チョルノービリが舞台の「S.T.A.L.K.E.R.」に宿る、ポスト・アポカリプス作品としての唯一性 そして期待する“その先”の物語

「S.T.A.L.K.E.R.」に宿る、ポスト・アポカリプス作品としての唯一性

15年ぶりの新作『S.T.A.L.K.E.R. 2: Heart of Chornobyl』への期待と、開発をめぐる状況について

 だからこそ、新作『S.T.A.L.K.E.R. 2: Heart of Chornobyl』への期待は大きい。同系統のポスト・アポカリプス的な作品がより人間ドラマを描くことに重きを置いたり、より文明崩壊後の世界をカジュアルに楽しむ方向へと向かっていったのに対して、その間まったく新作が出ることのなかった「S.T.A.L.K.E.R.」は、ひたすらにシビアで尖った作品として唯一無二の存在感を放ち続けていた。

 もちろん、そうした作品に対する需要がなかったわけではなく、近年のPvPvE系の「死んだら全ロスト」な作品の数々にその影響を垣間見ることができる。だが、チョルノービリを舞台とした(現実の歴史と接続される)リアルな世界観や、「荒廃」という言葉を突き詰めたかのようなマップ、ざらついた手触りの銃、放射線の脅威、ドライでありながらも人間味のある人々との関わり、そこかしこで勝手に繰り広げられる戦い、積み重なる死体の数々、遠くから聴こえてくる音楽など、そうした要素の一つひとつが絶妙なバランスで重なり合った「S.T.A.L.K.E.R.」に換わる作品はなく、だからこそいまでも15年前の作品が遊ばれ続けているのだろう。

 おそらく、多くのプレイヤーは最新作に対してそうした要素の一つひとつが、その絶妙なバランスを保ったままで順当に進化した作品を望んでいるのではないだろうか。現時点で『S.T.A.L.K.E.R. 2: Heart of Chornobyl』について明らかになっている情報としては、まさにそうしたゲーム体験が2024年現在の水準にアップグレードされているということで、物語についてはいくつかの登場人物の姿を確認することができるトレーラーを除いては不明瞭なままとなっている。

 個人的にはどのみち遊ぶことになるのでこのまま発売を迎えても別に良いのだが、気になるのは本作に「2」というナンバリングが与えられているということだ。実際のところ、冒頭で述べた3作品は地続きの作品であるとはいえ、基本的には『S.T.A.L.K.E.R.: Shadow of Chornobyl』を起点に、『Clear Sky』で前日譚、『Call Of Prypiat』で後日譚を描いたものとなっており、ある意味ではその全てをまとめて「1」と捉えることができる。その点では、「その先の世界と物語」が濃密に描かれることを期待しても良いのかもしれない。

S.T.A.L.K.E.R. 2: Heart of Chornobyl — Strider Trailer

 筆者は昨年の東京ゲームショウでプレイアブル出展された『S.T.A.L.K.E.R. 2: Heart of Chornobyl』のデモを実際にプレイしたのだが、そこにあったのは美しいグラフィックで描かれる「ゾーン」の風景、なかなかほかのシューターでは感じることができないくらいの重みを感じさせる銃の手触り、空間そのものが歪んでいるかのような怪異や突如として訪れる異常現象(おそらくエミッション)からの逃走、右も左も分からないままにマップに放り投げられ、自らの感覚に委ねるままに先へと進めるゲームプレイなどであり、本作に期待していた要素がしっかりとそこに作り上げられようとしているという印象を受けた。一方でパフォーマンスに関してはフレームレートの低下など最適化不足をはっきり感じられる状態だったため、発売延期も納得というか、最終的に2024年Q1から9月に変わったことが発表されたときには安心感を抱くほどだった。

 とはいえ、その開発状況を追いかけていた一人のプレイヤーとしては、発売日自体はもはや重要ではなく、「完成したときに出してくれればそれでいい」と思っているのが正直なところでもある。というのも、最新作を含めた「S.T.A.L.K.E.R.」シリーズを開発してきたGSC Game Worldはウクライナ・キーウに拠点を構えていたデベロッパーであり、2022年のロシアによるウクライナ侵攻の被害と影響を直接的に受けることになった。2月の時点では開発は完全に中断、従業員とその家族の安全の確保が最優先事項となり、やがて現地から脱出し、従業員の一部はウクライナ軍に入隊し、現在はチェコ・プラハに新たな拠点を構えて開発を継続している(キーウの拠点も引き続き残っており、多くの人々がいまも活動している)。その後も、ロシアのハッカーグループによるサイバー攻撃の被害を受けたり、開発者の一人が戦死したことが報告されるなど、そもそも開発が続行して発売日の目処が立っていること自体が奇跡といっても過言ではない状態が続いている。

S.T.A.L.K.E.R. 2 Dev Diary: Game Development During the War

 そのうえであらためて書いておきたいのは、「S.T.A.L.K.E.R.」自体は決して戦争を肯定したり、プロパガンダ的な側面を持つようなものではなかったということ。むしろ、「ゾーン」という極限状態の場所を舞台とすることによって、出身がほとんど意味をなさなくなった世界を描いた作品であるとも言える(作中ではロシア出身の人物と共に戦う場面もある)。一方で、同シリーズの中心にチョルノービリが存在しているのは、ただ安易に話題や注目を集めたり、衝撃を与えるためではない。

 チョルノービリで生きるということ。それが「S.T.A.L.K.E.R.」であり、『S.T.A.L.K.E.R. 2: Heart of Chornobyl』が待望される理由なのである。

S.T.A.L.K.E.R.: Legends of the Zone © 2024 GSC Game World Global Ltd. S.T.A.L.K.E.R.: Shadow of Chornobyl, S.T.A.L.K.E.R.: Call of Prypiat, S.T.A.L.K.E.R.: Clear Sky are registered trademarks of GSC Game World Global Ltd. All other trademarks, logos and copyrights are property of their respective owners. All rights reserved.

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