プロ向けのクリエイティブソフト「Affinity」が解決した“無駄な往復”とは? 開発元CEOに聞く「買い切り制」を採用する理由
「Affinity」が解決したクリエイティブソフトの”無駄な往復”
ーーSerifという会社の概要、「Affinity」の3つのソフトウェアが生まれた背景、そして「Affinity」というソフトが達成したいミッションがあったらお聞かせください。
Ashley:我々は1987年に設立して36年間、DTP関連のソフトウェアを開発・提供しています。設立当初はホビー(趣味)でDTPを扱うユーザーを対象にした、Windows用のアプリケーション・ソフトウェアをリリースしていました。長期間提供していた製品もいくつかありましたが、いまから12年前の2012年、過去に開発したソフトを捨て、プロダクトを刷新・移行しようと考えました。その理由はいくつかありますが、1つは過去に書いたコードの多くがレガシーなWindows OSのライブラリに依拠していたことです。また、こうした古いソフトが活躍していた時代には「マルチコアCPU」や「GPU」というものは存在していなかったため、現代のハードウェア・アーキテクチャの進展に合わせて旧来のソフトウェアを書き直すことは非常に大きな労力を要することがわかったんです。そこで、既存のコードを直すのではなく、新たにソフトを開発することにしました。この選択には「賭け」の部分もありましたが、こうするのが一番良いと考えたのです。これが『Affinity』誕生の背景です。
開発に当たっては、それまでの我々が作っていた趣味的なソフトではなく、全く新しいプロフェッショナル向けのソフトウェア・スイーツを作ろうと考え、はじめに2014年にリリースしたのがMac版の『Affinity Designer』です。その後『Affinity Photo』、『Affinity Publisher』とリリースを重ねてきました。
ーー改めて、『Affinity Designer』、『Affinity Photo』、『Affinity Publisher』の特徴を教えてください。
Ashley:『Affinity Designer』はベクターベースでデザインをしていくソフトです。オブジェクトのサイズを拡大・縮小したり、ドローイングを描いていくようなシーンで活躍します。『Affinity Photo』、こちらはフォトエディターの機能が揃っており、ラスターデータの編集が可能です。『Affinity Publisher』は印刷物をふくめたさまざまなフォーマットの画像を作っていく、ページレイアウトのソフトです。
「Affinity」の特徴として、「マルチプラットフォーム」が挙げられます。ソフトはmacOS、Windows、iPadOSで動作しますし、非常に高速・軽快です。これらのすべての環境で同じフォーマットのファイルを使うことができます。ソフト間のファイル互換性も保たれているため、自由にアプリケーションを切り替えることが可能です。
また、特に独自性が高いのは「ペルソナの切り替え」機能でしょう。たとえば『Affinity Designer』は基本的にベクターデータの編集ソフトですが、ラスターデータを開いてピクセルブラシでテクスチャーをつけることもできます。こうした作業は従来ベクターデータの編集ソフトでは対応の難しい部分でしたが、「Affinity」ではペルソナを切り替えることで実現しています。
ーー「マルチプラットフォーム」を実現することとソフトウェアが高速に動作することは両立が難しそうですが、実際に「Affinity」を使ってみると複数の環境で非常に軽快に動作して驚きました。
Ashley:「ユーザーの体験、エクスペリエンスを向上するようなソフトウェアを提供すること」がAffinityのミッションであり、そのためには快適な操作性と多様な選択肢を提供していくことが必須です。マルチプラットフォームにおける高速性を実現するために、我々は「シングルコアテクノロジー」を開発しました。macOS版、Windows版、iPadOS版、それぞれプラットフォームは異なりますが、内部ではすべてのソフトウェアが同一のコアで動作しています。これはマルチコアCPUやGPUに対しての最適化を目的として開発した技術であり、OSの違い、特にUIのレイヤーに依存しない高速性を実現します。
また、AppleやIntel、Qualcommといったチップセットメーカーとも非常に近い関係性を持ちながら、チップセットの機能を最大化するソフト開発を行っています。こうした高速化には「OpenCL」や「Metal」のようなAPIを使ったハードウェアアクセラレーションを活かすことが必要ですが、Serifはクリエイティブソフトウェア業界でハードウェアアクセラレーションを活用してきた一番古い会社の一つだと自負しています。Appleのプラットフォームを例に上げると、近年のMac・iPadが採用しているM1・M2といったプロセッサはCPUとGPUがメモリを共有しており、APIをうまく活用することはますます重要でしょう。
ーー「ペルソナの切り替え」機能も非常にユニークです。
Ashley:ファイルが高い互換性を保っておりプラットフォームやソフトを問わずに使えることや、単一のソフトが複数のペルソナを備えており、複数のアプリケーションをいちいち起動することなく、ペルソナを相互にスイッチしながら使っていけるというスタイルは、クリエイティブソフト業界ではおそらく唯一のプロダクトですし、この独自性は大きな強みだと考えています。
たとえばなにか、パンフレットのようなものを作っているとしましょう。そこには写真や絵があって、文章も載っている。こうしたものを我々の製品で作るなら、『Affinity Publisher』を使うのが最適です。制作中には「写真を少し編集したい」「ロゴのパスを編集したい」というような細かい仕事が出てくるものですが、そういうときは『Affinity Publisher』を「Photoペルソナ」「Designerペルソナ」にそれぞれ切り替えてあげれば、新たにソフトを起動しなくても編集できます。編集が終わったらペルソナを「Publisherペルソナ」に切り替えて、また元の作業にもどれば良いのです。
これは従来のユーザーが慣れていたようなやり方とはまったく異なるスタイルですから、世界の見え方が変わってしまうと思います。従来ですと「編集をしていったん写真をJPEGで保存して、フォルダに入れて、それをまた別のソフトで読み込んで、また開いて、それをまたフォルダに保存して……」と、ぐるぐるとアプリケーションを往復することが求められましたが、「Affinity」にはこうした"無駄な往復"は必要ありません。クリエイティブソフトの大きな課題を、我々のソフトウェアがすでに解決してしまったのではないかと考えています。
「日本市場の急成長は予想外だった」 縦型への対応も開発中
ーーSerif社では日本市場をどのように捉えていますか? また日本のユーザーの特徴はありますか?
Ashley:日本では過去2年間すごい勢いで「Affinity」のユーザーが増えており、とても驚いています。現在、我々にとって日本は米・英・独に次ぐ4番目に大きな市場です。日本と他国では、使われるツールにはあまり違いはないものの、ユーザーが作るアートやイラストレーションは非常にユニークで、日本独特のものを作るユーザーが多いと感じています。一番人気のソフトウェアは『Affinity Designer』で、他国と比べてiPad版のユーザーの割合がかなり高いことも日本市場の特徴です。
ーーアジア圏のDTPでは「縦書き」がほぼ必須ですが、現在「Affinity」は対応していません。特に『Affinity Publisher』が縦書きに対応すれば大きな反響があるかと思いますが、将来的に対応する予定はありますか?
Ashley:我々も「縦書き」への対応が必要だと認識しており、すでに改善のために開発を進めています。正直に申し上げると、現在の日本市場の急成長は我々にとっても予想外のことで、とても驚いています。縦書きや「ルビ」などをサポートできるよう、現在テキストエンジンの開発を進めています。
ーーこれから『Affinity』の世界を楽しもうという日本のユーザーにメッセージや、なにかおすすめの機能があったら教えてください。
Ashley:まずは我々のソフトウェアを試してみてください。それが一番です。30日間の無料試用版もありますので、使っていただければきっと気に入ってもらえるはずです。日本の市場では特に『Affinity Designer』が人気を獲得していますが、やはりベクター・ラスターデータをシームレスに使えるということが人気の理由だと考えています。同じ画面上・同じレイヤーでこうした編集ができるのは画期的です。
『Affinity』が「買い切り制」を採用する理由
ーー無料試用版ではすべての機能が使えますし、近年珍しい「買い切り制」のソフトであることも特徴的ですね。
Ashley:「無料試用版」は我々が製品に非常に自信を持っていることの表れです。実際に使って、それを気に入ったユーザーに購入してもらいたいので、機能制限もない完全なバージョンを提供しています。
サブスクリプションではなく買い切り制を採用している理由としては、我々の対象ユーザーはソフトを「所有」することを好むだろうと考えているからです。たとえば、サブスクリプションのソフトウェアに5年間お金を払い続けていたのに、たった1カ月払うのを止めただけで「そのソフトウェアは使えません」となってしまうのは、すこしおかしいんじゃないかと思うんです。なので我々のライセンスは買い切り制を採用し、恒久的に使えるものにしています。
つい最近ではバージョン2.2を提供しました。こちらはバージョン2のマイナーアップデートであり、バージョン2を所有しているユーザーには無料で提供されます。将来的には3.0をリリースすることになると思いますが、2→3のようなメジャーアップデートの際には別途購入していただく必要があります。もちろん、前のバージョンを使い続けることは可能です。
ーーちょうどお話が出たので、直近のアップデートであるバージョン2.2についても教えてください。
Ashley:2.2では新しいクロスリファレンスモードやビューモードを搭載しました。我々はマイナーアップデートでもかなり多くの、一つのソフトウェアを提供できるぐらい多くの機能を追加しています。
ーー次期アップデートはバージョン2.3になるかと思いますが、2.3、あるいはその後のアップデートではどういった機能の追加が予定されていますか。
Ashley:年末までには2.3をリリースする予定です。具体的に実装する機能についていまお伝えすることは出来ませんが、将来実装する機能としては「クラウドサービス」を提供する予定があり、これによってツールアセットやカラーパレットなどをデバイスを越えてシェアできるようになります。
また、将来実装する予定の機能として、AIを使った機能があります。実は2年ほど前からAI専門のチームを作って作業を進めており、我々も興奮するような機能が生まれつつあります。ユーザーの皆さんにもきっと驚いてもらえる、素晴らしいものになるはずです。
いずれの機能についても、おそらく3カ月〜6カ月後にはなんらかの発表ができると考えています。楽しみに待っていてください。
■製品情報
『Affinity Designer2』
Mac
対応OS:macOS Ventura 13、macOS Monterey 12、macOS Big Sur 11、macOS Catalina 10.15
必須スペック・動作環境:
・Mac Pro、iMac、iMac Pro、MacBook、MacBook Pro、MacBook Air、Mac mini
・Appleシリコン(M1/M2)チップまたはIntelプロセッサを搭載したMac
・8GB以上のRAM推奨
・最大 2.8GB の利用可能なハード ドライブ スペース(インストール中はさらに必要)
・1280x768以上のディスプレイサイズ
Windows
対応OS:Windows® 11、Windows® 10の2020年5月のアップデート(2004、20H1、ビルド19041)またはそれ以降
必須スペック・動作環境:
・マウスまたはこれに相当する入力デバイスを備えたWindowsベースPC(64ビット)
・ハードウェアGPUアクセラレーション
・少なくともDirectX 10互換のグラフィックスカード
・8GB以上のRAM推奨
・1GBのハードドライブ空き容量(インストール時はそれ以上の容量が必要)
・1280x768以上のディスプレイサイズ
・Direct3Dレベル12.0対応カード
『Affinity Photo2』
Mac
対応OS:macOS Ventura 13、macOS Monterey 12、macOS Big Sur 11、macOS Catalina 10.15
必須スペック・動作環境:
・Mac Pro、iMac、iMac Pro、MacBook、MacBook Pro、MacBook Air、Mac mini
・Appleシリコン(M1/M2)チップまたはIntelプロセッサを搭載したMac
・8GB以上のRAM推奨
・最大 2.8GB の利用可能なハード ドライブ スペース (インストール中はさらに必要)
・1280x768以上のディスプレイサイズ
Windows
対応OS:Windows® 11、Windows® 10の2020年5月のアップデート(2004、20H1、ビルド19041)またはそれ以降
必須スペック・動作環境:
・マウスまたはこれに相当する入力デバイスを備えたWindowsベースPC(64ビット)
・ハードウェアGPUアクセラレーション
・少なくともDirectX 10互換のグラフィックスカード
・8GB以上のRAM推奨
・1GBのハードドライブ空き容量(インストール時はそれ以上の容量が必要)
・1280x768以上のディスプレイサイズ
・Direct3Dレベル12.0対応カード
『Affinity Publisher2』
Mac
対応OS:macOS Ventura 13、macOS Monterey 12、macOS Big Sur 11、macOS Catalina 10.15
必須スペック・動作環境:
・Mac Pro、iMac、iMac Pro、MacBook、MacBook Pro、MacBook Air、Mac mini
・Appleシリコン(M1/M2)チップまたはIntelプロセッサを搭載したMac
・8GB以上のRAM推奨
・最大 2.8GB の利用可能なハード ドライブ スペース (インストール中はさらに必要)
・1280x768以上のディスプレイサイズ
Windows
対応OS:Windows® 11、Windows® 10の2020年5月のアップデート(2004、20H1、ビルド19041)またはそれ以降
必須スペック・動作環境:
・マウスまたはこれに相当する入力デバイスを備えたWindowsベースPC(64ビット)
・ハードウェアGPUアクセラレーション
・少なくともDirectX 10互換のグラフィックスカード
・8GB以上のRAM推奨
・1GBのハードドライブ空き容量(インストール時はそれ以上の容量が必要)
・1280x768以上のディスプレイサイズ
Affinity公式WEBサイト:https://affinity.serif.com/ja-jp/
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