バラエティ番組などに欠かせない“MA”の仕事とは? エンジニア&スタジオへの取材を通して学ぶ

突然だが、MAという仕事をご存じだろうか。「Multi Audio」の頭文字を取ってMA(エムエー)だ。
MAは音に関わる職種なのだが、ミキシングやレコーディングのエンジニアに比べて、その実態はあまり知られていない。映像コンテンツが溢れる今、MAの仕事ぶりに触れる機会は誰にでもある。私たちはMAされた音を聴いている。
今回、話を聞いたのはバラエティ番組などでMAミキサーとして活躍する阿部雄太氏。映像制作会社のIMAGICAでMAミキサーとしてのキャリアをスタートし、9年間勤務した後に独立。現在は、株式会社MAL代表にして、Roppongi-LabのMAスタジオ運営も手掛けている。
筆者は、阿部氏に話を聞くべくRoppongi-Labに赴いた。室内は、防音の効いたナレーション収録ブースと、機材類が並ぶ作業スペースがあった。MAの仕事について、筆者も明るいわけではない。どんな話が聞けるかワクワクしながら、インタビューを始めた。
まず、MAとはテレビ番組をはじめとする全ての映像コンテンツ(ドラマ、映画、アニメ、CMなど)において、音を視聴者に聞こえやすく、分かりやすく整える仕事だという。
阿部雄太氏「MAの役割は大きく3つの柱があります。整音・ナレーション収録・ミックスです。整音は、映像コンテンツに存在する様々な音を整える作業です。番組やドラマですと、映像と一緒に収録している「同録」と呼ばれる素材の音があります。台詞や環境音、スタジオで出演者が身に付けているピンマイクの音などですね。こういった音の不要な部分を削ったり、必要な音を立てたりして、視聴者に分かりやすく音を伝えるために整えていきます」

ナレーション収録は、筆者も音声を扱う音響エンジニアなので、多少馴染みはあった。ナレーターや声優によるナレーションを録ったり、アニメなどはアフレコが行なわれる訳だが、これらを収録するのもMAの仕事なのだそうだ。
「ミックスでは、整えられた同録の音とナレーション音声、音響効果さんが付けたSEやBGMといった素材をバランス良くまとめます。このシーンではどのくらいナレーションを聞かせるか、BGMをナレーションに合わせてどのくらい盛り上げるか、SEをどのくらい聞かせるか、同録の音をどの程度上げ下げするかなど、シーンに合せて音量バランスも調整します」
自分のような映像の素人が動画コンテンツを作るとき、映像編集と一緒にMAのような作業をすることがある。もしかしたら、プロの編集マンがMAの仕事を兼ねることはあり得るのだろうか。
「あまりないと思います。やはり、映像編集の方が作った音と、MAのプロの手が入った音とでは、違いはどうしても出ます。SEの音量が不自然に大きいなど、意味の無い音付けが視聴者に伝わるからです。MAが手掛ける音には、全てのシーンごとに意味があるというか……。強調する音はもちろん、引き算する音にも意味があります。他には、編集マンが音を作った場合、他者目線が入りにくいことも懸念点です。映像と音の作業をセパレートすることは、最終的なクオリティアップにも繋がると思います」