現実から仮想まで。建築家・水谷元と巡る建築探訪記 【第4回】

『ドラゴンクエストX』好きの建築家が「風の町アズラン」の集落と建築について本気で考察してみた

 現実、仮想を問わず建造物という存在は空間を構成する大きな要素となっている。例えば現実における「駅」や「ビル」はランドマークともなり、そこを起点とした人々の営みなども生じ、都市空間を彩ってくれる。ゲームやアニメ、映画でも建築物がストーリーを語る上で、あるいはプレイヤーが没入するのになくてはならない要素となる。現役建築家が現実、仮想の建造物や都市空間について語っていく本連載。今回も『ドラゴンクエストX』の建築物や世界を解き明かしていこう。

 今回は五種族の中の「エルフ」が暮らす「エルトナ大陸」に位置する「風の町アズラン」をご紹介する。「風の町アズラン」は主人公の種族にエルフを選んだ場合にエルトナ大陸の中で2番目に訪れる町である。

 東側には大陸横断鉄道の駅と町の出入口である門、西側に領主の屋敷、北側の町外れには住宅村、南、西、北側にかけて山に囲まれ、大陸間鉄道の高架が城郭の役割を果たしており、モンスターなどの侵攻から身を守ることができる。町の中心を流れる川の配置から、水が豊かなこの場所に町を築いたのかもしれない。

 町の中心には温泉の湧く宿屋がある。宿屋に入り、すぐ目の前に配置された階段を降りると入浴の受付がある。左は女子、右は男子。どんなにかわいいプクリポの男子でも、当然、女子の入浴場に入ることは番台のエルフのおばさんに断られてしまう。

 脱衣所に入ると『あらくれマスク』をかぶったおじさんが棚の前に立っていて怖い。入室がためらわれる。リアル世界の銭湯なら覆面の人は入浴禁止のはずなので、常連なのだろう。正面に見える壺は、おそらく入浴前後用の飲料水が入っているのだろう。

 洗い場の面積がやたら広いのが気になるが、浴場はとても広い。木製の土台の下には石を貼った立ち上がりがあり、水掛かりに配慮されている。とはいえ、リアル世界では床から1mくらいまで防水、タイルや石などで仕上げするのが常識である。そもそも浴室全体が木製なので、木材豊富なアズラン地方ということから、水に強く、腐りにくい針葉樹の樹脂の豊富な赤みの部分を使用し、定期的なメンテナンスが行われているのかもしれない。それにしても現代的なシャワー水栓である。

 温泉から上がり、宿の客室に行ってみよう。日本人には馴染み深い真壁(柱や梁などの軸組を見せた造り)の和室である。壁は土壁に漆喰だろうか。畳みは張り替えがこまめにおこなわれているのか、い草(とも限らないかもしれないが)の緑が美しい。いい香りがしそうでリラックスできそうだ。布団やちゃぶ台の下にはラグが敷かれており、畳みが痛まないように配慮されている。

 民家にも訪れてみよう。アズラン地方はかなり大きな部材が採れるようだ。四隅の柱、柱から伸びる屋根の破風まで細かく彫刻された部材が使われている。風の町だから羽を模した破風なのだろうか。屋根の装飾にはリアル世界の神社でもよく見かけるX状に組んだ「千木」が設けられている。赤い部分の屋根材は鋼板だろうか……どの民家も同じ造りでかなり豪華である。

 内部に入ると日本の古民家に見られる造りと同じである。外観の印象からすると、内部は随分と素朴である。石でしっかりと足場が作られたカマドのある土間、居間は幅広の板材である。日本人には馴染み深い畳みだが、本来は武家屋敷などの身分の高い屋敷にしか使われていなかったので妙にリアルである。リアル世界において畳みが一般住宅に普及したのは中間層の増えた戦後である。

 天井を見てみよう。……なに張りだろう……テクスチャを見る限り、針葉樹の木肌葺きに見えるけど……わからん。カマドのある古民家では、煙で茅葺の屋根を燻して耐久性を向上させると言われているが、外観では鋼板葺きのように見えたし、そもそも煙はどう処理するのだろう。

 領主の屋敷に足を運んでみる。入り口には鳥居のような門がある。鳥居は神の通り道なのでおそらく鳥居ではないだろう。アズランの町には灯篭が並んでいるが、魔法で火を灯すのだろうか。もし、町の人がひとつひとつ灯しているのならば、なかなか風情のある風景だろう。

 領主の家は見晴らしの良い丘の上に建っている。張り出した物見台(?)を支えるのは、リアル世界の清水寺の舞台を支える「懸造り(かけづくり)」である。

 なんということだ……湿度が高く、雨も降るエルトナ大陸なのに、木製の柱が地面に直に建っている。もしかすると、地面と固定するために杭のように地盤の奥深くまで柱が差し込んであるかもしれない。だとしても、腐食が心配である。すでに柱の根元には苔がむしているではないか。メンテンスはどうなっているのだろう? 領主に問いたい。

 領主の敷地内では、アズランの町の至る所で見かける『カムシカ』が大事に育てられている。カムシカは風の化身として大事にされ、アズラン地方の伝統儀式『風送りの儀』でも重要な役割を担っている。

 領主の屋敷はさすがに豪華である。屋根は二重構造で民家に見られた羽を模した破風も二重になっている。通常、外観からこのような形式が読み取れると内部まで構成が反映されているのだが、内部は十字形の中廊下形式で普通である。柱は朱色に塗装されていて、リアル世界では魔除けの効果があると言われている。もちろん、木の表面に塗装することは害虫や風雨からの木材の保護にもなる。

 玄関や内部は装飾が施されていて流石に豪華である。細かい木彫や金物、色鮮やかな染物で装飾されている。豪華な色彩は和というより、どちらかというと中華を思わせる。

 写真の奥に見えるのは領主だが、随分控えめな場所に立っている。左に見える一番高い場所は客人謁見の際にしか使用しないかもしれない。

 先ほど領主の屋敷の外から確認できた懸造りの物見台の上からは、町の様子が一望できる。手前に見える太鼓だが『風送りの儀』では使っていなかったような......。

© ARMOR PROJECT/BIRD STUDIO/SQUARE ENIX

【第4回】『ドラゴンクエストX』好きの建築家が「ガートラント城下町」の集落と建築について本気で考察してみた

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