連載:作り方の作り方(第五回)
違和感を大切にしないと「面白い」から遠ざかる 放送作家・白武ときお×『オモコロ』編集長・原宿がいまの時代に「面白さ」を見出すもの
「暇」の肯定
白武:『オモコロ』の人たちってもっと良くなりたいとか、上昇志向はあるんですか?
原宿:さっきも言ったんですが、頑張り始めた人の足を引っ張るというイヤな組織なので……。それは冗談ですが、頑張っても頑張らなくても結果はそんなに変わらない気がするから、とりあえず息切れしないように今できることをやろうってムードかもしれないですね。
白武:更新し続けられる場所だと、短距離の結果も欲しいですが長く走れることのほうが大事ですよね。やる気がある人が出てきて、うまくいったらリーダーになって「やる気を出していこうよ」みたいに言い出してもおかしくないのでは?
原宿:そんな圧力には負けたくない! ただまぁ、他のメンバーは分かりませんが僕自身にはあんまり上昇志向がないですね。何千万稼いでも、「吉野家って結局美味いよな~」って言ってるところが想像ついちゃうんで、生活レベルを上げようみたいな方向の興味が出ないのかもしれないです。
白武:たとえば都会の中心に住みたいとか、広い家で暮らしたいとかにならないんですかね?
原宿:住んだことない人間が言ってるだけなんですけど、広い家って怖いんですよね。他の部屋に誰かいても分からないというか。変なところで虫めっちゃ生まれてたらどうしようとか。人間の認知できる家の広さって、3LDKが限界なんじゃないでしょうか。ヒカキンの新しい家とか見てると、「こんな家、掃除できないだろ。家の全部のカドにホコリ溜まってるの見たらストレスで死んじゃうよ」って怖くて仕方ないですもん。
白武:そのレベルで大変な広さの家に住んだら家事代行業者とかに頼むんじゃないですかね。
原宿:ああ、そうか。たしかに! でもやっぱり怖いです。あと昔から、いまを楽しく生きてたらもういいかなみたいな感じなんです。将来的にこうしたいみたいな感覚がいっさいないんですよ。とりあえずこの瞬間を生き抜いて、死ぬときが来たら死ぬ、みたいな。
白武:その考え方ってどこから来てるんですか?
原宿:僕はスチャダラパーがすごく好きで、1993年に「ヒマの過ごし方」って曲が出たんですけど、それに創作面でもすごく影響を受けてます。
歌詞を要約すると、暇であることって世間的には非生産的な状態だから良くないって思われるけど、はたしてそうだろうかと。人間っていうのは暇な時間があるおかげで楽しく、文化とかも生みながら過ごしてこられたんじゃないかと。
それを聴いたときに、「暇って肯定して良いものだったんだ」とカルチャーショックを受けて。昔はなんか学校行って、会社に入って、家族を持って……ってみんなと同じ人生じゃないと多分よくないんだろうなぁと漠然と思っていたけど、暇だったとしても自分のなかで自分を肯定できたらアリなんだなと。そしたらなんでもアリに思えちゃった。
スチャダラのおかげで上昇志向がなくなって、別に生きてればなんでもいいかと思えるようになったんだと思います。
白武:暇でいえば、『ONEPIECE』の尾田栄一郎先生が昔『MEN'S NON-NO』のインタビューで「マンガはヒマ潰しキングであればいいと思っている」と話していて。僕はそんな尾田先生のおかげで楽しく時間を潰せているわけで。他にも映画とかお笑いとか、そういうもののバトンを勝手に受け取って、誰かが楽しく時間を潰せるような大河の一滴となれればなという思いがあります。
原宿:それはいい考え方ですね。
白武:世の中はもう面白いものが溢れかえっているから作らなくてもいいんじゃないって思ってた時期もあったんですが、世の中の価値観がアップデートされ続けていくのを感じて、そこに合うものを新たに作る意味があるんじゃないかと最近思い始めました。そういう上昇志向を持っています。
原宿:そうか、そういう上昇志向もあるのか。僕にない視点だったな。頑張らなきゃ……。
白武:いえいえ、楽しんで過ごしてください。これからもオモコロ楽しみにしてます!
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