連載:クリエイティブの方舟(第5回)
「自信がないから作戦を立てる」 水溜りボンド・カンタとワイテルズ・Nakamuが明かす“クリエイター 兼 経営者”としての苦悩
“バズ”に対しての向き合い方
ーーNakamuさんはいろんなことに興味があるようですが、そもそもなぜワイテルズはゲーム実況だったのでしょうか。
Nakamu:家でゲームを禁止されていて、高校生のときにスマホを買ってもらってから、その反動でめっちゃ遊び始めたんですよ。そこからYouTubeのゲーム実況に出会ったんですけど、そのとき抱いた感情は「ゲーム実況がやりたい」じゃなくて、「見た人はこのなかに入れてほしくなるよな」と、そういうところにすごく引力を感じたんです。僕はいつかオフラインイベントで人を感動させるようなことをしてみたい、人の心を動かすようなクリエイティブを作ってみたいという気持ちがすごくあって。ゲーム実況を続けていけば、最終的に武道館みたいな場所に立てるかもしれないと思ったのが、ゲーム実況を選んだ理由ですね。
ゲーム実況をやっていくなかで、ただゲーム実況で数字を出すんじゃなくて、あくまで僕らはじっくりと、バズらないで自分たちの力だけで人気を集めていこうと。大きな一歩を踏み出さずに、とにかく煮詰めて強いコミュニティを作って、イベントに変換していこうという作戦を9年間続けて、ようやく武道館が実現したという感じです。
ーーカンタさんはバズらないでやっていくという戦略は、どう思いますか?
カンタ:すごくわかります。バズることは消費されることなんで、「“あれ”の人だよね」となっちゃうと、そのあとがけっこう難しい。ジリジリとやっていくからこそちゃんと身になるというか、大きなイベントを早めにドカーンとやったら、それでファンが満足しちゃうところを、ファンのみんなを連れていく最終的な目標が武道館で、実際に3日間できたのも集大成だと思う。すごく戦略的ですよね。
Nakamu:地道にロードマップを敷いて、やってきたつもりです。武道館と決め打っていたわけじゃないですけど、武道館ぐらいみんなが知っている場所で自分が演出とかディレクションを全部やったうえで舞台に立つことをすごく夢見ていました。
カンタ:異常ですね(笑)。
Nakamu:あまり信じてもらえないんですけど、本当に最初からそれは考えていました。武道館がなかなか押さえられないことは、これまでイベンターの人たちから聞いていたんです。どうやったら押さえられるかを考えていたときにラジオの話がきて、「TOKYO FMだったらいけるかも」と思って、そこで番組をやり始めて。
でも、メンバーは全然ラジオをやりたがらなかったんです。ゲーム実況とラジオは、顔が見えない、喋りでいくという部分がすごく似ているので、コンテンツが寄るんですよ。そのなかでもラジオを続けた理由は、最終的に武道館につながると、なんとなく僕のなかにあったからですね。
ーーラジオにもそんな裏話があったんですね。せっかくの対談なので、普段聞きづらいけど聞いてみたいことがあれば。
カンタ:すごく能力が高いし、ロードマップを敷いて夢を叶えるところまで達成しているけど、自分に自信があるのか? これは聞かれたくない質問かと思う。
Nakamu:自信がないから作戦を立てるんですよ。前に進むための推進力を得るために設計図を書いて自信をつけて、「これならいける」と思って進む。なので、自信があるともいえるし、ないともいえるんですよ。でも、デフォルトはめちゃくちゃ自信ないです。
カンタ:一緒ですね、僕も自信ないから。自信がある人って不思議じゃないですか。表面上必要なときがあるにしても、「明日はできないんじゃないか」と思わないと、明日も頑張れない。いまこの記事を読んでいる人からしても、Nakamuくんは“人生思い通りになってきた人”じゃないですか。言った通りにできてきたことが、次こそはできないんじゃないかっていう恐怖で、またやらなきゃいけなくなるという。この呪われているという事実だけ知れたから満足です(笑)。
Nakamu:最近、星野源さんのインタビュー記事を読んだんですけど、星野さんも同じように、ずっと自分に満足してないから前に進まないといけないみたいな話をしていて。彼ほどではないですけど、武道館の反省点はいっぱいあるし、次にまた自分が大きいイベントを作るときがきたら、もう少しこういうものを作りたいとか、あとから思いついた面白いこともたくさんあるんで、まだ止まれないなと思いますね。
カンタさんはいま会社を経営していて、個人としても水溜りボンドとしてもチャンネルをやられていますけど、そのどれかを脱ぎたくなる瞬間はないんですか?
カンタ:それはないね。3つあるから成り立っているというか。モノって3点あったら立ったりするじゃん。ああいう感覚で、水溜りボンドだけだとその柱が細くなったときに不安定になるから、別のとこにも柱を立てていって。水溜りボンドで僕らが求めていることは楽しく活動することだから、お金が稼げないとか未来が不安だということが一番避けたい事象なのよ。だから増していっているのかも。
Nakamu:仲良くなれないかもしれない(笑)。僕は草鞋を1足しか履けないんですよ。だから自分のやりたいことをやるために、一度ワイテルズを止めざるを得なかったんですよね。
ーーいま、いろんな表現を複数の媒体でやっているのは、ある種それに近いことでもあるんじゃないですか? もしかしたら、作ることのストレスを作ることで発散しているとか。
カンタ:その循環で全部が上手いこと回っているみたいな。
Nakamu:言われてみると、そんな気もしてきますね。僕はワイテルズの看板を下ろしたら、ワイテルズって呼ばれなくなると思って生きてたんですけど、まだワイテルズはついてくる。自分で作った鎧が強すぎて、ワイテルズよりもデカい何かを作らなきゃいけなくなったんですよ。だからそれは、“打倒ワイテルズ”なんですよね。自分が9年間かけて育ててきた“過去の自分”という巨大な城と戦うってことなのかなと。
カンタ:まさしく僕も日々そう思っています。水溜りボンドもこれからも続いていくとはいえ自分が作った作品ではあるので、それを超える超えないじゃなくて、同じようなものを作るのは非常に難しいですよね。その人にはその人の地獄があるわけだから、もし2つ目を成し遂げた暁にはまた新しい大きな悩みができて、そこに共感してくれる人は減っていく。どんどん孤独になっていくという、この苦しさを相談できる人はいない。
YouTubeクリエイターでこの悩みを持つ人はそこまで多くはないので、けっこうレアケースだと思いますけどね。Nakamuくんとはこれからすごく長い関係になるかもしれない。なにか一緒にやりたいですし、これもきっとご縁なので嬉しいですね。