EA日本法人が残した完全オリジナル作品 “忍者なゼルダ”こと『少年鬼忍伝ツムジ』の追想

 実に35年以上の歴史を誇る任天堂のアクションアドベンチャーゲーム『ゼルダの伝説』。そんな『ゼルダの伝説』のなかでも、携帯ゲーム機「ニンテンドーDS」(DS)向けに展開されたシリーズ作品は、とりわけ大胆なチャレンジを試みたことで注目を集めた。

 それはプレイヤーキャラクターの移動、攻撃などのすべての動作をタッチペン1本で成立させるというもの。従来の十字キー+ボタンをメインとしない、「ペンアクションアドベンチャー」なるジャンルおよび操作系を提唱したのである。

 あまりに大胆すぎたため、従来の操作に愛着のあるプレイヤーほど拒否反応を覚えやすい側面もあったが、おかげで数ある『ゼルダの伝説』のなかでも、突き抜けた個性を持つ作品になったのは間違いないだろう。

 そんなDSの『ゼルダの伝説』は『夢幻の砂時計』(2007年)『大地の汽笛』(2009年)の計2作が発売された。同時にこの大胆な操作系に触発された一部のメーカーが、そのオマージュ作品を出すという展開もヒッソリ起きたりもした。

 ちょうど2025年2月25日で発売から15年を迎えた『少年鬼忍伝(しょうねんきにんでん)ツムジ』は、まさにDSの『ゼルダの伝説』に強く影響されたオマージュ作品のひとつであり、2025年のいまでは販売メーカーにとっても異質な存在でもある。

基本はほぼ『ゼルダの伝説』 しかし、忍者特有の遊びに着目したシステムと工夫が光る

 『少年鬼忍伝ツムジ』は、タイトルに冠された少年忍者「ツムジ」が主人公を務めるアクションアドベンチャーゲームだ。公式には「タッチアクションアドベンチャー」のジャンル名が付けられている。

 ストーリーは謎の忍者たちの襲撃で、石に変えられてしまった故郷「鬼隠れの里」の住民たちと母親の「ナナミ」を助けるため、ツムジと弟の「チヂミ」が「倭の国」と呼ばれる世界での冒険を繰り広げていくというもの。なお、チヂミは何者かによってホタルに姿を変えられたことから、兄ツムジのナビゲート役として同行する設定になっている。

 遊び方としては、ストーリーに沿って倭の国の各地を巡ってイベントをこなしたり、屋敷やお城といったダンジョンを探索していくというものとなる。つまるところ『ゼルダの伝説』と同じ。

 しかも、移動や攻撃などのアクションはすべてタッチペン1本で行う。十字キーとボタンはほとんど使用しない(※一部、アクションの補助として使う程度)。さらにダンジョンは、行く手を阻む仕掛けを解きつつ、ボスが待つ部屋を目指すという流れを軸に展開。ダンジョン以外のフィールドマップにも多くの秘密が隠されていて、そのなかには5つ集めるとツムジの最大体力を底上げさせる「短いロウソク」なるアイテムが用意されている。

 おそらく、この一例から「ゼルダじゃねえか!」と言いたくなったであろう。おっしゃる通りだ。しかも、操作がタッチペン特化な点で露骨にDSの『ゼルダの伝説』をオマージュしている。おまけにグラフィックもDSの『ゼルダの伝説』と同じ3DCGである。

 しかし、根幹たる遊びの方向性は少し異なる。とりわけ象徴とも言えるのが、主人公が忍者であることにちなんだ潜入要素。

 床下や屋根裏に忍び込んで、物音を立てず移動してターゲットの人物に近づいて会話を盗み聞き、重要な情報を集めることが随所で求められるのだ。情報はダンジョンなどに出現する人間の敵からも得られることがあり、その際には相手を倒さずそのままにし、気づかれないよう近くのツボに隠れるといったテクニックも試されてくる。
 
 もっとも、感知の判定は大ざっぱで、本格ステルスアクションと言えるほどのものではない。ただ、こうした忍者だからこそ様になる遊びが豊富に盛り込まれていて、それが本作の個性のひとつになっている。

 もうひとつの個性は、ツムジのメイン武器が巨大手裏剣「旋風鬼(せんぷうき)」と投石であること。近接攻撃を持たず、懐に入られると弱いという特徴を持つのだ。また旋風鬼に関しては、使うたび構える必要があるなど、手早く投げ飛ばせない制約がある。

 そのため、敵との戦闘では相手との距離を考えつつの立ち回りが基本になる。むしろ、それゆえに敵と戦わず逃げることも時々求められたりするのだ。この辺の塩梅も本作特有の個性を感じさせる部分のひとつとなる。

 ちなみに旋風鬼はタッチペンで投げる軌道を描いて、ペンを離すと投げ飛ばすという仕組みで、これはDSの『ゼルダの伝説』における「ブーメラン」と非常に似ている。メイン武器かどうかというのは違うが。

 ほかに(当たり前だが)世界観とストーリーは本作オリジナルで、おとぎ話のネタも含んだ時代劇が描かれる。このように見た目や仕組みは『ゼルダの伝説』まんまだが、味付けは異なり、忍者ならではの遊びとなりきり感を楽しめる作品に仕上げられている。

販売はEA日本法人。独自の取り組みによって生まれた作品だった?

 こうも基礎部分は『ゼルダの伝説』バリバリながら、忍者らしい遊びという個性を持ち合わせた本作。その題材、少年漫画っぽさのあるキャラクターデザインからは、いかにも日本で作られたゲームとのイメージが滲み出ている。

 事実、本作を作ったのは日本のメーカーだ。だが、販売を担ったメーカーは2025年のいまの視点で見ると、戸惑いを覚えるかもしれない会社となっている。

「エーペックスレジェンズ: テイクオーバー」ゲームプレイトレーラー

 本記事のサムネイルで明らかだが、その会社とはエレクトロニック・アーツ、通称「EA」。2025年現在は『Apex Legends(エーペックスレジェンズ)』の印象が強い、アメリカの大手ゲームメーカーだ。

 厳密には2010年当時に存在したEAの日本法人、エレクトロニック・アーツ株式会社が販売を担当。同社の完全オリジナルタイトルとして作られたゲームだった。

 当時のEAは、基本的には海外で作られたタイトルの日本語版を中心に展開していた。展開していたタイトルの一例としては、2025年現在もシリーズとして現役のFPS「バトルフィールド」と「メダルオブオナー」、「EA SPORTS」関連作(FC、NBAなど)、そして「ハリー・ポッター」「ロード オブ ザ リング」「スター・ウォーズ」「007」といった映画原作のゲームが挙げられる。

2000年代のEAより発売された映画『007』原作のゲームの一部

 だが、DS向けには、その傾向からちょっと外れた“日本らしい”タイトルも出していた。ひとつに『ソムリエDS』『酒匠DS』『バーテンダーDS』の「お酒選びの新ツールシリーズ」。2005年にDS向けに発売された脳活性化ソフト『脳を鍛える大人のDSトレーニング』の大ヒットを皮切りに、急速にその数を増やした非ゲーム系タイトルである。

 もうひとつが漫画雑誌『モーニング』に連載され、2005年には俳優・阿部寛主演でテレビドラマ化もされた『ドラゴン桜』を原作としたゲーム『ドラゴン桜DS』。国語・算数・理科・社会の多彩なカリキュラムに挑むという「ドラゴン桜式東大脳開発ソフト」だ。

引用元:https://www.nintendo.co.jp/ds/software/ar3j/index.html

 そのようなゲームを当時のEAはDS向けに展開していたのである。また、元は海外生まれながら、開発全般を日本国内のメーカー「シンソフィア」【※1】が担当したタイトルとして、『シムシティDS』と続編『シムシティDS2 ~古代から未来へ続くまち~』も存在する。

※1 「シンソフィア」:東京都武蔵野市吉祥寺に拠点を置くゲーム開発会社。代表作に『ひみつのアイプリ』『ファッションドリーマー』「GIRLS MODE」シリーズなど。2007年4月以前の社名は「アキ」。WEBサイト:https://www.syn-sophia.co.jp/

 特に2007年発売の『シムシティDS』は、発売間もなく品薄を起こすほどのヒットに。その3ヶ月後には、出荷本数が20万本に達したことをシンソフィアが公式WEBサイトのニュースページ(2025年現在は閉鎖)上で公表するという出来事もあった。

 ほかにDSほどではないが、2006年発売の任天堂の家庭用ゲーム機「Wii」向けにもEA日本法人主導の新作がいくつか出ている。『少年鬼忍伝ツムジ』は、そんなDS向けに日本らしさのあるタイトルを出していた下地があったからこそ生まれたタイトルだったと言えるだろう。

 実際に本作はオリジナル作品ということもあり、発売前には別冊「コロコロコミックスペシャル」(小学館)の2010年2月号と4月号で、漫画家の井上桃太氏【※2】による前後編の読み切り漫画を掲載するといったプロモーションも展開されていた。

※2 井上桃太:主に小学館「コロコロコミック」誌でゲーム原作のコミカライズ作品を多く手掛けている漫画家。代表作に『赤きエンザ』『パズドラZ』『カレコレ』など。

 ゲーム本編の開発にも『バイオハザード』『戦国BASARA』『デビル メイ クライ』といった、カプコン作品の開発サポートで多くの実績を持つ「ニューロン・エイジ」を起用。さらに音楽担当は『モンスターハンター』シリーズで知られる甲田雅人氏(デザインウェーブ)と、その布陣からも気合を入れて作られていたことを感じさせられる。

 しかし、話題性・知名度で勝る作品が発売日当時、DS向けにこぞって出た影響や、ターゲット層に送り届けるにはインパクトが欠けていたためか、埋もれることになった。そもそも本記事を通して、このゲームのことを初めて知った人も少なくないと思われる。強いて言うならば、DSの『ゼルダの伝説』とソックリなゲームとして、一部の購入ユーザーの間でほんの少し話題になった程度だったのである。

15年の時が経ち、『少年鬼忍伝ツムジ』の異質な存在感は日増しに高まり続けている

 そして本作以降、EA日本法人はオリジナル作品を出さなくなった。実はほかに『はち恋』なる、オリジナルの恋愛アドベンチャーゲームも2009年に発売が予定されていたのだが、最終的に中止となっている(‥…が、2012年にニューロン・エイジよりスマートフォン版が配信される形で陽の目を見た)。

 また、同じ時期には『Dragon Age: Origins(ドラゴンエイジ オリジンズ)』『Mass Effect(マス・エフェクト)』といった大作が出ているが、EA日本法人はそのローカライズおよび販売はせず、別会社が代わりに担うという、消極的と見られても仕方がない動きが見られた。

 EA日本法人のオフィスは2019年3月をもって閉鎖。その後、城山トラストタワー東京赤坂法律事務所内に新たな支社が立っているが、日本国内で発売されるEAのゲームは海外タイトルが主体となっている。2025年現在のEAは、多くのプレイヤーからすれば『エーペックスレジェンズ』のイメージが支配的といってもいいだろう。

 その影響から、『少年鬼忍伝ツムジ』の異質さがより極まっているのには、若干の皮肉を感じてしまう。それは『少年鬼忍伝ツムジ』に限らず、「お酒選びの新ツールシリーズ」といった他のEA日本法人から発売されたタイトルにも言えることである。

 そんな『少年鬼忍伝ツムジ』は、DSの『ゼルダの伝説』のオマージュ色強めながらも、忍者にちなんだ遊びと戦闘面などの工夫によって、独自の味を持った作品に仕上げられている。そして、純粋にひとつのアクションアドベンチャーゲームとしても完成度が高い。

 マップと仕掛けのバリエーションが多彩なことに加え、新たなアイテムの獲得によって行動範囲や戦術に幅が広がるなど、アクションアドベンチャーゲームとしてのツボが見事に押さえられているのだ。また、ダンジョンなどの謎解き全般の難易度も絶妙で、複雑すぎず、簡単すぎずのバランスが光る。誇張抜きにオマージュ元の『ゼルダの伝説』に肉薄するといってもいいほどである。
 
 とは言え、動きの素早い敵との戦闘が極端に難しかったり、滑車の仕掛けを動かしている際に操作が暴発して動きが止まりやすいなど、粗い部分も散見される。ストーリーも終盤は驚きの展開もあって見応え十分だが、節々で描写不足があるといった惜しい箇所がある。

 だが、オマージュ元をよく研究しつつ、独自の遊びとアクションアドベンチャーゲームとしての面白さを堅実に突き詰めた仕上がりは素晴らしい。「モンスターハンター」シリーズなどで知られる甲田雅人氏による、和風テイスト全開な音楽も耳に残る楽曲揃いで、サウンドトラックが発売されていないのがもったいないほどだ。

 DSの機能をフルに活用した作りの都合上、現行環境への復刻はかなり厳しいだろう。復刻するにしても1から作り直しになるのは避けられない。開発を担ったニューロン・エイジは2025年も健在だが、ゲームの作りが作りゆえ、実現のハードルは高そうである。

 これから遊ぶにしてもDS、もしくはニンテンドー3DSの実機に選択肢は限られる。だが、せめて本記事がDSの『ゼルダの伝説』に触発され、忍者特有の遊びを突き詰めたアクションアドベンチャーゲームがあったという記録になれば幸いである。
 
 最後に余談だが、同じくDSの『ゼルダの伝説』をオマージュしたアクションアドベンチャーゲームとしては、本作のほかに『エレビッツ カイとゼロの不思議な旅』なるタイトルもある。そちらも結構な良作なので、どこかで目にした時は遊んでみていただきたいところである(キャラクターデザインを漫画『メイドインアビス』で知られるつくしあきひと氏が担当していることから、人によっては「おや」を連呼してしまうかも……)。

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