映像にとって大事な“音”のクオリティを上げるためにーーTASCAMの最新製品を取材してわかった「トレンド」と「丁寧さ」

 試用から数日後にティアック本社を訪ね、タスカム事業部 営業企画部 販売促進課の青山氏と同課長の花田氏に話を聞いた。

 まずは『DR-10L Pro』の「レベル調整不要」という仕組みについて、従来の録音機器に慣れている方からは「いったいどういうことなのか」という問い合わせが多いという。

 続けて青山氏は、『DR-10L Pro』の具体的な活用シーンを教えてくれた。

 「ワイヤレスマイクを2本(2回線)整えているケースがあったとします。例えば、急に演者さんが3人になった時に『DR-10L Pro』を1台持っておいていただけると、電源を入れて録音をスタートさせれば、いい音で演者さんの声を残せます。ラジオ局ですとか、ポッドキャストを録音される方にも、重宝いただいています」(青山氏)

 「もう少し入門向けになると、最新モデルの『DR-05XP』やその前の世代の『DR-05X』も使用例が多いです。カメラ側の内蔵マイクよりも音を良くしたいというお客様が手軽なレコーダーとして選んでいただくことも多いんですよ」(花田氏)

 続いて、ポータブルレコーダーの『Portacapture X6』を取り上げよう。

 同製品は32ビットフロート録音に対応した6トラックポータブルレコーダーだ。カラータッチパネルとアプリランチャーシステムによる、直感的かつスピーディーな操作が可能。本機もデュアルA/Dコンバーターを搭載。レベル調整の設定は存在するが、もしものときに歪まない音が録れている安心感がある。

 回転させることでA-B/True X-Y方式の切り替えが可能なステレオコンデンサーマイクを内蔵。ファンタム電源対応のXLR入力を2系統装備。マイクプリアンプは、ディスクリート回路のTASCAM HDDAマイクプリを搭載。低ノイズでクリアな音質を実現するという。

 実際にフィールドレコーディングや空気録音で試用してみた。HDDAマイクプリだけあって、内蔵マイクの音質は良好。音は痩せておらず、適度に実在感がある。タッチパネルの視認性や使いやすさは、想像を遙かに超えていた。こんなに見やすくて、洗練されたメニュー画面(日本語対応)をポータブルで使用できるなんて、時代は変わったと実感した。

 A-B/True X-Y方式は、それぞれ切り替えながら、街角や商業施設の雑踏を録ってみる。X-Y方式は、音場の組成が聴感に近い。A-B方式では、やや中抜け気味となり、音像が左右に寄ってくる。

 自宅では防音スタジオに設置して、スピーカーからの音を空気録音してみたが、やはりA-B方式だと、ボーカルの定位も微妙に定まらず、自分の耳で聞いた感覚とは異なっていた。A-B方式はどんなときに使うのか、取材で聞いた。

 例えばバンド演奏を録るとき、個別の楽器にはマルチマイクを置いて収音、PAからラインで2mixをもらうとすると、アンビエンス用途での出番があるそうだ。具体的には、ラインの2mixは本体のXLR入力で録音して、会場の雰囲気や声援などのアンビエンスは内蔵マイクをA-B方式にして録る。あとで2mixとアンビエンスをミックスするという流れだ。

 「フィールドレコーディングでは、動きのある対象物を録るときA-B方式が向いていること があります。左右に音が移動する車や電車などを録ると、より臨場感が出ますよ」(花田氏)

 「先ほどご説明したバンドのようなシチュエーションでも、部屋の大きさだったり、環境によってTrue X-Y方式の方が良い場合もあります。色々お試しいただいて、適切な方式を使えるという選択肢があるのは、面白さでもあると思います」(青山氏)

 レコーダーを買ってはみたものの、実際録る段階になって、どうしたらいいか迷ってしまう人は少なくない。そんなとき役に立つのが本機のアプリランチャー。例えば屋外で録るときは、フィールド録音のアプリを使えば簡単にいい音でレコーディングができる。市街・自然・乗り物・野鳥などの豊富なプリセットの中から選ぶだけで、適切な設定が完了。プリセットの中身は、イコライザーやローカットなどの各種シグナルプロセッサーの組み合わせになっているので、個別の細かな設定が使いこなせなくても、最適な録音を行えるという訳だ。

 最後に紹介する機材は、2chポータブルフィールドレコーダー/タイムコードジェネレーターの『FR-AV2』。デュアルA/Dコンバーター搭載で、音割れのない32ビットフロート録音が可能。最大192kHzまで対応なので、ハイサンプリングのハイレゾ録音が楽しめる。TASCAM Ultra HDDAマイクプリアンプを搭載したXLR/TRSコンボジャックを2基装備し、低ノイズフロアを実現。2インチのカラーディスプレイはシンプルなメニュー構成を採用。

 タイムコードは、入出力に対応。Atomos UltraSync BLUEとのワイヤレスタイムコード同期(※)、他のタイムコードジェネレーターからTC IN(ジャムシンク)での入力、本機をジェネレーターとしてLTC信号をTC OUTから出力することもできる。

※別売のBluetoothアダプター「AK-BT2」が必要。

 まず、筆者が一番驚いたのは、一般的なポータブルPCMレコーダーとは一線を画す音質だ。筆者がかつてメインで使用していたTASCAMにおける上位クラスのオーディオインターフェース『US-20×20』を思い起こさせる、低歪みで高解像度の録り音が、筐体サイズからすると信じられないレベルにある。信号の変質がなく、マイクから入った音をそのままの品質で録っている印象だ。

 実は今回、TASCAMのガンマイク『TM-200SG』も合わせて試用していた。椅子に座った筆者の喋りを、斜め下から狙ってマイキングして、ピンマイクを使用しないトーク動画を作るイメージでレコーディング。『Portacapture X6』と『FR-AV2』で音質を比較してみた。

 Ultra HDDAになると、ナチュラルな帯域バランス、低歪み、S/Nの良さが明らかに別のステージに達しており、シルキーな質感表現まで添えられている。一度FR-AV2の音を聞くと、自前のマイクで2chまでだったら、断然こちらを選ぶなと思えた。

 超単一指向性の『TM-200SG』は、50cm程度離れた距離からでも十分な音の太さと存在感で録ることが出来た。サイズは他社の定番モデルに比べると10cm程度短いため、カメラの上に取り付けても映り込みは避けられるだろう。

 液晶ディスプレイはタッチ操作こそできないが、メニュー階層は分かりやすい。一般的なポータブルレコーダーを触っている方であれば、特に戸惑いはないと思われる。

 本機にはワイヤレスモニタリング機能が備わっている。SBCのコーデックで、Bluetoothイヤフォンなどに接続して、リアルタイムモニタリングや録音した音のプレイバックが可能だ。

 モードが遅延時間や接続安定性の違いで3種類あり、最も遅延が短く音質がいいPRIMEモードを試したが、自分の喋っている声がやや遅れて聴こえる。自身の声をリアルタイムモニタリングする用途では厳しいと感じた。

 「ビデオグラファーさんを中心に喜ばれている機能です。例えばBluetoothスピーカーを繋げて、監督や演者の方とみんなでモニタリング(プレイバック)するというシチュエーションなどでご活用いただいています。また、レイテンシーこそ多少あるものの、音ががちゃんと録れているかを機材から離れてスマートにチェックできるというメリットがあります」(青山氏)

 『FR-AV2』は割と目的がハッキリしている方が購入する傾向があるようだ。

 「ビデオグラファーの方、特にワンオペでやられる方が機材をとにかくコンパクトにしたいというニーズがありまして、タイムコード周りも含めて、特に要望が多い機能を集約した製品になっています。小型だと録り音が薄っぺらくなってしまうと懸念を持たれていた録音家の方に、音質面で絶賛いただいたりと、ワンランク違うクオリティは実感いただけるものになっていると思います」(青山氏)

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