早見沙織を形作る“あの日、あの一瞬”の10曲とは? 多様な音楽性を育んだルーツにも迫る

早見沙織を形作る10曲とは?

早見沙織のプレイリスト

1.Grover Washington, Jr., Bill Withers「Just the Two of Us」

 いつ出会ったのかはもはや覚えていないので、おそらく本当に幼少期から家で流れていた曲です。ただこのところ、改めてこの曲に触れる機会がありまして。

 というのも大学生の頃に、広い公園で開催されたいろんなお店が出店するフェスに行ったのですが、そこの楽器体験コーナーで、スティールパンの音をはじめて生で聴いて大好きになったんです。

 最近改めて、この曲の間奏部分でこの楽器が使われていることを認識して感動しました。とにかくそのパートが格好良いんです。この曲は、幼い頃のことも、晴れた公園に響くスティールパンの音も思い出させてくれる曲です。

2.Con Funk Shun「Chase Me」

 幼い頃から家でかかっていた洋楽は、基本的にただ受け身で聴いていただけなので「タイトルもアーティストも知らないけれど、音を聴くと知っている」という状態のものが多かったです。ですがこの曲は、たしか中学生ぐらいの時に家で流れているのを聴いて、なんだか格好良い、なんていう曲なんだろうって興味を持って親に質問したんです。当時はあまりないことだったので親の方も聞かれて少しうれしそうにしていたのを覚えています。その後大人になってからは来日公演の時に生で観に行ったりしたので思い出深い一曲です。

3.竹内まりや「プラスティック・ラブ」

 竹内まりやさんの音楽も、昔から耳にしておりました。この曲は、たくさんの名曲の中でもとにかくおしゃれで格好よくて、聴いているだけで少し背伸びをしたような気持ちになれます。アーティスト活動を始めてから、一度自分が出演した番組でカバーしたこともあるくらい好きな曲です。

 さらに奇跡的に、竹内まりやさんに楽曲提供していただく機会があり、そこから今に至るまでありがたいことにご縁があるのですが、まりやさんにお会いする収録の日が近づくと聴いて、気持ちを高めてくれた曲のうちのひとつです。

4. ヴォルフガング・アマデウス・モーツァルト「Mass in C, K. 317 "Coronation”」

 学生時代、全校生徒で練習して歌っていた合唱曲のひとつです。女子校だったのですが、アルト、メゾ、ソプラノなどパートに分かれて猛練習して、いざ一堂に会して歌ったときの響きの美しさは言葉にできないほどで、講堂に響く歌声は今でも記憶に残っています。モーツァルトの戴冠ミサ曲のなかでは、雰囲気が好きだった「アニュス・デイ」と合わせて、いまだにふとしたとき聴きたくなる一曲です。この「Gloria」は、明るい響きで始まり、途中で少し暗い響きのパートが挟まるんですね。学生時代の私はそこが大好きで。暗いパートを、最高に気合いを入れて歌っていたのを覚えています。

5.クロード・ドビュッシー「Debussy: Suite bergamasque, CD 82, L. 75: I. Prélude」

 幼稚園の頃からピアノを習い始めたのですが、最初は弾ける曲も少なかったので、そんなに熱心ではなかったんですね。ただ、中学生の時にドビュッシーの音楽と出会い、この美しい曲たちを弾いてみたいと思って練習するようになり、弾けるようになったらよりピアノが好きになって…と、ピアノとの向き合い方が変わりました。そんななかレンタルショップでドビュッシー楽曲集のCDを借りてMDに焼いて、毎朝目覚ましがわりに流していたんです。これはその一曲目に入れていた曲で、この曲を聴くと、個人的には朝が来たなあと感じます。華やかできらきらしていて、すっきりした気持ちになる一曲です。

6. the GazettE「D.L.N」

 学生時代、浸り込むようにたくさん聴いた音楽のひとつ。もともとこの曲が入っている「NIL」というアルバムをリピートしていました。今回のプレイリストに入っているのは「TRACES VOL.2」の中に収録されている再録版。こちらには、曲のラストに原曲にはない歌のフレーズが追加されています。昔ライブでこの曲を聴いたときに、当時はまだ音源化されていなかったこのパートが歌われていて、強く印象に残っていたんです。何年も経って、このバージョンがリリースされたのを知って、学生の頃の記憶がぶわっと押し寄せました。このアルバムには入っていないですが、「春雪の頃」という曲も学生時代の三月の景色が浮かんできます。

7.土岐麻子「さよなら 90s Girl」

 90s Girlはもちろん、年齢を重ねたすべての人に沁みる曲だと思います。

 歌詞の中に「松見坂の霧をすべってくタクシー」というフレーズが出てくるのですが、ある日仕事に向かうタクシーの中でこの曲を聴いていてふと窓の外をみたら、ちょうど松見坂の交差点にいたんです。驚きました。そのあとの歌詞が、自分の過去を振り返るような内容で、それが「違う未来を生きているけどいまを愛してる」に繋がっていくんですね。やさしく前を向く力をくれるこの曲は、自分の心の大切な箱に入れているような音楽です。そしてこの曲を聴くと、不思議なシンクロが起きたあの日を思い出します。

8. 東京事変「心」

 学生時代から聴いていた東京事変さんの音楽ですが、この「心」は発売された当初よりも大人になってから聴く方が、自分の中に響くなあと感じる曲です。

 〈心と云う毎日聞いているものの所在だって 私は全く知らない儘大人になってしまったんだ〉という、頭と終わりにでてくるフレーズからハッとしますし途中の〈私は何度堕ちたとして 生きることを選んだんだって〉もぐっとひきこまれます。そして言葉の後ろで流れる軽やかなピアノの美しさと格好良さたるや。いつのことかは朧げですが、冬の冷たい空気の中、ひとけの少ない通りで聴いていた記憶があって、それが蘇ります。

9.ヒプノシスマイク「RISE FROM DEAD」

 作品はもちろん知っておりましたが、お仕事で関わらせていただいたことをきっかけに、楽曲にも触れるようになり、最近色々聴いているうちの一曲です。現場と現場の移動中に聴くと楽しい気持ちになるのでリピートしています。大人数での歌唱曲なのでサビにいくまでのパートが長めなのですが、バックの音楽やリズムがくるくると変化して、伴ってメロディの置き方も変わっていくので、すごいなと思います。それを積み重ねて、サビで一気に解放するような雰囲気になるのも良くて。スタジオに入る直前にこのパートが流れていると、いつもより元気に入っていける気がします。

10.Tora「Be The Way You Are」

 2024年の新譜…なので、まさに今の自分の日常に居てくれる音楽です。浮遊するような独特の空気感が好きなTora。この曲はリズムも気持ちよくて落ち着きます。日々がせわしなくてもふっと息をつかせてくれる、癒しと心地よさに包まれる瞬間をもらっています。この前には「Inundated」をリピートし、もっと前には「Love Life」や「Blame」をリピートし…と、定期的に波がきています。

ーー改めて、今回のプレイリストはどんな人に聴いてほしいですか?

早見:正直に申し上げますと、今回のプレイリストを作るなかでの裏タイトルは「通しで聴くのに適しません」でして……。ジャンルもテイストもバラバラですので、情緒が…となると思います。もちろん、ひとつのジャンルやテーマに沿ったプレイリストも考えました。ただ、一人の人間の人生のなかに、多様な音楽が散りばめられていたことを、目の当たりならぬ耳当たりにしていただくことで、リスナーさんの人生の音楽体験を振り返るきっかけになれば……そんな思いでおります。

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