アニメーション作家・山村浩二が監督するVR作品『耳に棲むもの』 原作・小川洋子とVRの親和性

山村浩二×石丸健二『耳に棲むもの』対談

まず主要キャラを紙粘土で造形 実写で役者の演技を参考に

--作品の制作過程についてもお聞かせください。制作はいつ頃から、どれくらいの時間をかけておこなわれましたか? また、どのような工程で制作されたのでしょうか。

石丸:初めに山村さんにプロットを読んで頂いたのは、2021年の4月くらいでした。実際に完成したのは2023年の5月末でしたので、大体2年半くらいかかった計算になります。

山村:ワークフローに関しては、VRの作品ごとに違うんだろうなと、作りながら実感していました。今回も、ラボのスタッフたちのお力を借りながら制作していきましたが、手探りの部分も大きかったんじゃないかなと思います。

 いろんなVR作品を見て、どのように小川さんのプロットをVRにするかを考えた時に、平面(2D)のアニメーションで作る可能性も最初の段階ではあったと思うんですが、僕としてはやはり「3Dに挑戦してみたい」という思いが強くありました。

ーーそのように思われたきっかけがあったのでしょうか。

山村:それはやっぱり、擬似的な立体空間の中で、広大な奥行きではなく、手元に近いところの小さな立体感を感じた瞬間であるとか、そういうところがVRの体験として面白かったことですね。3D映画などと異なる、VRだからこその体験をとても面白く感じて、どうしても平面だと描き割り的な表現になってしまうので、「どうせ初めて挑戦するなら、3Dもやってみたい」と。

 その上で、3Dのプロットをどうアニメーションにしていくかという試行錯誤を始めとして、色々なプロセスを踏んでいくことになりました。今回でいうと、絵でデザイン画を起こしてイメージを作っていくところから始まっていますが、いわゆる三面図だけでは伝わらないと思っていました。

『キップリングJr.』(1995年)

 そこで、イメージを立体でも伝えることにしたんです。粘土や立体のアニメーションも作ったことがあったので、キャラクターのイメージを3Dモデラーの方に伝えるために、主要キャラクターの人形を紙粘土で作りました。

 また、小川さんのプロットからテキストの部分をなるべく活かしていこうという方針を決め、全体にナレーションが入る構成にしました。そこでまずナレーションの録音をした上で、全体の流れを作っていき、それに沿ってアニメーションの演技をつけるのに、どのようにアニメーターに指示を出すのか難しいところがあって。今回、モーションキャプチャーは使っていないのですが、ナレーションに合わせて役者さんがどのように動いて演技をするか、実写でサンプル映像を撮影する流れになっていました。

 僕としては今回、デザインを主に担当したのと、声の演出、サンプル映像の役者さんへの演出という感じで、アニメーションの演出というよりは実写の演出をしている感覚が大きかったです。もちろんアニメーションが上がってきた時は監修がたくさんあったんですが、大体のワークフローとしてはそんな感じです。

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