アーティスト・クリエイターの著作権管理における現状と課題とは? 弁護士&著作権管理企業に訊く
楽曲の利用が束縛されないやり方を模索している
――改めて、そもそも著作権管理事業者とはなにかといったことをNexToneの山本さんからお話いただければと思います。
山本隆文(以下、山本):著作権管理事業は、作家様や音楽出版社様などの権利者に変わり、楽曲の利用者様から著作権使用料をお預かりし、各権利者様にお戻しする業態で、国内では弊社とJASRACさんがおります。
権利者様自身で楽曲がどこでどれくらい使われたかを把握し、著作権使用料としていくら請求するか交渉を行うことは困難です。我々は各利用者との間に使用料のルールを設けることで、お預かりした楽曲の利用実態の把握とともに、スムーズな権利処理を行っております。
(参考:株式会社NexTone 公式サイト)
――NexToneは強みとしてどのようなことを掲げていらっしゃるのでしょうか?
山本:弊社は前身となる2社にて2001年に著作権管理業務を開始しましたが、管理事業者としては後発ということもあり、設立時より権利者様や利用者様の様々な要望をヒアリングしてニーズに合わせた管理・運用を行ってきました。まず契約金は開始当初から無料ですし、委託(委任・取次)契約となっておりますので、著作権者様からの権利の移転はございません。また自社内で管理システムの開発・運用を行うことで、各種契約・続きのオンライン化も進めて参りました。
さらに権利者様に選択肢を多くご用意していることも特徴の一つです。例えばアニバーサリー企画でCMタイアップを狙おうとした際に、広告主とのやり取りのなかで、広告費以外に著作権使用料が発生してしまうと、タイアップが成立しにくくなってしまうということがあるんです。NexToneでは、新譜旧譜に関わらず権利者様の意向で使用料の免除や減額の対応をすることができます。
あと権利者様や利用者様に寄り添った対応を行っていることも強みにしています。権利者様が楽曲利用について問合せを受けた際に、その利用方法が著作権の利用区分のどこに該当するのか、利用者とどのように許諾条件を詰めていけばよいか、権利者様も判断がつかず迷われるケースもあります。そんなときは弊社の担当にご連絡いただければ、ご意向をヒヤリングしてベストな解決方法をご提案させていただいております。
特に個人で活動されているアーティストはご不安もあるかと思いますのでお気軽にご連絡いただきたいと思っております。WEBミーティングやお伺いしての対応もしております。
システム面で言うと、PlayN(プレイン)という管理システムを設けています。ご契約者様はもれなく無料でご利用いただくことができ、PlayN内で管理楽曲、著作権印税のデータベース閲覧、楽曲登録や各種申請機能が一元的に使用可能です。
croass(クロアス)というデータ分析ツールもありまして、過去3年分のデータからアーティストごと、サービスごと、楽曲ごとにそれぞれ選択して結果を出力することも可能です。特定の楽曲をSpotify広告でプロモーションを行った際に、同時期のYouTubeではどれくらい効果があったかなどの使い方もあると思います。
(参考:管理のポイント|著作権管理サービス)
――そんななかで、逆にこれから強みにしていきたいことやこれから進めていくことも教えてください。
山本:いま課題として進めているのが、海外からの著作権使用料徴収です。2021年にフランスの著作権管理団体のSACEM・SDRMと業務委託契約し、両団体のもつ各国の著作権管理団体のネットワークを通じて全世界の使用料を徴収する管理体制を整えました。
さらにAPPLEやSpotifyといったグルーバルデジタルサービスプロバイダ(GDSP)から直接使用料を徴収する仕組みを持つIMPLEという団体とも契約しております。
従来の著作権管理団体の徴収ルールは、各国の管理団体が自国地域の著作権使用料を徴収するのが基本となっていて、例えばA国で使用された楽曲の使用料はA国の管理団体が徴収を行うことになっています。一方、利用者であるGDSPは世界各国でサービスを展開しているため、B国、C国……とそれぞれの国の管理団体に対して利用実績の報告と使用料の支払いを行う必要があります。管理団体によって報告方法がまちまちであることもあり、世界中の実績を把握しているGDSPからすると煩雑な仕組みです。
一方IMPELの運用では、GDSPは全世界の利用実績をIMPELに報告することで完了します。報告精度が上がることはもちろん、管理団体を通過しないためスピーディーな使用料分配に繋がっています。分配データでも、利用地域、サービス、番組名、使用日まで透明性高く提供できることも強みと感じています。新しい技術やこれまでにないスキームの徴収団体などが登場しているので、常にベストな管理方法を選択しながら海外利用の捕捉精度を高めていくことが当面の目標ですね。
2点目の大きな課題は国内における全管理区分の徴収を行うことです。
日本の著作権の管理は利用形態ごとに13区分に分かれているのですが、弊社は20数年をかけて12区分を管理できるようになりましたが、未だ「社交場・カラオケ演奏等」という区分の徴収が出来ておりません。こちらの管理が開始されれば、国内外問わずすべてNexToneが管理するということが実現しますし、権利者様にも煩雑な管理をお願いすることもなくなるため、管理開始に向け各所整備を行っております。
3点目は、クリエイター向けのノウハウ共有です。未成年の作家様が早くから才能を開花するケースが増えた反面、著作権管理を行う必要に迫られた際にノウハウがなく行き詰まるというお話を良く耳にします。著作権管理事業の独自ルールもそうですが、管理規程も数年単位で改定され複雑化していることは正直なところです。そんな分かりにくさを解消することも我々の役目だと思っているので、レクチャー動画の作成やお会いできる機会を設け、様々な啓蒙活動に取り組んでいきたいと思います。
――そう考えると、アーティストのバックアップも含めてかなり幅広く取り組んでいらっしゃいますね。
山本:そうなんです。例えば作家様が個人として管理事業者と契約することは可能ですが、複数の作家様が関わった楽曲の場合、作家様が全員契約しませんと100%管理ができません。足並みが揃えば問題ないですが、ご連絡が滞ったり意図しないことで手続きが止まってしまったり、スムーズに行かない場合はあります。そういった不安がある場合は子会社の音楽出版社エムシージェイピー(MCJP)をご活用いただくことをお勧めしております。
MCJPは契約書の作成から各作家様への著作権使用料の支払まで作家様の代わりに一気通貫で行いますので、権利処理にかける時間を短縮できます。クリエイターさんにはクリエイティブな活動をメインにしていただいて、面倒な権利処理一切をアウトソースできることが魅力です。個人で活動するケースは今後も増えていくと思いますが、管理事業者のノウハウを持った専任スタッフがパートナーとして対応するところもメリットの一つです。
(参考:株式会社エムシージェイピー 公式サイト)
それだけでなく、弊社では、配信会社と組んでプロモーションまで行うディストリビューション事業やライブビューイングやライブ企画を取り扱うキャスティング事業も行っております。楽曲をお預かりするだけではなく、利用活性化まで一緒にサポートさせていただくことまでセットと考えておりますので、アーティストサイドからのご要望に応じて様々な提案を行なっています。
誰もがクリエイターになれる時代に即したサービスをご提供できるよう、様々な所でNexToneのサービスを知っていただける機会を増やしていきたいと考えております。
(後編へ続く)
■東條岳プロフィール
東京大学法学部卒業。青山学院大学法務研究終了後、2008年に弁護士登録。2009年より、Field-R 法律事務所に入所。音楽著作権、アーティスト契約法務などのエンタテイメント法務を中心業務に、スマートフォン向けアプリのライツクリアランス、利用規約などに関する法務なども取り扱う。主な著作に、「プロダクションのためのアーティスト契約ガイド2013」、「アプリ法務ハンドブック」、「著作権法コンメンタール(第2版)」など。
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