連載:クリエイティブの方舟(第二回)
「MVは大喜利だよね」映像作家・関和亮と水溜りボンド・カンタが捉える“映像表現の面白さ”
技術をオープンソースにすることが、自分の成長につながる
ーーカンタさんは一昨年5月に会社を設立されましたね。
カンタ:コロナ禍などでバタバタしていたのが少し落ち着いたタイミングで、もう1回関さんとお話しさせてもらったんですよ。これまでやってきたことの報告と、今後どうするかを相談するなかで、「自分でできることをやっていくのが重要なんじゃないか」と言われたんです。
関:まっとうな大人の意見ですね(笑)。
カンタ:関さんや、超一流のカメラマンさんとご一緒して作品を作らせてもらっても、それは皆さんの力だから、どうにも自分に自信がつかなくて悩んでいたんですよね。自分でチームを作ってコツコツやっていくことが実は近道なのかなと思って、映像制作会社を作ることにしました。
関:いまは撮影・編集のスタッフがいるの?
カンタ:そうですね。水溜りボンドの撮影を手伝ってくれてるメンバーや、映像学部の仲間たちが在籍しています。初期のころからみんなで一生懸命やってきましたから。YouTubeのテロップを入れるところから始めて、だんだん技術が上がっていきました。ただコンテンツを作るうえでみんなで戦えるようにならないと、僕が水溜りボンドとして背負い続けるにはプレッシャーが大きすぎるなと思っていて。バズらせるノウハウと、映像チームを持っていることが自分たちの強みだと改めて認識して、昨年会社を立ち上げました。
関:すごくいいと思う。みんなでふわっと集まってたところから、一段階ギアを上げて、同じ目線で戦っていくのはすごく大事。やらなきゃいけないこともわかってくるしね。
カンタ:チームの雰囲気もガラッと変わりましたね。一緒に戦えてる感じがします。あとは僕自身も柔軟になりました。正直、昔は関さんと同じことがしたかったんですよ。びっくりするようなアイデアでビッグなアーティストさんたちを驚かせるMVを作りたいと思ってたけど、いまは自分たちの強みを活かした面白いことをやろうと考えられるようになって。
関:めっちゃいいと思う。僕は反対に、音楽というお題がない、自分たち発信でのもの作りをやってこなかった後悔があります。MVを撮ってきた人がある程度キャリアを積むと、どうしても最終的には自分の作品ではないな、と感じることがあって。だからドラマや映画にも挑戦してみてるけど、もっと早くやってたらよかったな。若いカンタ君がいろいろ始めていて、羨ましいなと思いながら聞いてました。
カンタ:僕も関さんのことめちゃくちゃ羨ましいですけどね。
関:お互いにないものねだりだね。
ーー関さんが個人ではなく、ディレクターチームを組まれている理由は?
関:僕みたいな人が近くにいて、なにかあったときに相談できる体制があるといいなと思ってチームを作りました。具体的に企画を確認するとかはほぼないですけど、たまにご飯に行くとかね。
ーーメンター的な立ち位置ですね。
関:そうそう。前の会社でも大ベテランの先輩がいらっしゃったんで、ある意味やんちゃできるなと思ってたんですよ。屋号に守られてるなと感じていて。いまの会社で僕の名前を前に出すようにしているのは、クライアントに“このディレクターが言うならやってみるか”と思ってもらえるから。技術やアイデアもオープンソースで、どんどん教えています。どう使うかはその人次第なので。
カンタ:関さんは「僕ってすごいでしょ」みたいな雰囲気がまったくないですよね。
関:僕も先輩方のアイデアの下に成り立ってるからね。かっこいいな、気持ちいいなと思ったものを取り入れてる部分があるから、自分の手柄だとは考えてないんです。 トリック的なアイデアをMVに取り入れた人なんて山ほどいるし、自分だけのアイデアではないから、僕はこうやったんだよって教えた方が、みんながそれぞれ時間をかけて調べるよりも効率的だと思っています。
カンタ:それは次の世代のクリエイターのために?
関:そうですね。少し話が脱線するけど、ダルビッシュ有さんが変化球について解説するYouTubeチャンネルがあるんですよ。なんでそんなことしてるかと言うと、動画を見たメジャーリーガーや日本のピッチャーが真似して投げられるようになると、今度その球を打とうとするバッターが出てくる。そうするとバッターのレベルが上がり、それを俺が抑えることで、俺のレベルが上がって、球界のレベルも上がるっていう理論らしいです。すごくない?
カンタ:訳わかんない(笑)。
関:訳わかんないよね。でも要はみんなのレベルを上げて自分が抑えることで、自分のレベルを上げるってことで。もしかしたらこの感覚に近いのかもしれない。みんなが面白い映像を作ってたら、俺はそれを超えなきゃいけないから。いま思うと、たくさんのMV監督さんがいるなかで、どうしたらこの人たちより面白いものが作れるかをとにかく考えてきました。カンタ君にも負けたくないからね。カンタ君が面白いものを作ったら、俺はそれを超えられるように頑張ろうという感じ。
“MVは大喜利” お題をいかに派生させるかが腕の見せどころ
カンタ:仕事の選び方にこだわりはありますか? こういう仕事はやらないとか、こういう風に見せたいとか。
関:ちょっとだけ自慢したいんだけど、この20数年のキャリアの中で、仕事を断ったことがないんですよ。スケジュールが合わなくてお断りしたことはあるけど、それ以外ではいままで一度もないです。
カンタ:たしかに、まだそこまでメジャーではない方のMVを撮られることもありますよね。どの角度からきても打ち返すことに美学があるんですか?
関:そうですね。僕に依頼が来た時点で、正統派じゃないんだろうなと勝手に思うんですよ。バンド系のアーティストが来たときに、普通に演奏シーンを撮ってもダメなんだろうなと。あえてバンドシーンを撮らない方が、普通と違うぶん、興味をもってもらえたりするのかなと。アーティストさんやレコード会社さんもそれを期待してくれているんだと思ってます。
そのイメージがついたのが、やっぱりPerfumeのMV。3人の女性がテクノポップに合わせて踊る、というコンセプトだけ聞くとキュートなものになりそうだけど、僕はその方向にいかなかった。もう少しクールに、普通のMVではやらないことをやりたかったから。その結果、代表作として名刺みたいになっていきました。
カンタ:監督自身の世界観を先に作って、アーティストにあてはめていくパターンもあると思うんですけど、関さんは毎回違うことをやってるから、すごい大変だなと思うんですよ。
関:企画の作り方の問題かもしれないですね。当然曲ありきで企画を作っていくけど、完全にオーダーメイドだから、その都度オリジナルで作ることは大事にしてます。
カンタ:いまの時代、SNSの影響もあって映像が身近になってますが、関さんはどう感じていますか? 僕は映像がジャンクになってる気がするんですよね。
関:映像だけで得られる情報はどうしても少なくて、音楽や音声がついてくるから、どこまでジャンクになっても、みんなが内容を見てる分、映像が希薄になったり、手軽になりすぎて価値がなくなるとはまったく思わないな。むしろいろんなことに映像が使われている面白さを感じてます。
カンタ:結構いろいろ見たりするんですか?
関:見ますよ。YouTubeショートとかね、ガンガン流れてきますもんね。
カンタ:ショート動画って、メイン動画とはまた別競技ですよね。前お会いしたときは、10〜20分の動画が主流だったけど、今は1分の短尺動画が強くて、コンテンツも20倍くらいに増えてるからもうなにが流行ってるかよくわかんない。
関:ショートに関しては、縦にスクロールする動作が流行ってるんだと思ってる。内容よりも、ポンポンポンと次々にタップしていく感覚が楽しいのかなって。
カンタ:MVの立ち位置も変わってきてる気がするんですよね。
関:僕、MVはあまり見ていなくて。自分で作ったもの以外は、昔からあまり見てないんだよね。
ーーあえて見ないようにしてるんですか?
関:MVを見てもそこにMVのアイデアはないので、違うものを見て、そこからMVに落とし込む方が企画として成立しますよね。かといって美術館に行ってるわけでもないんだけど。
カンタ:どうやってアイデアを生み出してるんですか?
関:本当にただただ好きなこと、やってみたいことをやってるだけです。これとこれを組み合わせたらどうなるんだろうとかね。あとはさっき言ったような消去法かな。たとえば「男が丘の上でリップシンクする」とかバーっと書いて、そういうMVは既にたくさんあるよな、と考えて消していく。
カンタ:普通かもしれないけど、丘でリップシンクするのも悪いアイデアじゃないですよね。
関:丘でリップでもいいんですよ。ただその場合どう撮ろうかと考えたときに、カメラをどんどん引いていったら実は周りに300人ぐらい人がいるとかしたくなっちゃう。
カンタ:なんで絶対にズラすんですか(笑)。
関:だってそっちの方が面白いじゃん。シンプルな理由です。もちろんMV制作のお作法はあるけど、僕としては新しいことや面白いことができる場だと思ってるから。好奇心や好きなものを集めれば、アイデアのきっかけになる気がしてますね。
あとはMV、映画、ドラマ、CMとなんにでも言えることですが、企画を1行でまとめられるかが大事だと思っています。たとえば「アルクアラウンド」なら、「男が文字を追いかけながら歩いてるビデオ」となる。あとはディテールとして文字がこういうふうに浮いていて、遠近法になってるからこうなって、始まりと終わりはこんな感じ、とかを付け足していくイメージ。
カンタ:最初にお会いしたときも、お話しされてましたね。
関:言ったかもしれないね。
カンタ:でもそれ以降、関さんの作品を見ても、こんなのどうやって思いつくんだろうって感じるものばっかりで、どういう企画書だったのか考えちゃいます。最近だとVaundyの「ホムンクルス」がすごかったですね。裏の努力が想像できないです、絶対大変でしたよね。
関:頑張りました。Vaundy君はアイデアがすごくたくさんある人なので、いかにそれを4分に落とし込むかという作業でした。
カンタ:アイデアを受け取るパターンもあるんですね。
関:彼から「最初は1人だったのが、最後には何百人になる」っていうアイデアをもらって。曲を聞いたり歌詞を読んだり、ヒロアカ(映画『僕のヒーローアカデミア THE MOVIE ユアネクスト』)の主題歌だからストーリーを確認したりして、構成を練っていきました。
「アルクアラウンド」では、アーティストから「歌詞がすごく大事な楽曲だから、文字を画面に出したい」と言われていました。でも普通に表示するとカラオケみたいになっちゃうし、ただ文字を置くだけじゃおもしろくない。タイトルには「Look Around(周りを見て回る)」の意味もあるから、文字を探しながら歩いて、最初は見えてない文字が見えてきたらどうなるんだろう、という好奇心からスタートしました。僕らの仕事は、楽曲というお題からどう派生していくかがすごく大事。アーティストが何を大事にしているか、この楽曲で何が重要かを考えないといけないんです。だから「何でもいいですよ」と言われると悩んじゃう。
カンタ:アーティストさんからの提案を受けて、バーッとアイデアを練るのも好きなんですかね?
関:その楽しさはあるね。「MVは大喜利だよね」って言った人がいて、なるほどと思ったな。このお題に対してこう返しました、みたいな。
カンタ:関さんが作ったMVのコメントを読むのもおもしろいんですよね。いろんな考察があって、なんとなくいい感じだね、では終わらないんですよ。要素がたくさん散りばめられているから、何度も見たくなるんです。