HIKAKINやキスマイ宮田ら参加の『イナズマイレブン』新作 賛否の声への対応に見る“レベルファイブの本気度”
「イナズマイレブン」シリーズの最新作『イナズマイレブン 英雄たちのヴィクトリーロード』に盛り込まれたさまざまな施策が話題を集めている。
本稿では、一連の騒動の背景と実際の出来、その後の対応から見える、制作側の意図を推察する。
紆余曲折がありながらようやくリリースを迎える『イナズマイレブン』シリーズ最新作
『イナズマイレブン 英雄たちのヴィクトリーロード』は、レベルファイブが開発/発売を手掛けるサッカーRPG「イナズマイレブン」シリーズの第7作にあたるタイトルだ。舞台となっているのは、初代『イナズマイレブン』から25年後の日本。幼い頃に試合中に倒れ、サッカーができなくなってしまった主人公・笹波雲明は、長崎県にある南雲原中学校でサッカー部の指揮官を務めている。ゲームの目的は、円堂ハル率いる雷門中学校・サッカー部を打倒すること。プレイヤーは、スカウトや育成を通じて、最強のチームづくりを目指していく。
同タイトルは2016年7月、シリーズの新たなメディアミックスプロジェクト『イナズマイレブン アレスの天秤』として存在が明かされていた。2018年には、同名でマンガ化/テレビアニメ化も果たしている。その一方で、当初から予定されていたゲーム化は難航。度重なる発売延期とタイトル名の変更を経て、ようやく2025年8月22日のリリースが決定したという経緯を持つ。
対応プラットフォームは、Nintendo Switch 2/Nintendo Switch、PlayStation 5/PlayStation 4、Xbox Series X|S、PC(Steam)。価格は、通常版が税込み8,910円、デラックスエディション(※)が税込み10,010円となっている。
※デラックスエディションには、アーリーアクセス権や各種ゲーム内アイテムが同梱されている。詳しくは公式サイトを参照のこと。
賛否を集めるボイスキャストと商品の仕様
「イナズマイレブン」シリーズのファンにとっては、発表から9年近くも発売を心待ちにしてきたタイトルであろう『イナズマイレブン 英雄たちのヴィクトリーロード』。Xデーが近づくにつれ、公式からは続々と新情報が届いている。このたび話題を集めているのは、そのようにして明らかとなってきたボイスキャストと商品の仕様についてだ。
前者に関して、公式は4月11日開催の『イナズマイレブンV HEROES SHOWCASE 2025 発売日&最終スペック発表会』の場にて、「セレクトキャラ」10人の声を担当したゲストラインアップを公表した。同キャラクター陣は主人公率いる南雲原イレブンにチームメンバーとして加入する面々で、プレイヤーが好みに応じて10人から5人を選択できるという。脇役的な立ち位置ではあるものの、シリーズのゲーム性を考えると、進行に深く関わってくる重要な面々である。キャラクター名とその声を演じたゲストの名前は以下のとおり。
イケイケ相撲部員「幕下 照(まくした てる)」:HIKAKIN
憑依のアクター「弁天 九郎丸(べんてん くろうまる)」:佐藤ミケーラ倭子
人生の解答を追う「伊勢谷 要(いせや かなめ)」:伊沢拓司(QuizKnock)
てっぺんへの挑戦者「頂 挑夢(いただき いどむ)」:伊波ライ(にじさんじ)
2周目を生きる委員長「雨道 未理科(うどう みりか)」:一条莉々華(hololive DEV_IS)
美しきものへの探求者「井馬里 陽愛(いまさと ひまな)」:佐々木舞香(=LOVE)
剣の道を極めし者「古手打 七南(こてうち ななみ)」:英リサ(ぶいすぽっ)
真実を見抜く戦略家「判目 才人(ばんめ さいと)」:周央サンゴ(にじさんじ)
猪突猛進 暴走特急「牛島 突五郎(うしじま とつごろう)」:マサイ(Fischer's)
奇術の使い手「妖士乃 銀郎(あやしの ぎんろう)」:宮田俊哉(Kis-My-Ft2)
他方、後者に関して、公式はおなじく同イベントで、「Nintendo Switch 2/Nintendo Switch」「PlayStation 5/PlayStation 4」「Xbox Series X|S」「Steam」の4つのグループにおいて、レアキャラクターの排出率に差を設けるというプラットフォーム別特典を発表した。対象となるキャラクターは当該プラットフォームでしか排出されないというわけではないが、対応するハードであれば、より高い確率で手に入れられるとのことだった。そのような製品の仕様を踏まえてか、同タイトルはクロスセーブに対応。プレイヤーは全プラットフォームでソフトを購入することで、効率的な収集が可能となる仕組みだ。プラットフォームごとの排出率アップキャラクターは以下のとおり。
Nintendo Switch 2/Nintendo Switch:「プロミネンス」「ダイヤモンドダスト」「ザナーク・ドメイン」
PlayStation 5/PlayStation 4:「プロトコル・オメガ」「プロトコル・オメガ2.0」「プロトコル・オメガ3.0」
Xbox Series X|S:「世宇子中」「リトルギガント」「ドラゴンリンク」
Steam:「オーガ」「アンリミテッドシャイニング」「エンシャントダーク」
しかしながら、『イナズマイレブン 英雄たちのヴィクトリーロード』に期待していたファンの一部からは、これら2つの要素が「声の仕事を専門としていない面々を抜擢した、知名度先行のキャスティング」「全プラットフォームでソフトを購入させようとする、ユーザー目線ではないマーケティング」であると不満が噴出。ネガティブなトピックとなっていた実態がある。制作側が良かれと思って行った施策が、思わぬ逆風を生み出してしまった形だ。
実際の出来、その後の対応から感じ取れるレベルファイブの明確な意思とは
一方で、公式は4月11日にPVを公開。騒動の渦中にあるゲストたちの実際のボイスアクトの様子が確認できた。そのクオリティをどうとらえるかは、人によって差があるだろうが、当初懸念されていたような出来からは、良い意味でかけ離れていたと感じた人も多かったのではないか。このような実感は、不満の声をあげていたファンたちのあいだでも少なくなかったようで、キャスティングに対する反発は次第に落ち着きを見せつつある。
また、プラットフォーム別特典に関して、公式はファンの声を受け、4月16日に商品の仕様を変更するアナウンスを行っている。当初はプラットフォームごとにレアキャラクターの排出率がアップする予定だったが、新たな仕様では、当該キャラクターたちをグループ分けし、すべてのプラットフォームに排出率をブーストする期間を設ける形に。これにより、すべてのソフトを購入しなくても、タイミングよくプレイすれば、システムの恩恵が受けられるようになった。
ボイスキャストと商品の仕様をめぐる騒動と、その着地からわかるのは、紆余曲折ありながら発売を迎えるシリーズ12年ぶりの新作にかける、レベルファイブの本気度だろう。先にも述べたとおり、それぞれはファンが望んでいたものではない施策として批判の矛先となってしまったが、裏を返せば、双方が新たな支持層を開拓する試みであるとも言える。タイトルそのものが持つ魅力や、それに対する作り込みの部分に自信があるからこそ、より広い層にアプローチできるよう、多方面で活躍するタレントをボイスキャストに迎えるとともに、新たにNintendo Switch 2、Xbox Series X|Sでもリリースすることを決めたのではないだろうか。
反面、紹介したトピック以外のところで「モバイル版が開発中止となったこと」「パッケージ版は展開されず、ダウンロード専売となったこと」にも賛否の声がある。こうした対応もまた、限界まで制作コストを注ぎ込んだからこそ、より高い利益率・回収率を見込める販売経路、販売方式にしぼったともとらえられるのかもしれない。外部からの想像ではあるが、最適化にかかる労力は、Xbox以上にモバイルが大きいと考えられる。対応プラットフォームや商品の展開をめぐる取捨選択もまた、『イナズマイレブン 英雄たちのヴィクトリーロード』がしっかりと作り込まれた一作であることの裏付けである可能性がある。
はたして『イナズマイレブン 英雄たちのヴィクトリーロード』は、新作を待ち焦がれたファンたちの熱い気持ちに応えることができるだろうか。発売まであと4か月ほど。リリース後、同タイトルがどのように評価されていくのかに注目したい。