新型が話題のフォルクスワーゲン「ゴルフ」シリーズ 歴史とともに振り返る
70〜80年代生まれにはノスタルジックで、Z世代には新鮮に映る“昭和時代”。昭和レトロと並び平成レトロといった「懐かしいもの」が再評価されている。フォルクスワーゲンが誇る「ゴルフ」もそのひとつ。新型が登場した今、世界のコンパクトカーのお手本的存在である同シリーズの歴史や歴代モデルを振り返ってみたい。
ゴルフの源流となったのはドイツの「国民車計画」
ゴルフはドイツの自動車メーカー、フォルクスワーゲンの主力モデルである。同車は小型車のベンチマーカーとしても知られ、世界中で人気を博している。その魅力はブランドポリシーでもある質実剛健なクルマづくりを柱に価格帯を超えたオーバークオリティな品質といわれている。そんなゴルフは昨年50周年のアニバーサリーイヤーを迎えた。
フォルクスワーゲンといえば、タイプ1(ビートルの愛称で有名)のイメージが強いかもしれない。それはナチス政権下、1941年に国民車構想から生産が開始されているクルマだ。設計は今もスポーツカーブランドとして名高いポルシェの創設者でもあるフェルディナント・ポルシェ博士。彼はもともとはダイムラー・ベンツの技術者でもあった。コンパクトなボディで高速を安定して走れ、大人4人が無理なく乗れ、燃費や維持費、車両価格も手頃なビートルは戦後も世界中で大ヒットしたが1960年代になると販売台数の落ち込みが目立つように。そこでポスト・ビートルとして開発されたのがゴルフだ。
そこで次期型のいわばポスト・ビートルの開発が急務に。ビートルの繋がりからは定かではないけれど、ポルシェ社に開発を依頼。ミッドシップレイアウトを持つプロトタイプが完成したが、残念ながら生産にはならなかった。
次に生産を依頼したのはイタリアのカロッツェリア。その開発指揮を取ったのが後にイタルデザインを立ち上げた若き日のジョルジェット・ジウジアーロだ。コードネーム「EA276」と呼ばれるプロトタイプは直線基調のボディデザインを持ち、効率的なキャビンパッケージのためにエンジンを横置きに搭載し、のちの市販車に近いスタイリングになっている。
初代デビューは1970年代、大西洋の海流が語源
記念すべき初代のデビューは昭和49年(1974年)。車名の由来はスポーツのゴルフではなく、メキシコ湾から大西洋を横断する潮の流れ「Golfstrom」(ゴルフシュトリーム)から。しかしスポーツのゴルフも連想させるため、メーカーもシフトノブにゴルフボール状のものを装着したり、近年ではウェルカムライトにゴルフボール調の光を取り入れたりしている。
コンパクトで走りも良くメーカーの思惑通りポストビートルとして爆発的に売れ、デビューから2年後の1976年には早くも100万台目をラインオフ。日本へは1975年から1.5リッターモデルをヤナセが正規輸入している。
そして1976年に追加されたホットモデル「GTi」を忘れてはいけない。フロントグリルは赤で縁取られ、ブラックアウトされたメーカーロゴに加え、110PSを誇る1.6リッターエンジン搭載など特別感も醸し出している。こちらは残念ながら日本へは正規輸入されなかった。
モデルデビューの1974年、日本では前年のオイルショックを受け1月から半年間、石油・電力節減のために民放は深夜放送を自粛、NHKも午後11時には放送を終了した。そんな中で始まったのが「宇宙戦艦ヤマト」の第1作。またこの年にはミスタージャイアンツの長嶋茂雄が巨人軍を引退している。昨今昭和遺産として話題になる端島(通称:軍艦島)の炭鉱が閉鎖されたのもこの年だし、トンボ鉛筆から暗記ペンという名称で蛍光ペン、ルマンドやカールといったお菓子もリリースされている。テクノロジー系ではインテルが汎用の8ビットマイクロプロセッサーを発表しデジタル社会の幕を開けた時代だ。
2代目は日本でも人気のファニーフェイス
2代目へ襷が渡されたのは昭和58年(1983年)。ボディやエンジンが拡大された。日本へは1.8リッターモデルを中心に1.6リッターのディーゼルユニット搭載車も導入されている。飾らないシンプルなデザインは、これぞフォルクスワーゲン的な雰囲気にあふれ、今でもファンが多い。ホットモデルのGTiは1984年にデビュー。1986年には16バルブ化し139PSのよりパワーアップしたGTi 16Vがラインナップに加わっている。このGTiは日本にも輸入されたが排ガス規制の問題で若干パワーダウンし、日本の保安基準面から4灯式ヘッドライトの中央2つは点かないなど逸話も多い。
3代目はやや大きくなり、ステーションワゴンなども追加
元号が平成に変わった平成3年(1991年)に3代目へフルモデルチェンジ。ボディサイズもより大きくなりゴルフとしては初めて4mを超えたモデルだ。またモデルバリエーションも増え、セダン(ジェッタ)やステーションワゴン(ヴァリアント)が追加される。初代から生産され続けたカブリオレもこの代になって初めてフルモデルチェンジした。アウトバーンなど高速性能の向上を図った2.8リッターの排気量から170PSを誇るV6エンジン搭載のVR6もこの代に初めてお目見え。量産車として初めてフロントエアバッグを設定したクルマでもある。
高級化路線にも舵をきった、4代目登場
4代目がデビューしたのは平成9年(1997年)。このモデルから高級化路線を意識し、全幅も1700mmを超え完全3ナンバーボディになった。エンジンもパワフルなものになり1.8リッターターボを搭載したモデルもラインナップ。3.2リッター241PSを誇るV6エンジンを収め、ゴルフ史上最速の4WD、R32が登場している。セダンはジェッタからヴェントに。そのヴェントの後継セダン、ボーラにはユニークなV型5気筒エンジンも用意されていた。
5代目はエンジン直噴タイプで、パワーユニットも追加
4代目のプレミアム路線を引き継いだ5代目が発表されたのは平成15年(2003年)。リアサスにマルチリンクサスを採用するなどクルマの基本はアウディA3のコンポーネントを色濃く持つ。エンジンは直噴に変わり、ミッションはツインクラッチ式のセミATともいえるDSGと組み合わされた。モデル後期にはターボとスーパーチャージャーを組み合わせ、排気量を低く抑えたパワーユニットが登場。のちのダウンサイジングエンジンの源流でもある。GTiと別のハイパフォーマンスモデル、R32は250PSまでパワーアップされた。
6代目ではEVモデルも追加
ゴルフ6こと6代目がデビューしたのは平成20年(2008年)。基本コンポーネントは先代のままなのでメカニズム面で大きく変化した箇所は少ない。デビュー間もない頃は1.4リッターのダウンサイジングエンジンを主軸にモデル展開。モデル中期には1.2リッターのモデルも登場。EVモデルでもあるブルーeモーションもあった。
7代目のフルモデルチェンジでは日本カー・オブ・ザ・イヤーも受賞
2012年(平成24年)にフルモデルチェンジ。7代目となったモデルは新開発のプラットフォームを採用することで軽量化、高剛性のボディを手に入れた。全高も低くなりスポーティな印象のスタイリングと基本性能の高さと相まって日本では輸入車初のカー・オブ・ザ・イヤーを受賞した。
現在にも続く、8代目マイルドハイブリット対応
令和元年(2019年)に8代目へバトンタッチ。2ボックスに太いCピラーなど「らしさ」は受け継ぎながらシルエットはよりシャープなものに。デジタル化されたインテリアも今風。大きく変わったのはパワートレインで、マイルドハイブリッドシステムをブランドとして初搭載した。日本へ導入されたのは2020年から。この年は元号が平成から令和に変わった年でもある。
そして、現在はゴルフ8のマイナーチェンジ、通称「ゴルフ8.5」が2025年に日本上陸。そのレビューは追ってご紹介したい。