映像ユニット・擬態するメタに聞く、星街すいせい『ビビデバ』MVの“舞台裏の舞台裏”

『ビビデバ』“舞台裏の舞台裏”を紐解く

 ホロライブ所属のVTuber星街すいせいの新曲「ビビデバ」のMVが、VTuber史上最速の16日間で1000万再生を突破する快進撃を記録している。

 今もぐんぐんと再生数を伸ばし続けるこのMVは、とある撮影セットでガラスの靴とドレスに身を包んだ星街すいせいが、理不尽な監督の対応に怒り、靴を投げ捨てストリートで踊る様を、実写とアニメを融合させた映像で表現している。

 このMVを監督したのは、アニメーター・しまぐち ニケと映像作家・Biviの映像ユニット「擬態するメタ」だ。TOOBOEの「心臓」や「錠剤」のMVなどで注目され、近年はYouTubeトークチャンネル「META TAXI(メタタクシー)」や、NHK『みんなのうた』にも映像を提供するなど活動の幅を広げている。

 そんな2人に、「ビビデバ」MVの制作の裏側と、創作活動のこだわりについて話を聞いた。

擬態するメタ

擬態するメタ

アニメ作家/イラストレーターのしまぐち ニケと映像作家のBiviによる映像制作ユニット。

「企む(たくらむ)アニメーション」をテーマに、技法や常識に縛られない実験的、挑戦的な作品を制作する。

“現代のシンデレラ”は自ら幸せを掴みに行く

――「ビビデバ」MVのコンセプトはどのように生まれたのでしょうか。

Bivi:プロデュースチーム側から「メイキングと本編をまたぐ」というアイデアが最初に示されたんです。星野源さんの「アイデア」のMVとか、『カメラを止めるな』とか、同じアイデアの映像作品は色々あるんですが、自分たちはまだ見たことのない仕掛けやフォーマットでやりたくて、それで「ワンカットで表と裏も見せる」というアイデアが出てきました。

しまぐち:ただ表と裏を見せるだけでは映像としての凄味がでないので、ワンカットで成立させたら面白いかも、という話になったんです。たしか、ドタバタ感も表現しやすいかもしれないと思ってワンカットにしたんですよね。

Bivi:そうですね。過去の作品でいえば、GALDE'rLaさんの「傷と蜜」のMVで全編ワンカットの映像を制作しましたね。アニメーションと合わせる場合、ワンカットは作業工程が大変になるんですけど、2人で映像を作る時は“より面白くするためのルール”を作るので、今回はそれがワンカットだったという感じです。

――シンデレラ風の世界を撮影している様子を撮るという、あの世界観はおふたりのアイデアですか。

Bivi:従来のシンデレラは、貧しい環境にいて魔法によって綺麗な姿となり報われる……というストーリーです。けれど、現代のシンデレラは受け身の姿勢じゃなくて、自分から幸せをつかみに行くんだという、ストーリーラインを星街さんから共有いただきました。それを、撮影の裏と表を見せるシチュエーションでやるということで、自然に今回のストーリーが僕らの中で生まれてきたんです。

「ビビデバ」MVより

 その象徴として、星街さんがガラスの靴を監督に投げつけるというアクションを入れ、最後のクレジットに投げられた靴が撮影現場に残っているようにして、階段に靴を残していった従来のシンデレラとの対比が見えるようにしています。

「ビビデバ」MVより

しまぐち:ストーリーについては、従来のシンデレラの物語を否定するのではなく、ひとつの価値観を押し付けすぎないようには気を付けました。撮影現場を飛び出した後の展開も色々な案があったんですが、やっぱりガラスの靴を脱ぎ捨てて、自分の好きなことを伸び伸びとやるのが“令和らしい”というか、色々な価値観を肯定したように見えるかなと思って、ああいう形になりました。

――星街さんの表情もすごく良いですね。ダンス中はおすまし顔だけど、カットがかかると素の表情になる。喧嘩シーンの勝ち気な表情も含めて、パーソナリティが出ているなと思います。

「ビビデバ」MVより

しまぐち:そのあたりは、星街さんの配信動画を見たりしてイメージを膨らませました。配信はパーソナリティが結構出るものなので、表情の参考になっています。

 色々と見ていくうちに、カットがかかると礼儀正しく振舞うけど、理不尽なことにはしっかり対応するーー許せないラインを超えた時にはしっかり怒る方なのだろうというイメージがわいてきて。打ち合わせの時にアニメーターさんとも共有した部分です。星街さんが監督と喧嘩するシーンに対して、「解釈一致」みたいな意見もたくさんいただけてうれしかったですね。

「ビビデバ」のMV制作における特殊なワークフロー

――制作プロセスは、どのような流れだったのですか。

Bivi:擬態するメタの制作は、いつもワークフローを考えるところから始まるんです。今回は今までやったことのない特殊なワークフローを採用していて、まずプリビズ(※1)を作りました。簡素なキャラクターを配置しただけのものですが、これは実写チームとアニメチームの段取りをすり合わせるためのもので、それを元に実写撮影のカットや必要なキャストの人数、アニメの作業工程を決めていきました。

実際に制作時に使用したプリビズ(画像提供:擬態するメタ)

 その後、演技用のコンテを作ったんですけど、これは演技さえわかればいいものなので、僕としまぐちさんで公園で撮影したものを使いました。

※1:CGなどで画面の設計や流れを前もって作ったもの

――しまぐちさんとBiviさんが踊っているんですか。

しまぐち:そうです。この動画、ゆるくてめっちゃ面白いんですよ。公園で、近隣住民が犬と散歩しているなかで2人で喧嘩したり、踊ったりしてて(笑)。

Bivi:ゆるいですよね(笑)。そういう映像をもとに実写撮影をしたんですが、これが膨大なデータ量になりまして。MVではワンカットっぽく見せていますが、実際は30カット、200テイク撮っていて、編集でつないでいるんです。それでようやくカメラワークが完成し、そこからアニメーションの作画をしてもらって、合成して……という流れでした。

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