歌広場淳のフルコンボでGO!!!
「豪鬼と『女々しくて』はどこか似ている」 歌広場淳が『EVO Japan 2024』の熱戦を見守って思ったこと
大のゲームフリークとして知られ、ゲーマーからの信頼も厚いゴールデンボンバー・歌広場淳による連載「歌広場淳のフルコンボでGO!!!」。今回は、4月27~29日に東京・有明GYM-EXにて開催された格闘ゲーム大会『EVO Japan 2024』の模様を振り返る。
今回、選手としての参加は叶わなかった歌広場淳だが、大会2日目、3日目と現地に赴き、会場内の熱気を全身で体感してきたとのこと。現地に足を運び、熱戦を見守った者ならではの視点でその様子を語ってもらうと、話題は自身の愛するミュージカル映画についてや、“豪鬼(※1)と『女々しくて』の意外な相似性”にまで及んだ。
※1……『ストリートファイター』シリーズのキャラクター。最新作『ストリートファイター6』では、発売1年目のシーズンの最後に追加実装された。「己が拳を極めんため、殺意の波動を身に宿し闘い続ける修羅(公式サイトのキャラクター紹介文より)」。
大会2日目とは思えない盛り上がりぶりに驚愕!
『EVO Japan 2024』は3日間にわたって行われた格闘ゲーム大会ですが、メイン種目として選ばれたゲームタイトルに選手として出場する場合、初日は絶対参加なんです。大抵は1日目から各タイトルの予選が始まるので。
僕は「ゴールデンボンバー」の20周年ツアーで、『EVO Japan 2024』の初日にあたる日は仙台でライブをさせてもらっていました。だから今回、選手として参加することはできなかったんです。
そんなわけで今回は、「格ゲーマーとして戦場に赴くぞ!」ではなく、「格闘ゲームのお祭りイベントを目いっぱい楽しむぞ!」という気持ちに100%振り切って、2日目・3日目と現地観戦させてもらいました。
僕が最も注目していたのは『ストリートファイター6』(以下、『スト6』)部門なんですけど、大会最多となる5000名以上のエントリーがあったそうで、予選があった1~2日目は、本当に朝から晩まで『スト6』の試合が行われていたような状況でした。
僕の知り合いからも、「1日目の予選を突破して2日目に進出しました!」との報告がかなり上がっていたので、彼らの応援をするために会場中をつねに歩き回っていて。2日目の朝イチに現地入りした瞬間から、もう大忙しでしたね。
『EVO Japan 2024』は対戦会ではなく大会なので、大会を一番楽しむ方法は選手として参加することだと思います。試合をとおして「楽しい」、「うれしい」、「悔しい」、「悲しい」と、さまざまな感情が生まれると思いますが、「感情が揺さぶられる=楽しんでいる」ってことだと、少なくとも僕は捉えているので。
では、2番目に楽しむ方法は何かといったら、観戦しに行くこと、応援しに行くことだと思うんですが。そういう意味だと、僕はビックリしたんです。2日目の会場にめちゃくちゃ大勢の人がいたことに。
だって、ふつうに考えたら大会は初日の来場者が一番多くなるはずなんですよ。トーナメントが進行するたびに、勝ち残っている人が減っていくわけですから。それなのに、この人の多さは、一体どういうことなんだ? と。
それで、連日会場に来ているという方に話を聞いたら「2日目の入場者は初日と同じくらいか、それ以上の人数になっている気がする」と教えてくれて、「そんなバカな!」ですよね。それってつまり、初日に敗退してしまったプレイヤーの人数を上回る勢いで、観戦目的の方が会場に足を運んでいるってことじゃないですか。
それこそひと昔前は、格闘ゲームの大会って“来場者=選手”か、あとはコアなファンがわざわざ観に来る程度という印象だったんですけど、いまは「推しの選手が活躍する姿をひと目見たい!」という目的で会場まで来ている方が、本当に多くなったんだなと実感しました。
会場で感じた有料イベント化の恩恵
2日目の昼過ぎには、メインステージで『THE KING OF FIGHTERS XV』(以下、『KOF15』)の決勝トーナメントが行われていて、大勢の人が集まっていました。僕も近くまで様子を見に行ってみたら、人だかりの中でいろいろな国の言葉が飛び交っていることに気付いたんです。
『KOF15』はとくにアジア圏――中国、台湾、日本などに強豪プレイヤーが多くいる印象ですが、コロナ禍で海外渡航が難しかった時期が長く続いたことを思うと、「この感じ、久々だなぁ」という感覚になりました。
しかも、今回は「EVO Japan」として初めてエントリー料金・入場料金が設定された有料イベント(※2)の形で実施されたんですよね。ふつうに考えたら、それまで無料だったものが有料になれば来場人数も減ってしまうと思うんですけど、むしろ今年は例年以上に盛り上がっているように感じましたね。
※2……過去大会は選手としてのエントリー無料、観戦目的の入場も最終日を除いて無料で開催されていたが、『EVO Japan 2024』では全日程でプレイヤーチケット(メイントーナメント参加権付き入場券)または入場チケットの購入が必要となった。
みんながみんな、「入場料を払っているんだから楽しまなきゃ損だよね!」って思っていたってことはないにしても、会場はただならぬ熱気に包まれていたように思います。
最近のテレビ業界では、視聴率に代わる新たな尺度として、録画回数やSNS上の盛り上がりも加味した“視聴熱”を参考にするようになったと小耳に挟んだんですけど、『EVO Japan 2024』の視聴熱はものすごいレベルになっていたんじゃないでしょうか。
イベントとしても「無料イベントだからこそ盛り上がる」より、「有料イベントにもかかわらず盛り上がる」のほうが健康的だと思います。
きっと業界関係者のみなさんにも「格闘ゲームイベントをやるとこれだけの人が集まるんだ」から、「格闘ゲームイベントをやると客単価としてこれくらいの金額で、だいたいこのくらいの集客数が見込めるんだ」と、より具体的に考えてもらえますよね。これは、格闘ゲーム業界にとって大きな価値があることではないでしょうか。
会場にいた知り合いの格ゲーマーたちは、「今回は有料だから、前より参加のハードルが高いぶん、変な人が紛れ込まなくていいよね(笑)」なんて、冗談めかして話していたんですけど。実際、プレイヤー・ファン目線で有料化の恩恵は多くあったと感じます。
たとえば、「有明GYM-EX」という最新の会場(2023年グランドオープン)で開催できたこともそうですし。会場内は空調が効いていて、休憩エリアや飲食エリアも用意されていましたし。クロークや更衣室もあったので、コスプレイヤーさんたちも「すごく良いイベントだった」と言っていましたね。
これまでも“プレイヤーファースト”という言葉で、選手にとっての競技性・公平性を担保する、プレイヤーが快適にゲームをできる環境を整えるという考えかたはあったわけですが。それが、いまの時代は会場自体の居心地の良さであったり、会場を訪れた全員がイベントを楽しめるようにという考えかたにもつながっていっているのかなと、感銘を受けました。
格ゲーマーは“会いに行けるアイドル”だ!
「EVO Japan」の魅力は、何と言っても、ひとつの会場でさまざまな格闘ゲームのトーナメントが行われている(※3)ところだと思います。言うなれば音楽フェスと同じで、お目当てのアーティスト以外のことも知るきっかけになったり、推しのアーティスト以外のファンとも交流を持つ機会になったりするわけです。
※3……アメリカ・ラスベガスにて毎年(コロナ禍による中止年あり)開催されている本家「EVO(Evolution Championship Series)」は、例年8タイトル前後のメイン種目と多数のサイド種目で構成されることから“世界最大の格闘ゲームの祭典”とも呼ばれており、「EVO Japan」もその理念を受け継いでいる。
僕も、ここ最近は『スト6』漬けだったからこそ、『鉄拳8』や『UNDER NIGHT IN-BIRTH II Sys:Celes(アンダーナイト インヴァース II シスタセレス)』などの話題のタイトルのハイレベルな試合を観ることができて、非常に楽しかったです。
そうやって、ひとつのタイトルをきっかけに格闘ゲーム自体が好きになって、ほかのタイトルに興味を持ったり。ひとりのプロゲーマーを好きになると、その人に関連した横のつながりにあるプレイヤーも自然に好きになったりする。これって、アーティストを好きになる構図とまんま同じですよね。鬼龍院翔を好きになると、鬼龍院翔が尊敬しているGACKTさんのことも詳しくなる、みたいな。
しかも「EVO Japan」は誰でも参加できるオープントーナメントということもあって、予選の段階では、観戦目的の方が試合中の選手の間近まで行って応援することができるんですよ。いまをときめくプロゲーマーたちが、何気なく会場内を闊歩していたりもしますし。あれほどの至近距離で推しに会えるって、ファンからするとたまらないと思います。
MenaRD(メナアールディー)やJustin Wong(ジャスティン ウォン)といった海外の強豪プレイヤーたちも会場を訪れていましたから、彼らのもとにはつねに記念撮影を求めるファンの長蛇の列ができていましたね。
それこそ昔は有名格ゲーマーって、ゲームセンターに行きさえすれば意外と簡単に会えちゃう身近さがあったと思うんですけど、そういった“会いに行けるアイドル”的な部分は、形を変えつついまも残っているんだなとうれしくなりました。
“推したい”気持ちに寄り添うことで生まれるもの
会場には観戦目的の方が大勢いらっしゃったことに加えて、男女カップル率が非常に高かったことにも驚きました。これまでだったら“格闘ゲーム好きの彼氏に付き添う彼女”ってパターンがほとんどだったと思うんですけど、いまの時代だったら全然わからないですよね。ひょっとしたら“彼女の推し活の付き添いで彼氏も来た”ってパターンのほうが多い可能性すらあるなと。
ゴールデンボンバーの場合は、着ているお洋服の色やアクセサリーの色で「この子は僕のメンバーカラーの紫色を身に着けているから、僕のファンなんだな」って一瞬でわかったりするんですけど、格闘ゲーム業界はそのあたりの推し活文化が発展段階というか。企業側のグッズ展開などもまだ控えめな印象で、もったいないなという気がします。
ファンのみなさんの「推しの選手をアピールしたい!」という気持ちに寄り添ってあげることって、格闘ゲーム業界にも絶対にプラスになると思います。それになにより、「サインを求めてきた人がどの程度自分のことを好きなのか」が、パッと見てわかる時代になったほうがおもしろくないですか? って思うんですよね。
FPS界隈だと、自作のネオンボードやタブレットで選手に応援メッセージを送っている光景がよく見られるんですけど、あれも、もともとはK-POPアイドルの文化じゃないかなと。つまりは推し活に全力な女の子たちが考えて始めたことなんですよね。
格闘ゲーム業界も女性ファン層を積極的に取り込むことで、既存の格闘ゲーマーたちが思いもよらないような新たな発想が生まれるはずですし。彼女たちの推し活の熱意にスポットを当てることで、ファン同士の交流がより活発になって、業界全体の熱量がさらに上がっていくみたいなこともあると思います。
そうなっていくと、コミュニティーリーダー的な方が現れて摩擦やトラブルを生んだりするというのがよくある流れなんですけど、それも含めてファンガール&ファンボーイ文化っておもしろいんですよね。毎日、どこかでなにかしらの出来事が巻き起こってワクワクするという。
格闘ゲーム界隈でも、たとえば若手と言われるナウマンくんや、竹内ジョンくんや、シュートくんに親衛隊がある日突然生まれたりしないかなって。同じ法被を着た女の子たちが彼らの後ろでキャーキャーしているみたいな光景、絶対におもしろいじゃないですか。
ストリーマー界隈で言うと、今回の会場では高木さんのファンガールを多くお見かけしました。本当に、ものすごい人数の“高木ガール”がいらっしゃったんですよ。格闘ゲーム界隈も、早くそんな風になったらいいなと勝手に思っています。
いまこそ必要とされる“ハブ役”の存在
会場には僕の友人も観戦に訪れていて、彼が友人を3人連れてきていたんですね。つまり僕にとっては“友人の友人”なわけですが、お三方とも「格ゲーには興味があったものの実際よくわからない」という感じだったので、僕がでしゃばって、隣でいろいろと解説しながら一緒に観戦したんです。
たとえば、「あのMenaRDという選手はドミニカ出身で、2017年の公式世界大会で優勝して高額賞金をゲットした結果、母国でも有名人になって空き巣に入られたことがあったんだよ」とか。
これまでだったら格闘ゲーム大会の会場に来る人なんて、ほとんどがプレイヤーかファンの2種類しかいなかったじゃないですか。そこに今回「ちょっとだけ格ゲーに興味ある」くらいの人が来てくれるようになり、ようやくプレイヤーあるいはファンと、格闘ゲームのことをよく知らない人とのあいだを取り持つハブ役が必要になったわけですね。
たぶん今回このハブ役をやっていた人って、僕以外にも会場にたくさんいたと思うんです。それも、自らそういう役回りを買って出ていた人が。だって僕自身、ハブ役をすることがすごく楽しかったですから。
知っていたらもっと観戦が楽しくなるような豆知識とか、小ネタ、身内ネタを、知識がない人に対してうまく翻訳して伝えてあげられるような人の存在は、今後大事になるんじゃないかなと思いました。