器「T-ウイルス」に対する特効薬である「デイライト」が登場しており、ラクーンシティで暮らす主人公たちは、T-ウイルスに感染した一般人として、その治療をするために街中を駆け回ることになる。エンディングの描写やその後の顛末を踏まえるに、同作の主人公がその実物と製造方法を持った状態で脱出している可能性は極めて高く、さらに生前のアリッサが長らく存命していたことを考えると、グレースは「T-ウイルスの抗体を持っている」ことが推察される。だからこそ、その血が何者かによって必要とされたのだろう。
T-ウイルスが蔓延したラクーンシティは、『バイオハザード3 LAST ESCAPE』(及び『バイオハザード RE:3』)で「減菌計画」と称したアメリカ合衆国主導のミサイル攻撃によって壊滅したが、その後も現地にはウイルス汚染が残っていると言われている。仮に、抗体が存在するのであれば、きっと多くの人々が求めることだろう。もちろん、クリスやレオンだって放ってはおかないはずだ。
だが、今回のプレイデモやこれまでのトレーラーの出し方を踏まえるに、開発者側としても、たとえ壮大な物語を描くつもりであるとしても、そうした状況を何も分からないままに、“未知の恐怖”へと放り込まれるグレースの存在が中核にあるということを強調したいのだろう。
『レクイエム』は、シリーズ長期化の限界を見事に打ち破った『7』からの流れと、「ラクーンシティに何が起きたのか」を語り直した「RE」シリーズ、何より30年にわたってファンを魅了し続けてきた「バイオハザード」の歴史が交わるという、シリーズ屈指の壮大な節目となる。「30周年記念作品」を掲げながらも、ファンサービスに頼ることなく、ただひたすらに恐怖に徹した今回のプレイデモは、大胆な試みであると同時に、その期待を更に高めるものだった。
【※開発中のものにつき、実際の仕様とは異なる場合があります】