映像ユニット・擬態するメタに聞く、星街すいせい『ビビデバ』MVの“舞台裏の舞台裏”
「アニメーション×実写」というジャンルにおける名作『ロジャー・ラビット』の影響
――喧嘩の場面は、カメラが倒れる瞬間にもキャラクターが描き込まれているのが素晴らしいなと感じました。
しまぐち:ありがとうございます。ああいうところにもキャラクターが写っていると、実在感や説得力が増すし、映像作品として見たときにもアニメーションの魔法を感じてもらえるんじゃないかと思っているんです。
それから、「絵が動くのは当たり前のことじゃないんだ」という感覚を、実写と混ぜることで伝えやすくなるとも思っています。自分が昔、『ロジャー・ラビット』を観た時にそういう感覚を覚えたのと似た感覚ですね。
――ちょうど名前があがりましたが、「ビビデバ」のMVについて『ロジャー・ラビット』(※3)の影響を指摘された方もいらっしゃいました。実際、影響はあったのでしょうか。
※3:1988年公開のアメリカ映画。アニメーションのキャラクターが生身の俳優と共演している作品
しまぐち:少なからずあります。人に説明する時のリファレンスとして使っていましたし、なにより今回のMVは撮影の表と裏を見せるというコンセプトがありましたから、『ロジャー・ラビット』を参照せざるを得なかったですね。
『ロジャー・ラビット』の冒頭、アニメのシーケンスが映った後、カットの声がかかるとカメラが引いていき撮影スタジオの様子が見えてくる……あの世界観はやっぱりすごいです。「ビビデバ」だけでなく、TOOBOEさんの「心臓」のMVを制作した時も、リファレンスにこそ出していませんが、発想としてはやはり『ロジャー・ラビット』の影響があったと思います。
――キャラクターデザインの方向性についてはどのように考えましたか。ちょっと昔のディズニーを思わせるイメージも含まれているように感じましたが。
しまぐち:キャラクターデザインについては、ロトスコープ(※2)で動かしても違和感が出ないくらいのフォルムを狙ったら、結果的に“ディズニーっぽくなった”という感じです。動きが生々しくても、生々しすぎる印象にならない、違和感を感じさせないデフォルメ感がこのぐらいの塩梅だったんです。
くわえて、ロトスコープでぬるぬる動かすなら、線の多いキャラクターは避けた方がいいと思ったのと、元々、自分の絵柄が引き算で線を減らしていくスタイルなので、相性が良かったというのもあります。
※2:実際に撮影した映像をトレースしてアニメーションを制作する技法
――アニメの作画はほぼロトスコープですか。
しまぐち:映像の半分くらいでロトスコープを活用してます。実際に描いてもらったシーンも多く、喧嘩のシーンもロトスコープでもいいですよ、と素材自体はお渡ししていましたが、アニメーターさんが実写の映像を参考に描いてくださったりしました。ロトスコープを採用したり、演技を参考に描いてもらったりと、カットごとに色々な手法を使い分けています。
一番苦労した背景作画 360度の実写映像にアニメを作画するむずかしさ
――ダンスパートはボディと顔を別々に作画されていたようですが、これはどういう意図でこの形になったんでしょうか。
しまぐち:今回のMVでは、作画監督をおかない体制で作ったんです。ボディの動きは異なるアニメーターさんでも統一感が比較的出しやすいけど、表情はバラつきが出やすいので、顔は1人で作業してもらうことで統一感を保つようにしました。くわえて、ダンスのボディは枚数も多くて大変なので、それだけに集中してもらった方が効率が良いというのもありますね。
――背景についてはどのように作っていたのでしょう。MVを拝見して、実写との違和感がまったくなくて、すごくおどろかされました。
しまぐち:背景は自分が描きました。まずBiviさんから360度カメラの映像を平面にした素材をもらって、その上にアタリをつけていくんです。360度の景色を平面にしているから、すごく歪んでいるんですけど、360度カメラの映像に載せた時には普通に見えるようになっています。逆算して描かないといけないので結構大変でしたね……。
――平面図にした地球儀に、球体のときに綺麗に見えるように国名を書き加えてまた戻す……みたいなことですよね。すごく難しい描き方じゃないですか、それ。
しまぐち:正直、めちゃくちゃ嫌でした(笑)。
Bivi:最初、「ヤバいこと言っていいですか、360度で背景描いてくれませんか」としまぐちさんに相談して、一回断られたぐらいです(笑)。もちろん、最終的にはやってくれましたけどね。
じつは今回、一番頭を悩ませたのが背景だったんです。アニメのキャラクターを実際の景色に乗せる、という表現自体は、これまでの経験でノウハウが培われてきたんですけど、これだけ大きい背景に乗せるのは初めてだったので。
360度のカメラで撮影した画面は歪みが強いので、普通に描いた背景を乗せるだけだと、どうしても合わないんです。ここはコンポジット担当(※4)の安倉さん、黒丸さんの2人と相談しながら頑張った部分です。安倉さんとはFAKE TYPE.さんの「マンネリウィークエンド」でも一緒に仕事をしましたが、アニメーションに対する感覚が鋭くて、完成形の画を感覚で理解してくれる人なので、本当にありがたかったです。
※4:実写やCG、2Dの作画など、異なる素材を合成する作業のこと
しまぐち:ふたりがいなかったら全然違うものになっただろうと思います。たとえば、元々アニメーションで描いたキャラクターには影をつけていなかったんですが、コンポジットの段階で影入れてくれたり、細かいところにも気を配ってくださっているんです。よく見ていただくと、アニメキャラクターにもしっかり影が乗っかっているのが分かると思います。
Bivi:コンポジットの仕事って一見わかりにくいのですが、ここの努力はぜひ伝えたいです!
――最後の夜の街で踊っているシーンは、身体は生身の人間で、顔と手はアニメーションですね。そこにもきちんと同じ光が当たっているように見せていますね。
しまぐち:そうですね。ラストシーンの手と顔の作画は、今回制作進行を担当してくださった葱びーだまさんが描いてくれました。制作進行もアニメーターもできるという、守備範囲の広い方です。
――擬態するメタの作品、実写やアニメなど異なる素材を組み合わせるものがこれまで多かったですよね。コンポジット段階で馴染ませるのは、やはりいつも苦労があるのでしょうか。
Bivi:そうですね。馴染ませすぎても良くないし、違和感なく見られるけどキャラクターが目立っていないといけない。そういうバランスを探るのはいつも苦労します。キャラクターを100%馴染ませてしまうと沈んでしまうこともあるので、補完するために影つけたり、手前に物を置いたりと、存在している感じを出すために色々な演出をしています。