ボーカロイドは“消えない”文化となった 『プロセカ』3rdライブの熱狂に思うこと

プロセカ3周年ライブレポート

 ここから「スペシャルタイム」として、またしても各ユニットが1曲ずつ披露していくことになったのだが、この日のパフォーマンスを見ていて、改めて思ったことがある。『プロセカ』は色んなキャラクター・ユニットが存在することも魅力だが、それは同時にさまざまな音楽ジャンルが自然に表現できるということでもあり、さまざまなジャンルの音楽が生み出され続けるボーカロイドシーンと非常にマッチしている。そしてキャラクターもユニットもストーリーとともに成長することで、また新たに“似合う音楽”を獲得していく。

 それを体現したといえるのがビビバスとMEIKOが披露した「仮死化」(作詞・作曲:遼遼)だろう。最初はストリートっぽさを感じさせ、力量差もあった4人の歌が成長し、〈Woh…〉と大勢の人たちとシンガロングする前提のコーラスに。そして実際に幕張メッセの観客が大声でそれに応える。ゲーム内の成長とコンテンツの歩みがマッチしたことの象徴ともいえる出来事に胸が熱くなった。

 そしてライブはラストスパートへ。ワンダショと巡音ルカによる「Mr. Showtime」(作詞・作曲:ひとしずく×やま△)では間奏の手拍子が、レオニと初音ミクによる「てらてら」(作詞・作曲:和田たけあき)では間奏のコールが、モモジャンと巡音ルカによる「パラソルサイダー」(作詞:ナナホシ管弦楽団・作曲:岩見陸)では〈もっと!〉コール、ニーゴと鏡音レンによる「バグ」(作詞・作曲:かいりきベア)では〈パ パ パラ パーラノーイ「ア」〉でシンガロングが巻き起こる。特に「バグ」はうねるムービングライトとスクリーンのグリッチした映像がリンクした見事な演出だった。

 本編最後にバーチャル・シンガーたちがお礼を言いステージを後にすると、鳴り止まないアンコールに応えるように初音ミク、鏡音リン、鏡音レン、巡音ルカ、MEIKO、KAITOが再びステージへ登場し「アイムマイン」(作詞・作曲:halyosy)を披露。各ユニットの進級記念にhalyosyが「バーチャル・シンガーからの応援ソング」として書き下ろしたこの曲は、初期のボーカロイド文化における重要曲であり、ユーザーが育て、歌い継いできた「桜ノ雨」をはじめ、彼が手がけてきた楽曲の要素が散りばめられたアンセムだ。

 そしてアンコール2曲目、この日最後に披露されたのは、星乃一歌、花里みのり、小豆沢こはね、天馬司、宵崎奏による『プロセカ』3周年アニバーサリーソング「NEO」(作詞・作曲:じん)。ボーカロイドが初期のネットミーム的な盛り上がりからオーバーグラウンドしてあの日の子どもたちに〈「初めまして」〉と届いたのは、じんが手がけた作品たちのメディアミックスに依るところは大きいだろう。そんな彼が『プロセカ』の3周年に贈った、泥臭くて甘酸っぱくて切なくて、それでも眩しいくらいのエネルギーを放つ1曲を6人は熱く歌い上げ、この日のライブが終了した。

〈十数年前に起きたあの日から/まさかこうなるとは思わんわ〉(アイムマイン)
〈忘れられたって 死なないで 響いた その曲は/「希望」って言うんだよ〉(NEO)

 筆者がボーカロイド文化に古くから接しているため、必要以上のメッセージを受け取ってしまったところもあるかもしれないが、この日訪れた様々な世代の観客が沸き、歌い、ときに目を潤ませている様子には、本当に強く心を打たれた。十数年前からは想像もつかない景色が目の前に広がっており、そこにあの日の曲もたしかに存在する。一度“砂漠”になって忘れられた曲も、『プロセカ』が改めて響かせてくれたことによって、次の世代に手渡されたからだ。

 もう一度言う。ボーカロイドは様々な人の手によって、ひとつの大きな“文化”になった。この先の景色はわからない。ただ、5つのユニットと6人のバーチャル・シンガーの物語にはまだ続きがある。

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