『ELDEN RING NIGHTREIGN』と過去作の対照性 “協力するゲーム性”が示唆するシリーズの大衆化

 5月30日、『ELDEN RING NIGHTREIGN(エルデンリング ナイトレイン)』が発売となった。

 2025年屈指の注目作として、発表時から話題をほしいままにしてきた同タイトル。本稿では、直近のソウルシリーズ作品との差別点から、『ELDEN RING NIGHTREIGN』の個性を紐解いていく。

『ELDEN RING』から派生した協力型サバイバルアクション『ELDEN RING NIGHTREIGN』

『ELDEN RING NIGHTREIGN』発売ロンチトレーラー

 『ELDEN RING NIGHTREIGN』は、「アーマード・コア」シリーズなどで知られるゲーム企業のフロム・ソフトウェアが開発/発売を手掛けた(※1)、オンライン協力型のサバイバルアクションだ。2022年2月にリリースされ、大好評を博した『ELDEN RING』からの派生タイトルで、同様にソウルシリーズの文脈を受け継いでいる。プレイヤーは、訪れるたびに姿を変える広大なフィールド「リムベルド」を舞台に、それぞれに能力の異なる8つのキャラクター「夜渡り」から1人を選択し、夜になると襲来する「夜の王」の打倒を目指していく。

 シリーズらしい高難易度を踏襲している一方で、他ジャンルの要素を柔軟に取り込んでいる点が特徴。手に入れた防具は一貫して使い続けることが可能だが、マップや武器、消費アイテムなどは、3日を1セットとする一度のゲームプレイが終わるとリセットされ、1からの積み上げを余儀なくされる。この仕様はローグライクからの借り物であると言えるだろう。

 くわえ、参戦時のフィールドに降り立つという演出、その瞬間からより良いドロップを求め、それぞれに狩りや探索に勤しむというルーティンには、バトルロイヤルやハックアンドスラッシュからの影響も感じ取れる。全体を通じ、シリーズの本流とはまた違った体験が可能となっているタイトルが、『ELDEN RING NIGHTREIGN』である。

 対応プラットフォームはPlayStation 4/PlayStation 5、Xbox One/Xbox Series X|S、PC(Steam)で、価格は、通常版が5,720円、ダウンロード専売のデラックスエディションが7,480円、パッケージ専売かつPlayStationのみで展開されるコレクターズエディションが32,120円(※2)。フロム・ソフトウェアの代表作と言えるまでに成長した『ELDEN RING』から、ようやく待望のスピンオフが登場した。

※1…海外でのパブリッシングは『ELDEN RING』同様、バンダイナムコエンターテインメントが担っている。

※2…各特別版の詳しい内容については、公式サイトを参照のこと。

やや乖離する売上と評価。差別化をどう受け止めるかが重要な論点に

ELDEN RING NIGHTREIGN ゲーム紹介トレーラー【2025.5】

 その存在が明らかとなって以降、『ELDEN RING』との関係性やそのゲーム性などから注目を集めてきた『ELDEN RING NIGHTREIGN』。リリースから数日が経過し、ネット上には売上や評価に関する情報も少しずつ出揃ってきている。開発/発売元によると、『ELDEN RING NIGHTREIGN』は初日にして出荷本数が200万本を突破。リリースから4日後の6月3日には、累計セールスが350万本に達したという。少なくとも現時点では、発売前の話題性に違わない結果を残しつつある状況だ。ここには、手の出しやすい価格や、オンラインでのマルチプレイを前提にしたシステムの影響もあったと推測する。

 他方、評価に関しては、期待度の高さ、現時点での実績からすると、やや芳しくないと言わざるを得ない状況となっている。Steamプラットフォームにおけるユーザーレビューでは、全体の75%ほどが「おすすめ」とするにとどまっており、中央値より1つ上のレビューランクである「やや好評」へと分類されている。プレイヤーによる否定的な意見はおおむね、マルチプレイを前提にしたシステムと、それをベースにしたレベルデザインそれぞれのハードルの高さへと着地する。

 こうした反響を重く見てか、フロム・ソフトウェアは6月2日、シングルプレイにおける難易度の緩和や、汎用装備のアッパー調整などを盛り込んだアップデートパッチを配信した。また、翌日には、今後のロードマップの一部を公表するとともに、新たに「2人プレイモード」を追加する方針であることも明らかにしている。

 一連の不評箇所は、『ELDEN RING NIGHTREIGN』にとって、ソウルシリーズの各作品や原作である『ELDEN RING』との差別点であると考えられる。異なるゲームデザインで制作するにあたって、フロム・ソフトウェアは落としどころの模索に力を割いてきたに違いない。たとえば、リソースやクールタイムをほとんど必要としないスキル&アーツシステムの採用、高所から落下した際のダメージの削除、高い崖を登るときの軽快な挙動、矢が消費アイテムでなくなったことなどは、(シリーズや原作が個性としてきた)“不自由さ”との決別であるとも言える。今後もシステムとレベルデザインは、同タイトルを語るうえでの重要な論点となっていくのかもしれない。

キーワードは「原点回帰」と「大衆化」。シリーズとしては異質なゲーム性

 プレイヤー同士の連帯感に重きを置いたゲーム性は、ある意味で原点回帰の個性だと言えるだろう。ソウルシリーズの初作とされている『Demon's Souls』では、ソロでの攻略と同等またはそれ以上に、当時トレンド化の気配を見せていた協力型のマルチプレイに軸足があった印象があるが、こうした性質はシリーズの支持拡大にともなって失われ、現在はシングルプレイ推奨となりつつある感がある。『ELDEN RING NIGHTREIGN』に含まれるマルチプレイを前提とするシステムは、『Demon's Souls』にあった体験を彷彿とさせる。リリース当時から同作をプレイしていたオールドファンのなかには、当時を思い出した人もいたのではないか。

 評価の面においては議論を呼んでいる『ELDEN RING NIGHTREIGN』のシステムだが、これによってもたらされた恩恵も少なくない。そのひとつが、ビギナーがシリーズに感じていたであろうプレイに対する精神的ハードルの緩和だ。

 先にも述べたとおり、直近のシリーズ作品ではシングルプレイが基本となりつつあるが、その反面で、難易度に関してはインフレが顕著となっており、新規、特にアクションに不慣れなプレイヤーには優しくない面があった。こうしたシリーズの課題に対し、仲間内、場合によってはインターネットを経由して知り合った誰かと協力することを前提においた『ELDEN RING NIGHTREIGN』は解決策を提示している。「誰かと一緒にプレイできるなら、自分でもクリアできるのではないか」。そのように感じ、同タイトルを手に取った新規層も少なからず存在したはずだ。実際に配信プラットフォームでは、少なくないストリーマーが参加型配信を行っており、その番組数も同タイトルの勢いを表すひとつの指標となっている。

 一方で、「クリアのために誰かと協力できること」は、「クリアするには誰かと協力しなければならない」とも言い換えられる。現時点での評価が芳しくないひとつの理由には、難易度が高いばかりに、技術的に優れたプレイヤーにもその他と足並みを揃える余裕がないことによる影響もあると考えられる。

 旧来のシリーズ作品がもたらす体験は、どちらかと言えば、課された高いハードルを一人で越えられたという満足感、場合によっては、他のプレイヤーに対して優越感を得るという対立的な意味合いが強かったのに対し、『ELDEN RING NIGHTREIGN』は、プレイヤー同士のあいだにあった垣根を撤廃する、文字どおりの“協力”タイトルとなっている。

 この点を踏まえると、『ELDEN RING NIGHTREIGN』は良い意味で、大衆への迎合を目指したタイトルとも言えるのではないか。こうした観点にも、過去のシリーズ作品との対照性がうかがえる。同タイトルに含まれるゲーム性は、シリーズの本流とはまた異なる層から支持を獲得していくのかもしれない。

 『ELDEN RING NIGHTREIGN』の発売と成功は、ソウルシリーズをこれまでとは異なる、新たなステージへといざなっていく可能性がある。この手のタイトルは、アクティブなプレイヤーが減ってしまうと仲間内でしか楽しめなくなるデメリットを抱えている。購入を検討しているならば、盛り上がっているいまのうちに手に取ってみることをおすすめしたい。

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