メタバースは人間をいかに創り変える? 稲見昌彦×バーチャル美少女ねむが考える「身体」と“アフターメタバース”の行方

稲見昌彦×バーチャル美少女ねむ対談

「私」という世界そのものに、他者を招き入れる

ねむ:先生はメタバースの今後をどのように考えていますか?

稲見:抽象的な言い方になりますが、それぞれのユーザーと一体化した主観的な世界(バース)を、主観的なままいかに他者と共有していくか、ということが重要になると感じています。自分の世界と、他者の世界との交差点をどうつくるか。そこがひとつのポイントだと思いますね。ねむさんが「想像と創造をインタラクティブにつなげる」とおっしゃいましたが、まさに想像を世界創造を介して他者と接続可能な表現メディアやコミュニケーションメディアとしてのメタバースです。

 メタバースではその気になれば、NPCに囲まれた自分だけの心地よい世界もつくれてしまいます。極端な話、死ぬまでそこに引きこもっていることもできる。しかし、だからこそ逆説的に、メタバースの普及は「人間にはどんな価値があるのか?」ということを、考え直す契機になるのではないでしょうか。

ねむ:世界と世界が交差する、というのはたとえばどんなイメージでしょうか?

稲見:他人の夢の世界に飛び込んでいく『インターセプション』という映画がありましたが、あんな感じでしょうか。各人のアイデンティティや創造性をそのまま反映したメタバースのなかに、他者をアバターとして招き入れることで、互いの人となりに文字通り直接触れていく。そんなコミュニケーションのスタイルも生まれるかもしれません。

ねむ:めちゃくちゃ壮大な話ですね……! 自分という世界を介してのコミュニケーション、か。メタバースの新たな可能性が垣間見えた気がします。

稲見:ねむさんはどう思いますか? メタバースが普及していくことで、「メタバース原住民」のみなさんが築いてきた秩序が崩れてしまうのではないか、といった危惧はありませんか?

ねむ:そういった意見の人も多いですね。ただ私自身は、メタバース内での経済活動がもっと活発化してほしいので、メタバース人口が増えることには賛成です。やっぱり人がいないと経済は回らない。お金の話をすると嫌がる人もいますが、メタバースを単なるゲームではない、本当の意味で「そこで人生を送ることのできる」もうひとつの世界にしたいのであれば、経済の話も避けて通れないと考えてます。

稲見:「お金」という言葉に反発を覚える人には「価値交換」という言い方をしてあげるといいかもしれません。現実の世界では、貨幣という形での価値の交換形態が幅を利かせていますが、それは貨幣が計量可能だからです。けれど私たちはボランティアであったり、プレゼントのような純粋な贈与であったり、実際にはもっとさまざまなかたちで価値を交換し合っています。あらゆる行動を計量可能なデータとして扱うことのできるメタバースであれば、現実よりもずっと豊かで多様な価値交換が可能になると思うんです。

 だからこそ「メタバース内にデジタル看板をつくって、広告出稿を募ります」といった、現実世界のビジネスをそのまま踏襲した安易なプロジェクトを目にすると、ガッカリしてしまいます。どうせやるなら、メタバースという新たな世界をテコにして、価値体系そのものを大胆にトランスフォーメーションしてほしい。それがメタバースに対する一番の期待かもしれません。

ねむ:身体感覚が変化すれば、価値体系も必ず変化しますよね。先生のお話を伺っていて、これからさらに大きな変化を迎えるであろうメタバースに、いまこのタイミングで関われていることが嬉しくなってきました。本日はどうもありがとうございました!

『自在肢』画像クレジット
東京大学先端科学技術研究センター身体情報学分野 稲見・門内研究室
東京大学生産技術研究所機械・生体系部門 山中俊治研究室
JST ERATO 稲見自在化身体プロジェクト

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