『Apex Legends』コミュニティを震撼させたチート付与問題 運営に期待される“先手の対応”

『Apex Legends』運営に期待される“先手の対応”

 チート行為をめぐる新たな騒動が界隈を賑わせている。

 今回の出来事から人気タイトルの開発・発売元が学ぶべきこととは。チート行為の是非とは異なる角度から、ゲームカルチャーのあり方を考える。

『Apex Legends』の大会で起こった、前代未聞の“受動的”なチート使用

 事の発端は、3月18日に北米で行われた『Apex Legends』の大会での一幕だ。「Apex Legends Global Series: 2024 Split 1 Playoffs」への出場権を賭けた同イベントで、DarkZero Esportsに所属するGenburtenと、TSMに所属するImperialHalがハッキングにあい、前者はすべての敵の位置が把握できる状態、後者は撃った銃弾が勝手に命中する状態となった。事態を受け、運営はプログラムの進行を中断。「競争上の完全性が損なわれている」として、イベントの延期を決定した。

 言わずもがなだが、両選手は能動的にチートを使用したわけでなく、あくまでも第三者からの干渉によって、自身の操作キャラクター/画面にチートが付与された状態となった。このことは、彼ら以外、極端な話をすれば一般のプレイヤーにも同じ状況が起こりうることを意味している。

 PvPのゲームタイトルにおいては、かねてから一部の悪質なプレイヤーによるチートの使用が問題となってきた。各運営はそのような行為を撲滅すべく、アカウントBANなどの対応に追われてきた経緯がある。もしハッキングによってあらゆるプレイヤーが意図せずチートを使用してしまうことになれば、同様に処罰される可能性も出てくる。そのような文脈から、騒動は競技シーン以外の環境にも波及。一時的に同時接続者数が減少するなど、界隈を揺るがす事件へと発展した。

模倣犯の登場に集まる懸念。人気タイトルの運営に期待される先手の対応

 結論から言うと、この騒動はすでに収束へと向かっている。『Apex Legends』の開発元であるRespawn Entertainmentは3月20日、件のイベントの延期を決定したタイミングで、問題について調査中であることを発表。同時に、階層化された一連のアップデートのうちの最初のパッチが展開されたことを、コミュニティに向けてアナウンスした。

 21日未明には、アメリカのテック系メディア・TechCrunchが犯人の1人とみられる人物・Destroyer2009の声明を公開。「ただ楽しむためにハッキングを行ったこと」「そのような脆弱性を開発元に修正させる目的もあったこと」「ジョークだとわかるよう、加減して事に及んだこと」「同じ手口が利用される可能性は低く、一般プレイヤーは心配する必要がないこと」などを伝えている。

 こうした経緯をたどったことで、ほとぼりが冷めつつある今回の騒動だが、問題の本質は別の部分にあることを、運営を含むコミュニティ全体は認識しておかなければならない。上述の声明のなかでDestroyer2009は、「開発元が今回の脆弱性を以前から知っていた」「その脆弱性は無害な使われ方をされることがない代物で、ターゲットにされた人物のキャリアを終わらせられるほどの脅威となり得る」という旨の発言を行っている。つまり、Respawn Entertainmentは極めて危険な欠陥があることを認識していながら、それを放置していた(もしくは根本的な解決ができずにいた)というわけだ。

 もちろんこれは、イベントを中止・延期に追い込み、プロゲーマーだけでなく、一般プレイヤーにも不安を与えた愉快犯の言い分であるため、すべてを鵜呑みにするわけにはいかない。その一方で、さまざまな不具合が迅速に修正されてこなかった歴史があること、(それに反して)最初のパッチを展開するまでの流れがあまりにもスムーズであったことは、紛れもない事実でもある。真偽のほどは定かでないにしても、運営に不信感を募らせるだけの材料となっていることは間違いないのではないか。

 テックの領域では、ハッキングに深い知見・技術を持つ人間を「ホワイトハッカー」としてチームに招き入れ、「ブラックハッカー」「クラッカー」に対抗するセキュリティ手段とするのが慣例だ。昨今では、一般のユーザーから不具合や脆弱性に関する情報を募り、その重要度に応じて報奨金を支払う仕組み「バグバウンティ」も注目を集めている。ゲームカルチャーにおいても、ソニー・インタラクティブエンタテインメントや任天堂、Microsoft、Valveといった大手プラットフォーマーたちが同制度を取り入れている。

 上述の声明では、「開発元のRespawn Entertainment、発売元のElectronic Artsがともにバグ報奨金プログラムを提供していなかったことも脆弱性を報告せず、悪用する判断につながった」と明かされている。少なくともシーンを席巻するほどの規模感を持つ人気タイトルにおいては、こうした有志の能力をなんらかの形で活用していく必要があるのではないか。

 業界への問題提起となった側面もある今回の騒動。いちプレイヤーとして危惧するのは、模倣犯の存在だ。対応が遅れているうちに彼らが登場するようなことがあれば、オンラインゲーム、特にPvPの要素を盛り込むタイトルには、これ以上ない逆風が吹くことになる。ゲームカルチャーにおける旗手である人気タイトルの運営には、悪しき状況を招かないような先手の対応を期待したい。

© 2024 Electronic Arts Inc.

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