社会へ浸透するAIの“功罪”を読み解く スタンフォード大『AI Index Report 2025』徹底解説

AIの悪用事例が増加の一途をたどるなか、世界的に進むAI規制
第3章「責任あるAI」では、AI活用に伴う社会問題とその対処方法・事例をまとめている(※4)。AIの悪用を伴う事件は、2012年から2024年までに増加の一途をとどっており、2024年には233件であった。もっとも、この件数は大きく報じられた事件にもとづいており、実際に起こっているAI悪用事例の氷山の一角とみなすべきである。
AI悪用事例でもっとも深刻なものは、やはりディープフェイクポルノ画像である。たとえばアメリカ・テキサス州在住の15歳のエリストン・ベリー(Elliston Berry)さんは、同級生の男子生徒が作ったディープフェイクポルノ画像を拡散される被害にあった(※5)。この画像は、ベリーさんがInstagramに投稿した通常の画像を悪用して作られたものだった。この事件をきっかけに、ディープフェイクポルノ画像を取り締まる法案がアメリカ議会で審議されるようになったのだ。
第6章「政策とガバナンス」では、以上のようなAIの悪用に対する各国のAI規制の現状をまとめている(※6)。2016年から2024年までにおける成立したAI関連法を国別に集計すると、アメリカが27件、次いでポルトガルとロシアの20件と続く。日本は中国やドイツと同じ4件であり、AIが普及している割にはAI関連法の数が少ないことがわかる。
2016年から2024年において、各国の国会でAIが言及される回数を集計してグラフ化したのが、以下の画像である。1位はスペインの1200回、2位はイギリスの710件であった。日本もAI言及数が多い国のひとつであることがわかる。
以上をまとめると、AIの悪用事例が増加の一途をたどっている現状をふまえて、世界各国でAI規制が進められている。日本に関しては、国会での言及数が多いものの、制定されたAI関連法が少ないことから、AI規制に関して慎重に審議していることがわかる。
世界的に広がるAIへの肯定的意識 日本はゆるぎないAIフレンドリー国に
第8章「世論」では、世界各国の国民を対象としたAIに関する意識調査をまとめている(※7)。32ヵ国に住む合計23,685人にアンケート調査を実施した結果をまとめたところによると、「AIを使った製品やサービスは、欠陥よりも利益のほうが大きい」といった、「AIを肯定的にとらえる質問」に対して「はい」と答える割合が55%となり、2022年から行っている同様の調査において最高の割合となった。この結果から、世界的にAIを肯定的にとらえる意識が広がっていると言える。
以上の意識調査を国別に集計したのが、以下のグラフである。技術的にAIをけん引するアメリカの国民は必ずしもAIを肯定的にとらえているわけではなく、むしろ同国のライバルのである中国のほうがAIに対して好意的である。
こうしたなかで注目すべきは、「AIを使った製品やサービスは私を神経質にする」という質問に対して「はい」と答えた日本国民の割合である。この質問は「はい」と答えた割合が低いほどAIに対して肯定的と解釈できるのだが、日本の割合は32ヵ国中最低の25%であった。こうした結果は3年ほど変わっていないので、日本は伝統的にAIに対してフレンドリーな国だとわかる。
仕事に対するAIの影響に関するアンケート調査も実施された。具体的には「AIは5年以内にあなたの仕事の仕方を変えるか」と、「AIは5年以内にあなたの仕事を代替するか」という質問を尋ねた。前者については「非常にそう思う」と「いくらかそう思う」の合計が60%だったの対して、後者は36%であった。この結果より、多くの国民がAIによって仕事の仕方は変わるものの、失業するとまでは思っていないことが判明した。
前述の「AIは5年以内にあなたの仕事の仕方を変えるか」という質問に対して肯定的に答えた回答者を世代別に集計したのが、以下のグラフである。若い世代ほどAIによる変化を強く感じており、ベビーブーマー世代(日本における“団塊の世代”)が49%なのに対して、Z世代は67%であった。
以上の意識調査より、AIによる変化を肯定的にとらえる意識が世界中で広がっており、若い世代ほどAIによる変化を受け入れていることがわかる。また、日本はAIにフレンドリーな国という立ち位置をゆるぎないものとしている。
本稿では、『AI Index Report 2025』を4つのトピックから要約した。こうした要約から浮かび上がるのは、世界におけるAIの普及は経済・技術の両面から進んでおり、日本はこれらの側面では存在感が薄いものの、“AIフレンドリー国”という特色を確固たるものにしていることだ。一方で、「AIの悪用事例」は世界的に増加の一途をたどっており、各国がこれらへの対策やAI規制を進めている、というAIの負の側面とその対処も明らかになった。
2025年も半ばにさしかかっているが、今年後半も引き続き最新生成AIに関する報道が世間を賑わせると同時に、生成AIの悪用や依存をめぐる事件がクローズアップされるかもしれない。
〈参考〉
(※1)Stanford University HAI:「AI Index 2025: State of AI in 10 Charts」:https://hai.stanford.edu/news/ai-index-2025-state-of-ai-in-10-charts
(※2)Stanford University HAI:「AI Index Report 2025 Chapter 4:Economy」:https://hai.stanford.edu/ai-index/2025-ai-index-report/economy
(※3)Stanford University HAI:「AI Index Report 2025 Chapter 1:Research and Development」:https://hai.stanford.edu/ai-index/2025-ai-index-report/research-and-development
(※4)Stanford University HAI:「AI Index Report 2025 Chapter 3:Responsible AI」:https://hai.stanford.edu/ai-index/2025-ai-index-report/responsible-ai
(※5)THE WALL STREET JOURNAL:「‘I Felt Shameful and Fearful’: Teen Who Saw AI Fake Nudes of Herself Speaks Out」:https://www.wsj.com/politics/policy/teen-deepfake-ai-nudes-bill-ted-cruz-amy-klobuchar-3106eda0
(※6)Stanford University HAI:「AI Index Report 2025 Chapter 6:Policy and Governance」:https://hai.stanford.edu/ai-index/2025-ai-index-report/policy-and-governance
(※7)Stanford University HAI:「AI Index Report 2025 Chapter 8:Public Opinion」:https://hai.stanford.edu/ai-index/2025-ai-index-report/public-opinion






























