YouTuberへの誹謗中傷となる“一線を越えたライン”とは? 弁護士に聞く刑罰や背景
YouTuberのヒカキンが、2024年2月24日に「誹謗中傷してる人へ」と題した動画を投稿し、クリエイターへの誹謗中傷を行わないよう視聴者に呼びかけた。昨今は誹謗中傷に悩むYouTuberが情報開示に踏み切るケースも増えてきているが、実際どういったものが誹謗中傷とみなされるのか。そして、その基準はあるのか。
今回は、YouTuberへの誹謗中傷に関する開示請求や刑罰、視聴者やSNSユーザーが意図せず誹謗中傷に加担することを防ぐために注意すべきことを、YouTube関連の法務エキスパートである弁護士法人モノリス法律事務所 代表弁護士の河瀬季氏に聞いた。
「嘘の情報である」と証明できないものは名誉毀損に当たらない
ーー先日、ヒカキンさんが過去の誹謗中傷に関する動画を投稿されました。誹謗中傷と判断するうえで、一線を越えているラインを教えていただけますか。
河瀬季(以降、河瀬):一般的に誹謗中傷はいわゆる「名誉毀損」と「侮辱」のふたつの概念に分類でき、ヒカキンさんのケースは侮辱の議論が中心になっています。「侮辱または名誉感情の侵害」という議論なんですが、侮辱のことを刑事事件では『侮辱罪』といい、個人が個人に対して損害賠償請求や削除を求める民事事件の場合は『名誉感情の侵害』といいます。これをざっくりいうと、社会通年上、許される言動を超えた侮辱行為をすると名誉感情の侵害に該当し、悪口が一定のラインを越えているものが、法律的な意味での違法な誹謗中傷ということになります。
ヒカキンさんの動画にも出てきていて、よく裁判でも争われてきたものは、容姿、外見に関する表現ですね。過去の裁判では年齢を強調する表現で、「50歳の〇〇が〜」といったものなどが違法となりました。死に関連するワードにしてもいろんなパターンがあり、なかには実際に違法とされたものもあります。これが『名誉感情の侵害』に該当します。名誉毀損というのはまた別のグループで、人に言われたくないような嘘の情報を書いた場合に成立します。
ーーここでの嘘とはどういったものでしょうか。
河瀬:嘘か本当のどちらかしかないパターンです。たとえば、「元暴力団員」だというのは本当か嘘かしかないですが、「〇〇は容姿が醜い」というのは、本当か嘘かとかいう話ではない。元暴力団だといわれたら、暴力団組織に加入したことがないという証明をすればいいんですが、容姿が醜い証明というのはしようがないですよね。
ーー基準もないですし、証明は難しいように感じます。
河瀬:裁判は証拠を出したり証人尋問をして、なにかが「あったか」か「なかった」かを決める戦いです。殺人事件の弁護士は「この人は殺していない」というし、検察は「この人は殺した」といいますよね。お互いに証拠を出しあって、それが正しいか正しくないかを決めましょうというのが名誉毀損の基本です。本当も嘘もないけど、悪口だというのが侮辱になるので、名誉毀損と侮辱は根本的に違うんです。
YouTuberの場合だと、たとえば「表ではYouTubeをやりながら、裏では人からお金を騙し取っている」のようなことを言われた場合には、名誉毀損となります。ヒカキンさんのケースはこういう変な噂があるわけではなく、強い殺意を感じさせる言葉が書き込まれたという話なので、侮辱に該当するというわけです。
ちなみに、名誉毀尊と侮辱のほかに『プライバシー侵害』があります。プライバシー侵害は名誉毀損と似ていますが、本当だろうが嘘だろうがネットに出されたくないというところが名誉毀損とは違います。よくある例でいうと、「××と付き合っている」という情報を出されたら困りますよね。これが「あんな人と付き合っているんだ」という意味だと価値判断を含むので、プライバシー侵害になります。