連載:作り方の作り方(第五回)
違和感を大切にしないと「面白い」から遠ざかる 放送作家・白武ときお×『オモコロ』編集長・原宿がいまの時代に「面白さ」を見出すもの
『オモコロ』はどんな体制とポリシーで作られているのか
白武:『オモコロ』は記事コンテンツやYouTube、ラジオなどいろいろ取り組まれていますが、そもそもどのような体制で運営されているんですか?
原宿:僕は記事コンテンツの編集長で、それ以外にも動画部署、イベント部署とか細かく責任者とチームを作って分業しています。ただ「記事の人は記事だけ!」とかそういうことでもなくて、ゆるく横断しながら手の足りないところをケアしつつなんとなくやってますね。
運営会社のバーグハンバーグバーグは社員が20人くらいいて、レギュラー的に書いてくれている外部のライターさんが40人くらい。少しだけ書いたことがあるくらいの人も含めると100人くらいいるのかなと。
白武:そんなにいるんですね!
原宿:たとえば『匿名ラジオ』のふたり(ARuFa、ダ・ヴィンチ・恐山)はもともと書き手として人気があって、今はラジオやYouTubeなどでも活躍している。僕も最近はYouTubeなどにも出演しますが、もともと動画で喋るような人間ではなかったので、その人間がそこそこやれていると、みんなももっとできるぞ! という気持ちになりますね。実は動画に出たらめちゃくちゃ面白い人って数限りなくいるのかもしれない。
白武:でもそんなにいろんなプラットフォームを運営するのは大変ですよね?
原宿:そうですね。実際、みんなが常に書いているわけじゃないので、わりと記事はカツカツです。それでも「頑張らない」意識が強い会社なので……。
白武:カツカツでも、頑張らない。
原宿:みんなで見張り合ってますからね。誰かが何か頑張ろうとしてたら「アイツちょっと頑張ろうとしてるんじゃないか?」って(笑)。でも、やる気を出しすぎて燃え尽きちゃうのも怖いので。結局は長く続いたもん勝ちだと思っているところがあるので、短期で負荷をかけるよりも自分が無理なく続けられそうなことを選んでしまいますね。
白武:続けるのは本当に難しい。原宿さんは編集長として、ご自身はリーダーシップがある方だと思いますか?
原宿:どうだろう、あんまりないかもしれません。でも同じことを続けるのに向いている人間だなと自分で思います。あとは「読み手向き」というか、コンテンツに対して自分が面白がりたいという意識が強いので、読み手としてもっと楽しみたいからもっと作りたい! と感じてるところはありますね。
自分なりの感覚を持っていないと「取られていく」
原宿:最近の「面白さ」って、人の現状認識にすごく深く関わっているんじゃないかと思うんです。面白い人って「いま、自分はこう思っている」というようなことを誤魔化さないというか。そういう感情があることを認めた上で、なんかやらなきゃなと思っている。それは「面白さ」にすごく近いところにいると思うんです。
白武:自分の率直な気持ちを、ないものにしない。
原宿:たとえばコミュニケーションの中での違和感とかも、それをジャッジするんじゃなく「その違和感って人によって捉え方が違って面白いよね」みたいな感覚でしかないと思うんです。なんでもかんでも正解ばかり求めていったら、けっこうキツい世界になっちゃうんで。
白武:数年前がより正論ブームだったように思いますね。自分のタイムラインによるんでしょうが、2016年ごろとかはリア充とかラベリング的なことを面白がっていても批判的な意見がそこまで多くなかった気がします。
原宿:インターネットの参加者も増えてきて、一方的な意見への疑問を投げかける機会も増えてきたから、いま、本当に面白さがどんどん「重なって」きていると思います。最近は「あるある」の手前の違和感を言語化できる人が、すごく面白いと思いますね。記事や動画のネタでも違和感をきっかけにしたり、あとは分からないことを「全然分からない」と言う素直さとか、そういうことが「面白さ」において大事だなと思います。
白武:ぼくは違和感に思うことがあっても発信しないですね。ネットに思いを載せて共感して欲しいとかウケたいみたいに思わなくて。間違ってとられたりしたら怖い。心がザワザワしたくない。
原宿:いや、そうなんですよ。だからこういうインタビューとかも怖いですよね。自分が思っていることなんてどんどん変わっていくし。それにインタビューってなんだか考え方を理路整然としゃべっているように見えちゃうし。
白武:その日のテンションでしゃべってるようなこともありますからね。なにか事件があれば価値観も一変したりするし。
原宿:そう。だからこの記事になにか意味を見出されたりするのは怖いし、自分で読み返しても「いまはもうそんなこと思ってないんだけど」と思ったりもして、恐ろしいですよね。こんなに怖いんだから、インタビューをしているだけで褒めてほしい。
白武:この対談はお会いしたい人とお話できるのが楽しくてやってて、記事だからある程度まとまった文章量があるのでいけるんですが。ずっと熱量高くSNSを続けている人はすごいなと思います。自分の意見を発信しよう、楽しませようという姿勢とか、行動が。
原宿:分かります。昔よりも「バズるのって恥ずかしい」みたいな時代に突入している感覚はあるんで、別に無理して発信しなくてもいいとは思います。でも、やっぱり自分が覚えた違和感みたいなものは、発信しないとしても持っておいたほうがいいと思うんです。じゃないと、どんどん「取られていく」というか。
白武:自分が取られていく…。
原宿:すぐに空白の場所になにかを書かされる感覚とか、悪目立ちしてるだけの人を中心にした議論とか、どこにふるさと納税をすればいいとか、そういうので時間を使わされるのが一番面白くない。そんなことより、自分がなにに違和感を覚えたとか、心が動いたとか、そういうことをいちいち考えていったほうが面白さに近づいていくのかなって。
白武:自分が思う純度の高い面白さでウケたり、ウケなくてもその姿勢を続けるのってタフですよね。つい低きに流れて安直な手を使いたくなってしまう。
原宿:なんかたぶん、いまはお笑い的な文脈だけでいくよりも、もっといろんな考え方を自分のなかに入れていこうって方に向いてると思うんですよね。だからいろんな人の考えや視点をうっすらと世の中に広めていくにはどうしたらいいんだろう、みたいなことに意識が向いています。