『スーパードンキーコング』への帰還、そして世界的な活躍へ デビッド・ワイズにとっての“ゲーム音楽”とは

デビッド・ワイズにとっての“ゲーム音楽”とは

 『伝説の騎士エルロンド』『バトルトード』『スーパードンキーコング』シリーズなどの音楽を手がけたゲーム音楽家、デビッド・ワイズの音楽や活動に迫る短期連載。

ゲーム音楽家活動36周年 『スーパードンキーコング』を手がけたデビッド・ワイズの足跡

本稿ではデビッド・ワイズの軌跡に迫る第1回目として、ゲーム音楽家としてのスタートからレア社での成長、独特の音楽性について考察する…

『スーパードンキーコング』の音楽はいかにして生まれたのか デビッド・ワイズの挑戦とキャリアの転機

ゲーム音楽家デビッド・ワイズの楽曲とその活動に焦点を当てた短期連載第2回。「スーパードンキーコング」シリーズの作曲挑戦とレア社の…

 前回はデビットのレア社からの退社までを追ったが、最終回となる本稿では、デビッドの新たな門出から近年の活動、そしてデビッドのゲーム音楽への情熱に迫る。

【目次】

■世界的なラブコール
■デビッド・ワイズ・リターンズ──『ドンキーコング トロピカルフリーズ』
■和風サウンドへの接近──『Tengami』
■かつての同僚たちが再集結──『Yooka-Laylee』『Tamarin』etc
■ワールドワイドな講演・音楽活動
■デビッド・ワイズにとって、ゲーム音楽とは

世界的なラブコール

 2010年3月15日、海外最大級のゲーム音楽アレンジ投稿サイト「OverClocked ReMix(OCReMix)」から、『スーパードンキーコング2』の非公式リミックスアルバム『Donkey Kong Country 2: Serious Monkey Business』がデジタルリリース(フリーダウンロード)された。OCReMixの第2弾企画として2004年にリリースされた『スーパードンキーコング』リミックスアルバム『Kong in Concert: Donkey Kong Country An Arrangement Collaboration』に続く同作には、『シャンティ』シリーズなどで知られるジェイク・カウフマン(virt名義)や、後に『ソウルキャリバーV』のオーケストレーション参加や『ララ・クロフト アンド テンプル オブ オシリス』の音楽を手がけるウィルバート・ロジェII(bustatunez名義)、後にTRANS-SIBERIAN ORCHESRAに参加するマルチミュージシャンのトニー・ディッキンソン(Prince of Darkness名義)など、数十名のリミキサー/ミュージシャンが参加。オーケストラ、アンビエント、トランス、ビッグバンドジャズ、ディスコファンク、ヒップホップ、プログレッシブ・メタル、ニューロマンティックなど、思い思いのジャンルと曲想でデビッドにトリビュートを捧げている。

 そして本作最大のトピックはデビッド本人の参加だ。レア社在籍時代に同僚を通じてOCReMixの存在とゲーム音楽のファンコミュニティの活況を知ったデビッドは「自分の楽曲が第2の人生を歩んでいる」と強く感銘を受けたという。デビッドの好意的な反応を知ったジェフリー・タウサー(『Serious Monkey Business』企画ディレクターの一人)は構想していたリミックスアルバムの企画をデビッドに伝え、デビッドはアルバムの最後を飾る「クレジット【Donkey Kong Rescued(Credits Roll)】」のリミックス「Re-Skewed」で快く応えた。「Rescue」と「Skew(斜めにする/歪める)」をひっかけたタイトルの同曲は、グラント・カークホープのギターとロビン・ビーンランドのトランペットがフィーチャーされ、最後はデビッドによるムーディなサックスソロで締めくくられ、新たな門出にふさわしいメモリアルなものとなった。

 2010年9月23日、任天堂のゲーム音楽に焦点を当てたオーケストラコンサート「Symphonic Legends – Music from Nintendo」(演奏:ケルンWDR交響楽団)がドイツ・ケルンで開催された。コンサートのプロデュースを務めたトーマス・ベッカー(Thomas Böcker)は、すぎやまこういち企画・監修の「オーケストラによるゲーム音楽コンサート」のコンセプトに深く感銘を受けた人物で、大編成オーケストラを伴ったゲーム音楽コンサートを海外で初めて成功させた第一人者として知られる。『スーパードンキーコング』からは「水中レベル WATER MUSIC【Aquatic Ambience】」が選曲され、編曲を浜渦正志(『サガ・フロンティア』シリーズ、『ファイナルファンタジーXIII』など)、ピアノ演奏をベンヤミン・ヌスが務めた。2011年6月1日には「Symphonic Legends」のセットリストをベースにした「LEGENDS」(演奏:ロイヤル・ストックホルム・フィルハーモニー管弦楽団)がスウェーデン・ストックホルムで開催され、「水中レベル WATER MUSIC【Aquatic Ambience】」が再演された。デビッドはトーマスから招待を受けて現地に足を運んでいる。長年の任天堂ファンであるデビッドは、『スーパーマリオ』『ゼルダの伝説』『スターフォックス』などに並んで自身の楽曲が演奏されたことに「夢がかなった」と感激をあらわにしている。

デビッド・ワイズ・リターンズ──『ドンキーコング トロピカルフリーズ』

 2010年12月9日(アメリカでは11月21日)、『スーパードンキーコング』シリーズのリブートとなる『ドンキーコング リターンズ』がWii用ソフトとして発売された。開発は『メトロイドプライム』シリーズを手がけたアメリカ・テキサス州オースティンのレトロスタジオ(任天堂の完全子会社)が担当し、『メトロイドプライム』三部作開発後に主要スタッフが退社し、今後の方向性を模索していた同社にとって心機一転の一作となった。社長兼CEOのマイケル・ケルボーは、Nintendo of America在籍時代に『スーパードンキーコング』シリーズの製品テストに携わっており、デビッドとも旧知の間柄である。

 過去の『スーパードンキーコング』シリーズの楽曲をしっかりと活かすという構想は『ドンキーコング リターンズ』の開発初期段階から宮本茂と岩田聡の共通認識としてあり、任天堂企画開発本部のベテランコンポーザーである山本健誌(『スーパーメトロイド』以降のメトロイドシリーズなどを担当)による音楽監修と、濱野美奈子、田島賢、後田信二、松岡大祐の音楽制作チームのもとに、旧作楽曲のリメイクと本作オリジナル曲にを統一感をもたせてもって仕上げ、新旧のプレイヤーに訴求するサウンドを目指した。「ジャングルレベル JUNGLE LEVEL【DK Island Swing】」は、よりプリミティブなアレンジがなされた「バナナジャングル」「パクパクパニック」や、ソロ回しを交えた渋めのビッグバンドジャズアレンジ「サンセット海岸」などで登場している。サウンドトラックは一部楽曲を収録したCD『DONKEY KONG RETURNS ORIGINAL SOUNDTRACK』がクラブニンテンドーの交換アイテムとして流通した(現在は入手不可)。

田邊 (前略)あと宮本さんから言われたのは、「音楽を変えないでほしい」と。それは宮本さんだけでなく、岩田さんからも言われましたよね。

岩田 はい(笑)。「音楽は大事にしてね」と最初のミーティングのときに、わたしも言った覚えがあります。実は、わたしのiPodには『スーパードンキーコング』のサントラが入っていて、いまでもよく聴いているんです。そんなことはあまり頻繁にはないんですけど、『スーパードンキーコング』のときは、すごく印象的な曲ばかりでしたので、サウンドトラックCDを買った覚えがあります。

 たぶん、スーパーファミコン版がたくさんの人たちに受け入れられた理由として、グラフィックがすごかったり、ゲームとしての面白さがあったことに加えて、あの音楽も含めてお客さんの心に刺さっていると思うんです。

★「社長が訊く『ドンキーコング リターンズ』「4. 手に汗握るアクションに」」
【任天堂公式ホームページ|2010年12月】
https://www.nintendo.co.jp/wii/interview/sf8j/vol1/index4.html

 2014年2月13日にはシリーズ続編『ドンキーコング トロピカルフリーズ』がWii U用ソフトとして発売。山本健誌が前作に引き続き音楽監修を務め、音楽制作にデビッド・ワイズ、濱野美奈子、松岡大祐、後田信二、田村理遊が参加。メインコンポーザーは、もちろんデビッドである。マイケル・ケルボーから連絡を受けたデビッドは、その後レトロスタジオで宮本茂、スコット・ピーターセン(『ドンキーコングリターンズ』音響監修)、山本と打ち合わせを行った。自分と同じくファミコン時代からゲーム音楽制作を続ける山本と自身の共通点(奇しくも、両人ともにキャリアのスタートは1987年である)を知ったデビッドは、ともに制作に携われることを心から光栄に思ったという。

 本作では多くのコースに固有の楽曲が用意され、コースの進行や環境の変化に応じてアレンジも変化するインタラクティブな趣向にも重点が置かれているため、シリーズ最大級のボリュームを誇る。楽曲制作にあたってデビッドは自身の生演奏とVSTインストゥルメント(ソフトウェア音源)の演奏を状況に応じてミックスし、かつて音源的制約のなかで生み出された『スーパードンキーコング』シリーズの楽曲を適切な形でアップデートしつつ、卓越したメロディセンスとアイデアあふれる完全新曲で衰え知らずのクリエイティビティを示した。デビッドのゲーム音楽家キャリアにおける一つの集大成といっても過言ではない内容だけに、サウンドトラックアルバムが制作されなかったのは誠に惜しまれる。

 さかのぼること約20年前、『スーパードンキーコング』開発初期の頃にデビッドが想定していたビッグバンドジャズスタイルは、「ジャングルレベル JUNGLE LEVEL【DK Island Swing】」をアレンジしたラビリンスステージ(Secret Temple)BGMやスタッフロールBGM、『ドンキーコング リターンズ』の「スリル!ギアフライト」をアレンジした「飛び出せ!チーズじごく(Rodent Ruckus)」(コース2−B)や「雪玉のどうくつ(Blurry Flurry)」(コース6-4)で存分に展開されており、ようやく本懐を遂げた感がある。

 「水中レベル WATER MUSIC【Aquatic Ambience】」は、「マングローブのいりえ・水中」(コース1-1)など、複数のアレンジが用意されている。多くはスーパーファミコン版の濃密なアンビエント感を踏襲したアプローチだが、トロピカルな曲調からアップテンポなアレンジに一転し、2D視点から斜め俯瞰視点に切り替わるコース演出と鮮やかにシンクロする「レフト・ライト・トロッコ(High Tide Ride)」(コース4-2)に組み込まれたり、『スーパードンキーコング2』の船底コースBGM「船ぞこダイビング【Lockjaw's Saga(Lockjaw's Locker)】」のアレンジとマッシュアップした「いかりの8本足・水中」(コース4−4)といった変化球も登場する。

 「洞窟レベル THE CAVES【Cave Dweller Concert】」のアレンジ「ツタがだらりん 水もれどうくつ(Crumble Cavern)」(コース2-A)は、環境音やシンセサウンドが空間を覆い、ささやかにメロディが顔を覗かせる。幽玄な環境音楽として完成された仕上がりだ。「とげとげタルめいろ【Stickerbush Symphony(Bramble Blast)】」のアレンジ「月夜の巨大魚(Savannah Symphony)」ではフルートがフィーチャーされ、楽曲のイメージに新たな広がりを与えている。スタッフロールBGMの後半で登場するアレンジは、デビッドのサックス演奏がライブ感たっぷりにリードしていくという点でも聴き逃がせない。レジェンドコンポーザーのシリーズへのカムバックを感慨深く印象づけている。

 裏打ちのリズムに乗せてギター、フルート、スティールパン、サックスが代わる代わるリードし、ジャムセッション感を演出する「きりの森(Busted Bayou)」(コース1-B)や、カントリースタイルのコードを試行するうちに多彩なギターサウンドで高揚感をもたらす曲想に発展していった「おち葉まう風車の林(Windmill Hills)」(コース2-1)、オーストリアの伝統音楽から着想を得たアコーディオンのメロディにエレクトロサウンドをミックスした「バンチバルーンブリッジ(Alpine Incline)」(コース2-5)、雄大なパーカッションサウンドとシンセサイザーの低音のうねりが絡み合い、燃え盛るコースをスペクタクル感たっぷりに表現する「ヘルファイアサバンナ(Scorch 'n' Torch)」(コース3−4)などの楽曲は、ハイブリッドなアプローチの好例といえるだろう。アフリカンヴォーカルのサンプルや任天堂スタッフによるコーラス(メニュー画面BGMでも耳にすることができる)を活用した「サバンナパレード(Grassland Groove)」(コース3-1)は本作随一の躍動感あふれる楽曲だ。

 「しんぴの深海(Amiss Abyss)」(コース4−3)は、アコースティック楽器の音色がたゆたいながらメロディの良さを際立たせてゆく。シンプルで奥深い、水中BGMの新たな名曲だ。「きょうふのスーパースライサー(Fruity Factory)」(コース5−3)は、マリンバを主体としたパーカッシブで透明感あふれる曲調に差し挟まれる口琴風の低音の持続音がミステリアスなアクセントを与えている。アコースティックギターとコーラスの響きが織りなす神秘性や、すべてを包み込むかのようなスケール感に心洗われる「いてつくビーチ(Seashore War)」(コース6−2)は、デビッドが制作中に会心の手応えを感じ、お気に入りの一曲として挙げる。初期のバージョンではサバンナアイランドでの使用を想定していたという点も興味深い。

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