ホロライブの“ひと味違う”新グループ・ReGLOSSの四半期を振り返る(火威青/一条莉々華 編)
2017年9月にときのそらがニコニコ動画にて活動をスタートさせて以来徐々に影響力を強め、いまやバーチャルタレントシーンを代表する事務所のひとつとなっている「ホロライブプロダクション」。カバー株式会社が運営し、日本のみならず海外に特化した事務所も構え、現在総勢67名のタレント活動によって支えられている。
そんなホロライブでは、2023年9月には従来の活動や枠組みに囚われない「成長」「挑戦」をテーマに、新たなグループ・hololive DEV_IS(ホロライブ・デバイス)を新設。同時に、5人の所属メンバーからなるガールズグループ・ReGLOSS(リグロス)がデビューすることになった。
活動をスタートさせてからまだ半年にも満たないReGLOSSだが、「成長」「挑戦」がテーマなだけあって相応に濃いエピソードが続々誕生している。前回から2週続けて彼女らの活動を振りかえっており、2回目となる今回は火威青/一条莉々華の2名にスポットを当ててみよう。
ReGLOSSイチのギャップの持ち主・火威青
先に書いてしまうが、火威 青(ひおどし あお)はデビュー前に持たれていたイメージが、デビュー後の数ヶ月で一気に変わってしまったタレントである。
大きな変化にはファンも驚いたであろうし、なにより本人にとっても戸惑いがあったはずだ。とはいえ重要なのは、そのギャップこそが火威の魅力になりつつあるということ。まだ半年にも満たない間で激変した彼女のイメージや人となりを、今いちど追いかけてみよう。
ReGLOSSメンバー5人の初配信日となった2023年9月9日、その火蓋を切ったのが火威青だった。
青髪のウルフカット、縦縞のグレージャケットとすこし大きめの黒いスラックスを着こなし、身長は171センチと高身長。パッと見では男性タレントにもみえるような美形のビジュアルで、男装女子が好きなファンの心をバッチリ掴んだであろう。
さながらホストのようであるが、実際に男装ホストとして働いていたことがあるようで、本人の口調やスタンスからはさながら少女漫画のような「イケメンオーラ」「デキる雰囲気」が感じられた。
これはホロライブの先輩らも同じだったようで、デビュー前の特集番組や彼女の初配信を通して星街すいせいとさくらみこはかなり気持ちを昂らせており、「プリンス」などと評し、デビュー前後には火威を取り合うこともあった。
VTuberやバーチャルタレントの楽しみ方のひとつとして、アニメルックなビジュアルや事前に記されていたプロフィールから想像されるキャラクター性と、実際に活動を始めて明らかになっていく本人性、そのギャップを楽しむというものがある。
これは人づてに知り合うことになった人との付き合い方と同じく、「こういう風に他人からは教えられたけど、実際には◯◯だな」という風に、他人から伝えられて出来上がった人物像と、実際とのギャップを埋めていくようなものであろう。
王子様を思わせるイメージで、女性を手玉に取っていくような姿を想起されていた火威だが、実際の人柄は子どもっぽいところがあったり、おバカキャラな一面があったりと、180度異なる捉えられ方へと変わっていくことになる。
たとえばデビューして間もない時期、ホラーゲーム配信をしていたときの一件。巨大なムカデに追われる場面で「僕のリアルママはですね、オバケは怖くないけどムカデは怖いから、助けてもらえない」と話し出した。
その後、途中まで頑張ってみたものの「ママー! ママー! ムカデが出てくるけどちょっとだけお願い! 来て!」と母親を本当に呼びつけ、約40分以上に渡ってともにホラーゲームをプレイしたのだ。
しかも、火威は母親を配信に何度と無く登場させることになる。見ての通り、母親との仲は非常に良好である。
配信者当人とリスナーとの関係が重要であるライブ配信において、血縁の家族が登場することに対して、エンタメとして冷や水をかけられた気持ちになるという人は一定数いるだろう。それとは逆に、血縁の家族というゲストの急な登場を一種のハプニングとして楽しむ人も多いのも事実だ。
それぞれ良し悪しを兼ねているが、場合によってはある種のトレードが起きることになる。火威の場合、この日の配信では母親の登場というハプニングも込みでうまく盛り上げることができた。
だが、血縁の母親が登場し「ママー!」と大声で呼んだり助けを求めたりしたことで、前述の「イケメンオーラ」「デキる雰囲気」というイメージの根幹にあった大人っぽさが一気に減退し、いささか情けなさを感じさせる姿が強調されることになった。
その後にも垣間見える火威青の“カッコつかない”姿は、同期を応援するファンに留まらず、ホロライブ内の先輩・同期にも広まっていくことになった。なにより、火威自身が茶目っ気全開な配信をしかけていったことも重要なポイントだ。一例を振り返ってみよう。
配信開始直前、部屋のなかでカメムシと遭遇してしまい、イヤイヤながらなんとか捕獲して配信を開始するも、途中でカメムシが逃げ出してしまい、叫び声を上げながら追い出すところを実況する。
エアロバイクを漕ぎながら約1時間にわたって歌を歌ってみる。
「自分のチャンネルで初めて1対1でのコラボです!」と期待感を煽り、いざ登場したのが自分自身で、“火威”と“青”の1人2役で会話するという配信をする。
Chilla's Artがリリースしているホラーゲーム『誘拐事件』をプレイ中、計算問題を解くことになった火威。回答したはいいものの、トンチンカンな解答を出してしまい、リスナーのほうが怖くなってしまう。さらにその直後、採点をしてもらおうと「ママァー!」と母を呼び出す。
こうしてそのギャップあふれるキャラクターが徐々に広まった火威だが、ホロライブの外ではそれが彼女の武器になっていった。
ホロライブファン以外にもその魅力が広く知られるようになったのは、『VCR GTA2』に参加したことにあるだろう。招待制ゲームコミュニティ・VAULTROOMとプロゲーミングチーム・Crazy Raccoonが主催する『VCR』のイベントとして、昨年末に開催されたのが『VCR GTA2』だ。
火威は同期である一条莉々華とともに行動すると、ホロスターズ所属の先輩・アルランディスが経営するピザ屋に勤めるようになり、火威、一条、とおこ、昏昏アリア、まいたけ、遠藤霊夢、狂蘭メロコらと共に毎夜のようにピザを売りつづけた。
ギャングや警察が花形の役どころになりがちな世界観のなかで、一般市民・一般職を最初から最後までつづけ、店員全員が『Among Us』風の衣装を身に着け、陽気で快活なムードとコント芸で企画を盛り上げたのは印象的であった。
こういったムードの中心にいたのは店長・アルランディスにほかならないが、その明るく元気なムードを伝播させていったのは火威だったように思う。事を大げさにしてコント芸に持ち込む、その口火を切るのは2人のどちらかであり、その後は成り行きで面白いオチをつけてしまう。
それにくわえて、絵描きとしてのスキルを活かしたり、ホストらしい振る舞いでお客さんを楽しませたり、狙っていない天然ボケを炸裂させたりと、ロスサントス(『GTA5』の舞台)に集った住人たちとの交流を図っていく日々を送っていった。
結果的に、期間中に火威がおこなった配信の回数は15回を数えた。サーバーがオープンして最終日を迎えるまでは12日間であったが、日数よりも多く配信をしていたのだ。これは、彼女がこの企画を大いに楽しんだことを示しているだろう。
この期間について、「配信者として、VTuberとして、大きく成長したと思う」と言葉を寄せた火威。その後もピザ屋の面々とのコラボ配信は続けており、今後も長く関係はつづいていきそうだ。
こうしてみれば、彼女本人は「イケメンオーラ」「カッコいい青くん」を周囲にアピールしているが、むしろその人懐っこさや茶目っ気にこそ彼女らしさの本質が詰まっているようにみえる。