現代に蘇るサイコロジカルホラーの金字塔 遊びやすくも恐ろしい『SILENT HILL 2』世界最速試遊会レポート

 8月8日、esports 銀座 studioにて「『SILENT HILL 2』Tokyo Media Premiere」(SH2 Tokyo Media Premiere)が開かれた。

『SILENT HILL 2』Tokyo Media Premiere 会場の様子

 本イベントでは、KONAMIが手掛けるサイコロジカルホラーゲーム「SILENT HILL」シリーズの最新作『SILENT HILL 2』の”世界最速試遊体験会”が行われた。当日はシリーズプロデューサーを務める岡本基氏をはじめ、作曲家の山岡晃氏、コンセプトアーティストの伊藤暢達氏、さらに海外の開発チームであるBloober TeamからMateusz Lenart氏(クリエイティブディレクター)とMaciej Gtomb氏(リードプロデューサー)など、リメイク版『SILENT HILL 2』を作り上げたクリエイターが登壇。オリジナル版の発売から23年を経て復活を遂げた本作の開発秘話を含め、体験会に集まった取材陣に向けてさまざまなトークを繰り広げた。

『SILENT HILL 2』Tokyo Media Premiereに登壇した開発メンバー

 本稿では筆者の所感や開発陣の証言を交えつつ、『SILENT HILL 2』序盤の試遊レポートをお届けする。

オリジナル版のテイストは変わらず、新たな価値を付与された『SILENT HILL 2』

 人間の心の闇や葛藤を題材にしたサイコロジカルホラー「SILENT HILL」シリーズ。そのシリーズ2作目となる『SILENT HILL 2』は、2001年9月27日にプレイステーション2(PS2)用ソフトとして発売された。20年以上の時間をかけてリメイクを果たした本作だが、SH2 Tokyo Media Premiereに登壇した開発者によれば、「オリジナル版をそのまま踏襲するのはそこまで難しくない。ただ当時のコア体験は変えず、それでいて新しい価値や意義を見出したかった」とのことである。

 この言葉どおり、『SILENT HILL 2』はオリジナル版が体現していたテイストを内包しつつも、演出面やゲームシステム周りで進化を遂げ、「SILENT HILL」シリーズファンや新規ユーザーの前にあらためて姿を見せる運びとなった。

©Konami Digital Entertainment

 現代に蘇った『SILENT HILL2』はリメイク作品ということもあり、大まかなストーリーライン等はオリジナル版からほぼ相違ない。しかし現代向けに各種要素が調整されているほか、グラフィックやサウンド面が大幅にパワーアップしている……というのが本作のセールスポイントだ。とりわけ今回の試遊で目立ったのは、肩越し視点がもたらす新たなプレイフィールと緊迫感あふれる戦闘システム。この2点の詳細は後ほど記載するとして、まずはプレイヤーをサイレントヒルへと誘う本作の冒頭パートを見ていこう。

 『SILENT HILL 2』で主役を務めるのは、少しやつれた風貌が特徴的な白人男性「ジェイムス・サンダーランド」(ジェイムス)。彼は3年前に亡くなったはずの最愛の妻「メアリー」からなぜか手紙が届いたことをきっかけに、2人の思い出の地・サイレントヒルへ足を踏み入れることになる。

©Konami Digital Entertainment

 サイレントヒルの中心部から離れた駐車場に車を停め、道なりに歩き続けるジェイムス。物悲しい空気が一面に漂う墓地や牧場を通り抜けると、人の気配が感じられない寂れた市街地が眼前に現れる。街は全体が霧に覆われており、数m先の視界も満足に確保できない。見るからに尋常ではない状況下だが、ジェイムスはさらに街中でなんとも形容しがたい異形のクリーチャーと遭遇。身を守る一心で撃退するも、亡き妻の面影を探す彼の旅路はより陰鬱さを増していく。

 以上が、リメイク版の試遊プレイで筆者が体験した序盤の導入パートだ。基本的な流れは、「フィールド探索」→「先へ進むための謎解き要素を発見」→「謎を解くための手がかりを入手」→「手がかりをもとに謎解き」→「さらにフィールドを探索」……となる。もちろん、道中でなにも起こらないわけはない。サイレントヒルではそこかしこに不気味なクリーチャーがうごめいているため、ジェイムスは常に命の危機にさらされていると言っても過言ではなく、そのたびにクリーチャーをかわしながら探索を続けるか、それともリソースを使って立ち向かうかという選択に迫られるのだ。

醍醐味となる探索要素は健在。新規プレイヤーを助けるガイド機能も実装

 続いて探索面を掘り下げてみよう。オリジナル版でもそうであったように、本作では無人となったレストランやバーに入り、机の引き出しや戸棚を開けて中をくまなくチェックする。その際に情報が書かれたメモ等をはじめ、なにかに使えそうなアイテム類は入手しておき、進行を阻むギミックの解除に役立てられないかを検討しつつ、また別の場所へと足を運ぶ。試遊で体験したストーリー序盤を例に挙げると、市街地を探索中に手に入る割れたレコード盤と接着剤を組み合わせ、一枚のレコードとして完成させるパズル要素が見受けられた。

 そのほか、廃墟となったアパート内部で数種類のコインを集め、特定のオブジェクトにはめ込むという仕掛けも存在する。このように探索を基本的なゲームフローに組み込んでいる本作だが、ジェイムスは新たな手がかりを発見すると、自発的に手持ちの地図へマークを記入する。このマークを目安にすれば、次の目的地が自ずと見えてくるため、プレイ中に大変役立った。

©Konami Digital Entertainment

 くわえて本作では、フィールド内の怪しい箇所の近くに、白い布が意図的に添えられている場合がある。この布は「ここになにかある」という、いわば先へ進むべき場所を示すメッセージというわけだ。探索を重要視する作品においては、ゲーム側からヒントを提示され過ぎると、かえって興ざめしてしまう……というプレイヤーも少なくない。そうした悩みに対し、リメイク版はさり気なく、ゲームに極力溶け込む形でプレイヤーをナビゲートする方式を採用している。目立たないかもしれないが、開発陣の技巧がきらりと光るポイントと言えるだろう。

 なお、謎解きやアクション(戦闘)の難易度はプレイヤー側で自由に変更できる。「アクションは自信があるけど、謎解きは不安」といった場合など、それぞれのニーズに合わせて変えることが可能だ(パズル難易度はゲーム進行中に変更不可能)。

©Konami Digital Entertainment

 オリジナル版でもサイレントヒルが醸し出す寂しげな空気、そして街を包み込む狂気は十分に表現されていたように思う。一方、今回のリメイク版は登場キャラクター、クリーチャー、舞台となるサイレントヒルにいたるまで、あらゆるグラフィックが4Kで描き直されている。PS2時代の3Dモデルもいま振り返ると味わい深いものがあるが、リメイク版は臨場感がより高まったと見て間違いないだろう。

 印象的なシーンで流れる楽曲を含め、プレイヤーの恐怖心を掻き立てる異音やクリーチャーの叫声など、サウンド面も本作の魅力を引き立てるファクターとして十二分に機能している。作曲を手掛けた山岡氏によると、リメイク版の制作にあたっては「23年前の楽曲をすべて書き直した」とのこと。オリジナル版のオープニングでも使われ、「SILENT HILL」シリーズの代表曲と言っても過言ではない「Theme of Laura」をはじめ、約9時間分のゲーム内楽曲が作り直された模様だ。シリーズファンならなおのこと、当時の記憶を辿りつつリメイク版の収録楽曲を鑑賞する……といった楽しみ方もできるのではないだろうか。

肩越し視点と見直された戦闘システムがもたらす、新たなプレイ体験

 フィールドを歩き回りながら調査を進め、時には知恵と力を振り絞って脅威を退ける。リメイク版『SILENT HILL 2』は探索に重きを置いたサイコロジカルホラーとしての本質をオリジナル版から踏襲しつつ、ファンにはおなじみのクリーチャー「ライングフィギュア」と遭遇するタイミング等、ゲーム進行にあたっていくらかテンポ感が良くなっていたように思う。早い話、展開に緩急がついて遊びやすくなったわけだ。

 こうしたプレイフィールに関して、本作の開発を担ったBloober Teamのスタッフ陣は、「オリジナル版に対してのリスペクトを掲げると共に、ゲームプレイ全体のレベルデザインやあらゆる要素を煮詰め直した」とコメント。“変えるべき部分と変えない部分”を徹底的に考え、最終的にいまの形に落ち着いたと見られる。

©Konami Digital Entertainment

 そうした開発陣による試行錯誤の最たる例とも言えるのが、オリジナル版から大きく変更されたカメラ視点だ。23年前の時点では上からジェイムスを見下ろすような形、いわゆるトップビューに近い視点だったが、リメイク版では後方からジェイムスを捉える肩越し視点を採用。オリジナル版はジェイムスとプレイヤーが見えている世界(視点)に違いが生じていたものの、本作からはプレイヤーとジェイムスがほぼ同じ目線を共有することになった。この変更は探索要素だけでなく、作中で何度も相まみえるクリーチャーとの戦闘においても変化をもたらしている。

 ここからは、リメイク版において変更が顕著に目立った戦闘(コンバット)システムについて言及したい。オリジナル版とリメイク版とで変わらず、本作では序盤から終盤にいたるまで、異形の怪物がサイレントヒルに出没し、ジェイムス(を操作するプレイヤー)の脅威として立ちはだかる。ゆえに、ゲームを進めていくうえでクリーチャーとの戦闘が何度も行われるというわけだ。

 オリジナル版はジェイムスの攻撃手段(特に打撃と踏みつけ)が強力で、一方的にクリーチャーにダメージを与える方法も存在したりと、戦闘に関して物足りなさを感じるプレイヤーも一定数いたと思われる。しかし、リメイク版ではクリーチャーとの戦闘まわりが大幅に見直された結果、これまで以上に緊迫感あふれるものとなった。

©Konami Digital Entertainment

 試遊で筆者が確認できた武器は、鉄釘が刺さった「角材」と「ハンドガン」の2つ。オリジナル版だと角材によるゴリ押しが容易に通用する場面もあったが、リメイク版の戦闘は単調な連打だけだと不要なダメージをくらってしまう。この仕様変更は、序盤でジェイムスが遭遇する人型クリーチャー「ライングフィギュア」戦においても例外ではない。

 ジェイムスは格闘技に精通しているわけでもなく、ごく普通の社会人である。それゆえ、身のこなしは年相応で動作もやや重たさを感じる。対するライングフィギュアはゴムに覆われたような不気味な怪物だが、ジェイムスが近づくと身体を揺すり、殴打や毒液の噴射で攻撃を仕掛けてくる。こちらから殴ると身を仰け反らせるものの、ジェイムスのスキを突いて反撃を狙ってくることも少なくない。だからこそ単調なボタン連打ではなく、攻撃→回避→攻撃……とクリーチャーの出方を伺うことが大事になる(素早く身をかわすためのクイック回避も実装されている)。

 ハンドガンは離れた距離から一方的に攻撃できる便利な道具だが、弾の入手手段は限られている。またプレイヤーの力量にもよるが、弾が対象に必ず命中するとも言えないし、複数のクリーチャーに囲まれた場合、射撃中の態勢を狙って奇襲される危険もある。試遊プレイの段階ではあるものの、「すべてのクリーチャーと戦うより、リソースを考えて戦うべきクリーチャーとだけ戦闘した方が良いのでは?」と筆者は判断した。

 オリジナル版を遊んだことがあるユーザーからしてみると、上で述べたカメラ視点や戦闘システムの変更は思うところがあるかもしれない。ただし、「これぞ静岡(SILENT HILLの愛称)だ!」と言えるオリジナル版のテイストは残しつつ、リメイクにあたってゲームデザインを現代向けに再定義したという開発陣の熱意、その一端は今回の試遊で確かに感じることができた。

 リメイク版も引き続きコンセプトアーティストを請け負った伊藤氏は、「SH2 Tokyo Media Premiere」のトークパートにて、「最終的な個人目標は、未体験プレイヤーにオリジナル版のテイストを味わってもらうこと」だと語った。この言葉はPS2版の開発に携わったオリジナルメンバー、そして「SILENT HILL」シリーズを愛して止まないBloober Teamの面々を含め、紆余曲折を経てリメイク版を完成させた“スタッフ陣の揺るぎなき総意”であると取材を通じて実感した次第だ。

 「SILENT HILL」シリーズにまったく触れたことがない新世代ゲーマーも多い昨今、23年の歳月を経たリメイク版はどのようなムーブメントを巻き起こすのか。KONAMIがおくるサイコロジカルホラー『SILENT HILL 2』は、プレイステーション5/PC向けに2024年10月8日に発売予定だ。

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