『グラブル』の音楽を手がける成田勤による“現場目線”のイヤホンレビュー 様々な経験から生み出された作曲スタイルとは

今年3月でリリースから11周年を迎えた本格スマホRPG『グランブルーファンタジー』。コンソール用にアクションRPGとして誕生した『グランブルーファンタジー リリンク』、対戦格闘ゲームの『グランブルーファンタジー ヴァーサス』(続編のヴァーサス -ライジング-)なども続々と発表され、同シリーズの話題は絶えない。
例年12月に行われている大型イベント『グラブルフェス』は2024年度も盛況に終わり、コンテンツが日進月歩で豪華になっている。5月からは日本各地を巡回する『グラブルEXTRAフェス2025』がスタートし、今年は名古屋・仙台・大阪をめぐる予定だ。
いまや開発元のCygamesが誇る一大コンテンツだが、本作を牽引する要素のひとつが音楽だ。本稿では、サウンドコンポーザーを務める成田勤に話を聞き、グラブル音楽の足跡を追っている。また、中国深センに本拠を構えるプロユースのイヤホンメーカー『qdc(キューディーシー)』の大人気モデル『SUPERIOR(スーペリア)』および同社のカスタムIEM『8Pro』についてのレビューも伺った。
植松伸夫氏の“教え”が活きた「アウギュステ列島 -白沫の瀑布-」

――11年も同じ作品の音楽を作り続けていると、さまざまなターニングポイントがあったのではと推察します。『グランブルーファンタジー』がリリースされてから、何か具体的な転機はありますか?
成田勤(以下、成田):明確な転換期はないですね。最初に植松伸夫さんが数曲作曲されていて、自分がそのあとを引き継ぐ形で始まったんです。最初は、リリース時に足りない楽曲をいくつかお願いされたのがきっかけでした。単発での発注でしたので、まさかここまで関わらせてもらえるとは想像もしていませんでしたね。ありがたいことにサービスが開始して以降順調に進んできて、あれよあれよと追加の発注もいただき、オーケストラを発端として開催されていったリアルイベントもその都度全力で取り組んできたら11年も経っていました。
――たしかにリリース当初は植松さんの名前が大きく打ち出されていた記憶があります。
成田:自分が書いた曲だと認識されないことも多かったですね。そういう意味では、リアルイベントに出演させてもらうようになったのはひとつの転機かもしれないです。サービス開始から約2年後、サウンド制作としては「新世界秩序」という曲がお披露目になったタイミングで、東京ゲームショウでオーケストラコンサートをやらせてもらったんです。そのときをきっかけに、サントラを購入していない方にも「こんなヤツがいたんだ」と認識してもらえるようになっていったと思っています。
――Stella Magnaの結成(2017年)など、いまでこそロックは成田さんのパブリックイメージとして重要な要素かもしれませんが、オーケストラがきっかけだったのというのは感慨深いものがあります。成田さんのルーツが大きく後押しした瞬間というか。
成田:そうですね。もともと両親もクラシックの演奏家で、オーケストラにも所属していたので。バンドに傾倒し始めたのは同世代の間で流行ってることを認識してからで、中学生のころですかね。
――コンポーザーとしてロックをやろうと考えたのはいつごろですか?
成田:高校生のときにバンドの曲を書くようになり、シンセサイザーを使って打ち込みをすることもありました。一方でクラシックも続けていましたので、すでにそのころにはいろいろなジャンルで活動していたのですが、いざ仕事にするとなるとどうしようかと悩みもありました。駆け出しのころは同じ業界の先輩から「周りはみんなその道一本で頑張っているのに、お前はそんな中途半端な姿勢でやっていけると思うのか」と諭されることもありました。自分のことを心配して言ってくださったことなのでありがたいと思いつつも、そこで「好きなことのどれかを諦める」という選択肢を取れなかったんですね。その後、劇伴の仕事についたことで、どんなジャンルにも対応しなければいけなくなり、これまでの経験がすべて生きていますので、結果として、当時諦めなくて良かったなと思っています。
――時代の流れを感じるお話ですね。ポップミュージックも含めて、昨今は意図的に異なるジャンルを組み合わせるケースも多々あります。
成田:そうなんですよね。だから、いま音楽を学んでいる学生さんが羨ましくもあります。音大を含めた当時の学校って、ポピュラーミュージックや打ち込みを勉強しながらクラシックを学ぶことが難しかったんです。もちろんその逆も同じだったんですが、いまは並行して学べる学科がすごく増えていて。

――先ほど「ゲーム音楽のコンポーザーはどんなジャンルにも対応しなければならない」とおっしゃってましたが、そう考えると成田さん含めて、まさに時代を体現する作家ですよね。たとえば「アウギュステ列島 -白沫の瀑布-」はケルト音楽の要素を感じられますが、どういったところからアイデアを得られたのでしょうか?
成田:これまで自分が聴いてきたものややってきたことが昇華された結果だと思うのですが、やはり植松さんの影響は大きいですね。もう何年も一緒に仕事をさせていただいていますし、小さいころからファンだったので。以前は器用貧乏になりがちなことが悩みだったんですよ。技術にこだわり過ぎて楽曲としてのメッセージが弱く、その結果何を伝えたいのか分かりづらくなってしまう......という。植松さんはすぐ見抜いてしまうので、アレンジをやってても、「君、そういう悪い癖あるよね?」と言われたこともあって(笑)。大事なのはやっぱりメロディーなんだなと分かり始めたころに書いたのが「アウギュステ列島 -白沫の瀑布-」なので、植松さんの教えは重要ですね。うれしかったのは、そののちにオーケストラコンサートでこの曲を演奏したときです。植松さんの前で披露される機会があったのですが、冗談混じりに「この曲めっちゃいいじゃん。俺が作ったことにしてよ(笑)」って言われて。
――最高の賛辞!
成田:そうそう(笑)。だから僕の曲は、自分が向き合ってきたものと植松さんのような先駆者から教えられたものが結実した結果だと思いますね。それはどのジャンルの音楽を作るにしても一緒で、具体的に実を結んだのがグラブルの制作に参加したころだったのかなと個人的には感じています。
――Cygamesのオウンドメディア『Cygames Magazine』で今年2月に公開された成田さんのインタビューを拝読しました。オーケストラコンサート担当の方が入社のきっかけに「アウギュステ列島 -白沫の瀑布-」を挙げていて、その感覚に大変共感するんですよ。ゲーム音楽が人生における重大な決断の指標になっている。
成田:すごい話ですよね。作曲者としては大いに責任を感じます。自分が植松さんに拾ってもらったころは、業界が変わりつつあったんですが、やはりゲーム音楽に対する風当たりは強かったんです。芸術音楽に比べると扱いが低いというか。比較的歴史の浅いなかで急成長してきたので、自分よりもずっと前にキャリアをスタートされた方々はもはや比べ物にならないぐらい大変だったと思うんですよ。僕ら世代はその方々の積み上げてくださった歴史の中にいるので、業界を支え続けてきた先輩方には感謝しかないですね。同時に、自分も同じように、次の世代に繋げていかなきゃなと思います。

――『グランブルーファンタジー ヴァーサス -ライジング-』の楽曲「Primarch of Promises」が今年2月にリリースされましたが、心から感動しました。まさにグラブルの集大成、ひいてはゲーム音楽の歴史も感じられる1曲だと感じます。植松さんをはじめ、本作に関わるオールスターのような作家陣ですよね。
成田:あの曲は大元のオリジナルだけでなく、派生曲やキャラソンからもメロディが引用されていて、たしかに集大成っぽくなっていますね。あれはディレクションをした福原哲也さんと、実際にアレンジを仕上げた西木(康智)さんのお二人が良い仕事をしているんですよ。植松さんの書いたメロディを取り入れつつ、次の世代の人間たちが構築していったという意味でも、歴史が詰まっているという言い方はできるかもしれません。
「元気な音なのに聞き疲れしない」 成田勤が感じた“チューニングの妙”

――さて、ここからはここからはイヤホンについてお聞きしたいです。『8Pro』をすでにお使いとのことですが、「サガ」シリーズでおなじみの伊藤賢治さんからのご紹介と伺いました。
成田:そうなんですよ。前まで使っていたイヤモニが合わなくなって悩んでいたので、助かりました。

――ミュージシャンから「イヤモニが合わなくなる」とよく聞くのですが、どういう感覚なのでしょう?
成田:個人的には特にライブユースで感じる点として、環境の影響が大きいことがあると思います。耳を守るために、意外と小さな音量でモニターするミュージシャンも多いんですよ。その一方で、アリーナクラスの巨大な会場でない限りは、比較的近い距離にメインスピーカーが設置され、イヤモニを使用しない演者がいるときは、ステージ上に演奏音を返すウェッジと呼ばれるモニタースピーカーも置かれています。さらに数メートルの距離にドラムがあり、すぐ背後にはギターやベースのアンプもあって。ライブ中にはそのすべてから常に100デシベルを超える音が鳴っています。なのでどんなに遮音性能の高い製品を使っていても、モニター音に混ざってしまうんですね。そのため、家ではすごく良かったのに現場ではイマイチ......となることもあるかと思いますし、自分もそれで悩んでおりました。

――バンドマンならではの悩みですね。
成田:加えて、奏者にもいろいろなタイプの人がいると思うんです。自分のパートがよく聴こえるものや気分のアガる音で聴きたい人もいれば、分析的に全体を聴いてジャッジしたい人もいる。自分は割と後者で、それゆえにモニター機種を選ぶことが多かったんです。最初に手に取ったものがハイ寄りで、音のシャリつきがきつく、低域も薄かった。モニターのバランスを見てくれるスタッフにEQで調整してもらっていたんですが、削ったところの線が細くなってしまったり、トランジェントが犠牲になりアタックも見えなくなってしまったんです。その次に別の機種を試してみたんですが、前の機種と音色も抵抗も違いすぎて併用が難しかったり、いい音ではあったのですがハイミッドのピークがややキツく、音量をそこまで上げていないのに、ライブが終わったころには耳がへとへとになってしまって……。
――客席からは計り知れない影響がイヤモニ選びひとつにはあるのですね。すごく繊細……。
成田:そうですね。『8Pro』はトランジェントがすごくはっきりしてるんです。スネアなどのアタックがすごく見やすいんですよね。現場で多少EQをいじったところで線が細くなったり、音像が崩れてしまうということが少ないんですよ。また全体的なバランスもとてもいいと思います。メーカーさんのほうでも周波数グラフを公式に出しているんですが、“プレゼンス”と言って、一番上の帯域がちょっと落ち着いているんです。それが個人的には聞き疲れにつながらなくて、ライブのモニターがかなり楽になりました。レコーディング時のモニターとしても使用していますし、ご提供いただいたものとは別に2台目を購入して、トラブル時の予備機としてだけではなく、ゲームや外出時の普段使いにも愛用するくらい気に入っています。
――グラブルのコンサートに加え、成田さんはStella Magnaもありますから、『8Pro』の出番も多そうです。
成田:一線級のプロがエンジニアとして入ってくれてはいますが、Stella Magnaに関しては、同期で使っている音も全部自分がアレンジの際に書き出していて。理想のバランスの状態をステージからお客さんに届けられるかジャッジするのが、やっぱり自分なんですね。リハーサル時は客席に出てメインスピーカーでも確認しますが、常時バランスを確認しつつリハーサルを進行するという点でも、使用頻度が高いイヤモニは強く信頼できるものにしたいんです。

――『8Pro』と同じくqdc社が作っている『SUPERIOR』の感想もお伺いしたいです。こちらはエントリーモデルですが、使用感はいかがですか?
成田:こちらはワンドライバーですよね。『8Pro』のようなマルチドライバーに比べるとスペックとして不利な部分もあるように感じるんですが、そもそもワンドライブのまとまった音が好きだという人もいると思うんです。自分は棲み分けが前提にあると感じます。そのなかで『SUPERIOR』はまとまりがありつつも解像度の高い音を聞かせてくれました。それと低域がしっかりしているのに、過多に感じない絶妙なバランスですよね。元気な音なのに聞き疲れしない。

――『SUPERIOR』は私も使用していますが、疲れない実感は持っています。
成田:すごいですよね。チューニングの妙を感じます。実は僕、試聴の前段階で値段を見ていなかったんですが、価格を見てひっくり返りました。もっと上の価格帯だと思っていたので、「本当にエントリー機として出しているんだ」と、そのときに実感を持てましたね。
――さまざまな種類の音楽を作曲している成田さんにお聞きしたかったのですが、『SUPERIOR』はどういうジャンルが合うと思いますか?
成田:何にでも対応できる気がしますが、自分の経験でいうとステージモニターとしても活躍できると思います。やはり元気な音なので、自分の気分も上げてくれる。ジャンルでいえばロックですかね。まとまりの良さ、バンド全体の音が聞けるというか。もちろんゲーム好きにもハマるでしょうし、この価格帯に近い予算で検討している方は、ぜひ聴いてみてほしいです。今後アップデートしていくうえでも基準になるモデルだと思いますね。

■製品情報
qdc『SUPERIOR』
ドライバー:ダイナミック型(10mm径シングルフルレンジ)
ドライバー数:1DD / 1ドライバー(片側)
形式:密閉型
周波数応答範囲:10 – 40,000Hz
入力感度:100dB SPL/mW
インピーダンス:16Ω外音遮断:26dB
ケーブル/プラグ:高純度無酸素銅4芯ケーブル(約120cm)※ブラックカラーPVC被膜使用。
コネクター:カスタムIEM 2pin、プラグ(金属スリーブ使用ストレート):3.5mm3極
付属品:SUPERIOR Cable 3.5mm3極アンバランス、ソフトフィットシリコンイヤーピース:3ペア(S/M/L)、 ダブルフランジシリコンイヤーピース:3ペア(S/M/L)、クリーニングツール、オリジナルキャリングケース
生産国:中国
メーカー保証:本体1年 / ケーブル・付属品6ヶ月
〈品名・JAN・型番・希望小売価格〉
『SUPERIOR Piano Black』
JAN:4549325070078
型番:QDC-SUPERIOR-BK
希望小売価格:税込14,300円
『SUPERIOR Vermilion Red』
JAN:4549325070450
型番:QDC-SUPERIOR-RD
希望小売価格:税込14,300円
『SUPERIOR Azure Blue』
JAN:4549325070085
型番:QDC-SUPERIOR-BL
希望小売価格:税込14,300円
『SUPERIOR Rondo Purple』
JAN:4549325077985
型番:QDC-SUPERIOR-RP
希望小売価格:税込14,300円
SUPERIOR 製品ページ:https://www.aiuto-jp.co.jp/products/product_4660.php
qdc『8Pro』
ドライバー:BA型
ドライバー数:8BA / 8ドライバー(片側)
形式:密閉型
周波数応答範囲:10 – 30,000 Hz
入力感度:104 - 108 dB SPL/mW
インピーダンス:19 – 62Ω
外音遮断:26dB
ケーブル/プラグ:12pro Black Cable(3in1ストレートプラグ)線材:銅+銀ミックスケーブル(約120cm)
コネクター:qdc 2pin / カスタムIEM 2pinフラットタイプ、プラグ(ストレート):3.5mm×1 / 2.5mm×1 / 4.4mm×1
付属品:12pro Black Cable(3in1)、3.5mm3極アンバランス変換プラグ、
2.5mm4極バランス変換プラグ、4.4mm5極バランス変換プラグ、
シリコンイヤーピース:3ペア(S/M/L)、
シリコンイヤーピースダブルフランジタイプ:3ペア(S/M/L)
フライトアダプター、3.5mm to 6.3mm変換プラグ
クリーニングツール、キャリングケース
生産国:中国
メーカー保証:本体1年 / ケーブル・付属品6ヶ月
〈品名・JAN・型番・希望小売価格〉
『8Pro』(ユニバーサルモデル)
JAN:4549325074885
型番:QDC-8PRO-S
希望小売価格:税込247,500円
https://www.aiuto-jp.co.jp/products/product_4855.php#1
『8Pro』(カスタムIEM)
JAN:4549325074892
型番:QDC-8PRO-C
本体価格:税込247,500円
https://www.aiuto-jp.co.jp/products/product_4856.php#1
▼成田勤さんのサイン入り『SUPERIOR Vermilion Red』をプレゼント▼

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<応募締切>
5月22日(木)終日
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“イトケン”の愛称で親しまれる伊藤賢治氏に、「qdc」が展開する2つの有線イヤホン『SUPERIOR(スーペリア)』と『EMPE…