YouTubeは音楽著作権を「Content ID」でどのように処理している? JASRACとの取り組みで明かされたこと

 「YouTubeの音楽著作権処理に関する記者説明会」が3月16日、都内で行われた。YouTubeの楽曲や動画の権利関係や日本音楽著作権協会(JASRAC)のパートナーシップについて改めて説明された内容をレポートする。

 現在YouTubeには世界中から月間で数十億人のログインユーザー、そして毎分500時間以上の動画が投稿されている。そんななかで逃れられないのが権利問題。2022年6月までの3年間、クリエイターやアーティスト、メディア企業に還元された金額は500億ドルに達しているとはいえ、適正分配を目指してプラットフォーム側が努力を怠ることはない。

 そして先日、Googleと日本音楽著作権協会(JASRAC)がYouTubeの自動コンテンツ識別システム「Content ID」を本格活用するという新たな許諾契約を結んだ。両社は2008年よりパートナーシップ関係にあり、今回が5回目の契約更新。これにより動画クリエイターや楽曲などの権利保持者にとって何を意味するのか。

鬼頭武也氏

 メイン登壇者はGoogleのミュージック・コンテンツパートナーシップのディレクター・鬼頭武也氏である。彼はまず(広義の)著作権(曲自体の権利)と著作隣接権(実演家やレコード会社などの権利、特にレコード制作者と紐づくのが原盤権)を説明してから、YouTubeにおける著作権コントロールに関する3通りのアプローチを解説。

 ひとつ目は頻繁に削除依頼を送信する必要がない著作権者が多く利用する「ウェブフォーム」、続いて頻繁に削除依頼をするクリエイター向けの「コピーライトマッチツール」。そして映画や音楽などで最も複雑な権利環境にある著作者向けの最も強い施策が「Content ID」だ。

 こちらも権利者によって自分の制作物が使われた動画の視聴自体をブロックする、視聴可能にしておくが自身も収益化する(またはアップロード者と分配する)、そのどちらも放棄する代わりに統計情報をトラッキングできるという3パターンから態度を選択可能。適用条件などのポリシーも権利者が細かく選択できる仕組みとなっている。

 「Content ID」の起点は権利者による音声や映像データのアップロードと、付随するメタデータ登録による。また音楽や映像の特徴点を検出・符号化した「フィンガープリント」を設定される。これにより、映像における画角の違い(反転、アスペクト比、色味など)、音声における音色の違いや再生速度、ノイズ含有などの「ゆらぎ」に関わらず特徴点情報で権利物の特定が可能となる。

 さらにユニークなのはメロディラインの「フィンガープリント」も認識できる点だ。波形データをMIDIに変換して解析するのか、その具体的な方法は明示されなかったが、これによってカバーや異なるアレンジとして用いてもメロディ情報で楽曲を特定しやすくなる。なおヒップホップなどに見られるサンプリングについては、基本的に音楽そのものの特徴点で判別しているそうだ。誤検知などの問題についてのアジャストも日進月歩のもよう。

 2021年12月時点で「Content ID」による申し立てによって著作権者に支払われた広告収入は75億ドル。2022年上半期に行われた申し立ては7億5000万件を超える。

宇佐美和男氏

 JASRACとのパートナーシップは「Content ID」のデータをJASRACが持つメタデータや権利情報で補完、それにより管理精度の向上と正確な収益分配を目指すというものだった。次に登壇したJASRAC常任理事・宇佐美和男氏も協会が目指す「創造のサイクル」を示しながら、ライセンスの仕組みを曲別許諾と包括許諾に分けて説明した。

 そして現在JASRACの管理楽曲は7500万以上、そして年間で報告される利用曲のデータ数は約27億にのぼる。管理楽曲が利用される分野のほとんどが配信であり、その膨大な数に対応するために「Content ID」の本格活用は必然だったといえるだろう。

 その後、鬼頭氏が再登壇し「YouTubeショート」の著作権処理について解説。「YouTubeショート」は現在チャンネル登録者数1000人に達したチャンネルが収益化可能となるが、従来型の長尺動画とは違い、ショートフィード全体に入った広告収益を分配配給していくシステムになっているのだという。個人的な非営利であれば使えるTikTok的なサウンド追加にも言及した。

 最後に鬼頭氏は「クリエイターあってのコンテンツなので、創造が続けらえるサステナブルな環境を用意すること、また動画に含まれる権利物に関しても適切な還元に取り組む」と話コメント。その後は記者からも質問が活発に飛び、説明会は熱を帯びた幕切れとなった。

 YouTubeとJASRACの取り組みは理解できたが、配分の詳細や管理の厳格化によって権利者は潤う分、後進クリエイターが育つ土壌が貧しくならないかなどの疑問も正直残る。両社の取り組みによって「創造のサイクル」が豊かになっていくことを期待したい。

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