ゲームの元ネタを巡る旅 第16回

光と闇の対立――「FF」や「ダークソウル」の下地になった啓示宗教・ゾロアスター教を学ぶ

 多種多様な販売形態の登場により、構造や文脈が複雑化し、より多くのユーザーを楽しませるようになってきたデジタルゲーム。本連載では、そんなゲームの下地になった作品・伝承・神話・出来事などを追いかけ、多角的な視点からゲームを掘り下げようという企画だ。

 企画の性質上、ゲームのストーリーや設定に関するネタバレが登場する可能性があるので、その点はご了承願いたい。

 第16回は「ファイナルファンタジー」シリーズや「ダークソウル」シリーズといったRPGの下地になっている宗教「ゾロアスター教」について調べてみた。

ゾロアスター教の始まり

 時代は紀元前12世紀から9世紀頃。中央アジア~イラン高原東部に定住していたインド・ヨーロッパ語族の一派である古代アーリア人は、牧畜を基盤としつつ、移動生活を営んでいた。彼らはすでに豊かな自然を崇拝する原始宗教を持っていたが、途中で分派し、インド方面へと向かった一派がバラモン教とヒンドゥー教の下地を作り、イラン方面へと向かった一派がゾロアスター教を始めることになった。

聖火台(イラン)

 ゾロアスター教の開祖はザラスシュトラ・スピターマ。ニーチェの著作『ツァラトゥストラかく語りき』は彼の名をドイツ語読みしたものである。ザラスシュトラは神官一族の息子として生まれたが、20歳のときに自分の家系が信じている原始宗教を否定し、出奔。あちこちの部族を渡り歩きながら、最終的にナオタラ族に拾われる。そこで彼は神からの啓示を受け、ゾロアスター教を開いた。

ゾロアスター教とは何か

 ゾロアスター教のユニークな点は、光と闇が対立しているという「善悪二元論」だろう。経典である『アベスターグ』によると、善の最高神アフラ・マズダと、悪の最高神アンラ・マンユが、霊的な世界であるメーノーク界で争っていたが、次第に我々が住むこの物質界ゲーティーグ界に渡ってきて、そこで戦闘を続ける。最終的に善神が勝利することによって、不完全な物質界が霊的な世界に統合され、世界が完全なものになるというのだ。

アフラマズダー神(右)から王権の象徴を授与されるアルダシール1世(左)のレリーフ(ナクシェ・ロスタム)

 ちなみに自動車メーカーのマツダは、もともと東洋工業株式会社という社名だったが、1984年に現在の名前に変更した。創業者である松田重次郎の名前から取られているが、英語表記はMazdaで、アフラ・マズダを意識したダブルミーニングになっている。

マツダ|2022年冬-MAZDA DICTIONARY|デジタルマガジン:https://www.mazda.co.jp/experience/stories/2022winter/featured/01/

 これらの二元論は神々だけでなく、生活にも根差しており、犬は善なる動物であるために崇拝されている一方で、蛇やカエルは秩序を乱す生き物だから殺してもよいとされている。

 その他にも、ゾロアスター教では火が神聖視されており、ゆえに日本語では拝火教とも呼ばれている。現在でもイラン中央部ヤズドにある寺院アータシュキャデで、ザラスシュトラが灯したとされている“原初の火”を見ることができる。

 また、ゾロアスター教では、遺体を沈黙の塔という施設に安置してハゲタカに食わせる曝葬(鳥葬)が一般的だったのだが、それは彼らの死生観が関係している。個人の死は善なる生命が悪との戦いに敗北した結果であると捉え、神聖なる火(太陽光)によって肉体を浄化し、天へと送るという意義があるのだ。

ヤズド(イラン)沈黙の塔

ゾロアスター教がゲームに与えた影響

 ここまで書けば、ある程度のゲーマーであれば、いかにビデオゲーム(特にRPG)にゾロアスター教が輸入されているかがよくわかることだろう。筆者の思いつく限りで、いくつかピックアップしておこう。

「ファイナルファンタジー」シリーズ

 1987年発売の一作目から、善と悪の戦いを壮大なスケールで表現しているRPG。これら作中世界の神話体系を下地にしつつ、ドラマ自体のプロットは、敵サイドの帝国側を悪、主人公サイドを善として、ジョージ・ルーカスの映画「スターウォーズ」を意識しながら進行していく。

 なお、アンラ・マンユが中ボスとして登場する一方で、アフラ・マズダは技名として出てきたりと、借用の仕方がそこそこアバウトなのもポイントである。

「ダークソウル」シリーズ

 人間の時代と神々の時代を区分するものとして“原初の火”が登場するが、ファイナルファンタジーなどに比べると、純粋な善と悪との対立という善悪二元論は拾わず、火が秩序の象徴であるという宇宙観をベースにしているように見える。ときに冥婚(死者との結婚)や量子力学、クトゥルフ神話など、RPGでは少し珍しい要素を借りてくるところにミソがあるシリーズである。

「女神転生」シリーズ

 ありとあらゆる神話上の存在を「悪魔」として構築し直している。インプのようなメジャーかつ弱いイメージを持つ悪魔から、アンリ・マンユ(アンラ・マンユのこと)のような悪の最高神まで幅広く「仲魔」にできてしまうという発想は、ある意味では日本人らしいとも言えるかもしれない。

『真・女神転生V Vengeance』PV03

 以上、ゾロアスター教がゲームに与えた影響を調べてみた。数千年以上前から考えられていた世界観が、こうして現代の創作物に影響を与えているというのは、なかなかロマンのあることではないだろうか。

参考文献:
青木健著『ゾロアスター教』(講談社選書メチエ 408・2008年)

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